今でこそ一般に知られるようになってきた『ショコラトリー』と呼ばれるチョコレート専門店。
昨年秋、代官山にオープンしたベルアメールもそのひとつである。


「出身は神奈川県の川崎です。小学校の頃から作ってみることが好きでした」

小杉シェフのそんな思いは、高校生の頃に『フランス料理のコックさんになりたい』という想いを抱かせる。だが、その時点では洋菓子やパティシエのことはまったく意識していなかったという。

「それまでは大手以外に洋菓子専門店があることすら知らなかったんですよね。仕事場の近くにある洋菓子屋にたまたま入り、洋菓子だけで店が成り立っていることにびっくりした、それが第一印象です」

フランス料理店で料理の盛り付けやデセールの勉強を担当する小杉シェフにとって、デセールの部分だけが独立して成り立っているのが不思議に思えたのだという。

     

洋菓子店の存在とおいしさの魅力に惹かれていく小杉シェフ。給料が出るたびにケーキを買い行くようになり、ついには本格的にパティシエの道を選ぶことになる。
葉山でパティシエとして4年間を過ごし、約1ヶ月の予定でヨーロッパへ。

「そこで出会ったのがショコラ。メゾン・ドゥ・ショコラのボンボンをはじめて食べたときには、あまりにも口溶けが早すぎてこれは一体何なんだ?と感じたんですよ。実際、何の味かわからなかった。今まで自分がやっていたショコラはなんだったんだろう、と感じました。日本にはまだない、そして洋菓子の先にあるショコラ。これだ!と思いました」

自分のスペシャリテを探したい、そう考えていた小杉さんの心にショコラはまさに捜し求めていたものだった。

「パリから始めヨーロッパ中でショコラを食べたんです。土地性もあり、おいしさもそれぞれ違う。でも日本では味わえない作り立てのおいしさをいつも感じていました。こういうものを作りたいと強く感じたんです。また、ヨーロッパの人にとってショコラは意識に深く根ざしているもの。特別な存在なんですよね。おみやげにもって行くと、子供からお年寄りまで家族みんながものすごく喜んでくれるんです。それが忘れられなかったですね。他のお菓子とは別格のみんなが幸せになれるもの、そういうものって少ないなと思って」

日本にはまだないおいしいもの、それを絶対に作りたいという想いを胸に帰国。さっそくショコラの勉強すべく専門の店に入った。約3年間、しっかりショコラを学んだ小杉シェフは、店のショコラを全部任されるまでになっていた。そして、念願のフランスへ。

「ショコラのことをしっかりわかった上でフランスへ行ったというのは、非常に大きかったと思います。製造のことを学ぶのではなく、素材の引き出し方や、商品開発などさらに上のレベルを勉強できた。でも実はフランスに行っている間も、日本の仕事を掛け持ちしていたんです。店のショコラは全部自分が作っていたので、誰にも任せられない。つまり、なくなると日本へ戻るという生活。約2年間行ったり来たりという生活でした。ヴァレンタインのために日本へ帰って、フランスへ戻るとちょうどパックの準備が始まる‥。短いけれど、密度の濃い有意義な時間でした」


そして昨年、念願の自分の店をオープン。

「まずアトリエと併設というのが第1条件でした。そして、ショコラが似合う街ということ。僕の考えるショコラティエというのはパティシエとは同じにならないもの。実際はケーキも作っていますが、あくまでショコラを作る店にしたい。ですから、ショコラに必要のない熱、湿度、そして粉、これは絶対にショコラと一緒にならないようにしています。

ショコラは2Fのアトリエで作り、オーブン(熱)は1Fに置いています。あくまでショコラのための店、海外の有名店と肩を並べるためにもそこまではやらないといけない、そう思っています。」

きっちりしたクオリティを出す、というポリシー。ショコラをよく知り、そして神経を使う小杉シェフが絶対に譲れない点だ。




経歴よりも味で勝負したいと語る小杉シェフ。

「私が作るのは、日本人が作るショコラとしての表現。日本で食べていただくのだから、旬の味覚を大切にしたいと思っています」

ベルアメールには四季に合わせて約10種類の旬の味が並ぶ。ヨーロッパの文化であるショコラが日本のエッセンスを取り入れて花開く。その日本人の感性は、外国人のお客様にも非常に喜ばれているという。

「秋には栗、そしてちょっとコクのあるもの。夏はさっぱり、というように求める味は変わってくると思うんです。ショコラティエのショーケースと言うのは動きの少ないもの、そこに自分のメッセージや感性をぶつけたいと思っています」

     

だが、パティスリーと違いショコラトリーでは季節によって商品を入れ替えるというのはかなり難しいこと。どういうものにするか、何ヶ月も考える。

「素材を決めたら頭の中でずっと考えているんです。試作はしない。頭で100%味のイメージが固まってから、試作。その時点で味は完全に決まっているので、試作は微調整の2,3回です」

料理を目指していたこともあり、インスピレーションは素材から。しかし、あくまでもショコラよりは目立たないようにと心がけているという。

「レシピはあってないようなものです。自分の頭の中にある味というのは、素材の味によって変わってくるもの。料理に近いでしょうか、ソースを作る職人ソーシエのような感覚です」

口に入れた瞬間の香り、溶けていく味わい、そして後味にメッセージを込める。

「日本人の舌は敏感です。1度おいしいものを食べれば、いいものがわかる。そして細かい表現もしっかり受け止めてもらえると思います」


実はアニスが苦手だと話すと、「しょうがないな」と言いながら嬉しそうにアニス風味のショコラを用意してくれた。「まだ出したばかりなので、10分はお待ちくださいね」1つ1つ大切に作っているもの、そんな気持ちが伝わってくる。
程よくエージングされたアニスのショコラをいただいてみる。身構えて一口含む、最初はアニスを感じない。口に広がるカカオのアロマを楽しむ、するとその後にフワッとアニスが香るのである。非常に食べやすく、繊細な味わいであった。


     


「日本のショコラはブームのようなものはあったけれどまだまだ。買い求める場所が少ないし、作る人間も少ないのが現状。いつまでも輸入に頼らない自分らしいことをやっていきたいと思っています」

これからは、ショコラフロワやシェイクなどショコラトリーの夏の楽しみ方も提案していきたいと語る。日本人による、日本人のためのショコラの時代は間違いなく近づいている。



☆近々、カフェやサロンも予定しているそうなので、今までお買い物途中のため断念していた方もお楽しみに!





住所東京都渋谷区鉢山町14-4
TEL&03-5456-2533
URLwww.belamer.jp