アトリエ・ドゥ・テテ

崎 享 氏

フランス料理のシェフを目指して調理師学校に行っていました。そこで、アメ細工の講習があった。「うまいじゃないか」という先生の言葉がきっかけです。誉められてその気になってしまったというか…、そのままお菓子の道に入りました。

最初は高円寺のお菓子屋さんで、そのあと、現在『ル・ショワ』という名で知られる和光のお菓子店、当時は『ジェイランクス』といったのですが、そこに4年いました。その後、小田原のお菓子店『ブリアン・アブニール』に、そして渡欧。ルクセンブルグ、ベルギーで感じたのは、お菓子というものが人々の中に深く入り込んでいること。食べることへのこだわりが、日本とは違います。友達が集って何かお菓子を食べると、誰からともなく、このお菓子の味はどうだとか、俺はもっとこういう味が好きだ、とかいう会話になる。それがとても自然なんですよね。それから、向こうの職人はお菓子の型から自分で作っていて、職人のそんな姿は日本では見たことがなかったので驚きました。

ちなみに、最初はアメ細工がきっかけで進んだ道ですが、すぐにそういう技術への熱は冷めてしまいましたね。やはりお菓子は『食べる』もの。だから、美味しさのほうを追求したいと思ったのです。

帰国して、都内のレストランでお菓子を作ったりしていましたが、やはりすべて自分の思うようにはやれません。そんな葛藤と、自分の店をいつかは・・という気持ちとで、99年にこの店を出しました。

ショーケース、小さいでしょう。実は、ケーキを売るというより『技術』を売りたいと思って店をやっているんですよ。現在、通常の営業をしながら、週3回のお菓子教室をこの厨房でやっています。最初から教室をやることを考えていたので、山の手線の駅で、地下鉄も乗りいれている交通の便のよい場所をと、ここ池袋を選びました。実際に、地元の人でなく離れたところから来る人がほとんど。遠くは静岡、宮城まで生徒さんがいます。物事なんでもそうですが、最初に失敗すると、「お菓子作りって難しい」ってなってしまいますよね。でもほんとは決して難しくない。きちんと素材の役割を知っていれば失敗することなんてない。それを多くの人にわかってもらえたらと思いますし、せっかくこうして食に関わる仕事をしているだから、少しでも多くの人の食に対する意識を高められたらという思いもあります。

作るお菓子は『適材適所』がモットー。素材をよく知り、組みあわせていきます。20数種類ある生菓子ですが、入れ替わりは激しいですよ。ケースの中はメニュー提案。ケーキの形、飾り付けも提案の一つです。今後は、店にパソコンを置いて、インターネットでお菓子教室が出来たらいいなあなんて思っています。ますます、店のお菓子を売ったり食べるスペースは小さくなってしまいますが、いまよりもっと、技術を売るほうに比重を傾けて行きたいと思っているんです。
取材日 2001年1月


崎さんの秘密