ブランジェ浅野屋
東京事業部 製造チーフ 
山ア有理
 
<経歴>
1975年生まれ、栃木県宇都宮市出身。
東京製菓学校卒業後、21歳で浅野屋入社、2001年4月より製造チーフを務める。

   


伝統の製法に基づいたパン作りをしている老舗店でも、味が変わることがある。ある日、パナデリアは浅野屋のクロワッサンの形が以前とは変わってやや太った感じになり、そしてなにより更においしくなっていることに気がついた。どうやら、シェフが変わったのが理由らしい。現在の製造チーフだという山アシェフに会って話しを聞いてみた。

部屋に通され、紹介された山アシェフは、色の白い若い女性であった。パン作りは体力勝負のハードな仕事ゆえ、ちょっとびっくりしたパナデリアに対し山崎シェフは、こう答えた。
「浅野屋は女性が多い会社なので、女性だからどう、っていうのはないし、今まで特に女性ということで、問題もありませんね」


山ア有理シェフは小さい頃から、菓子や料理を作ることが好きで、栄養士を目指して短大に進学。しかし、事務的なことより、実際に現場で手を動かす仕事がしたいと、短大を卒業後、東京製菓学校に入学した。本当はケーキや洋菓子に興味があったそうだが、
「ケーキ職人とかって、なんか天才的なところがありますよね、作るのに。それでちょっと自信がなくて、パンならできるかな、って安易な気持ちで始めたんです」

製菓学校で1年学んだ後、浅野屋へ。同期16人のうちで、もっとも早くチーフへの昇進を果たした。
「チーフになった理由は、多分、負けず嫌いのせいだと思います。先輩からしたらあまりかわいくない後輩だったかな、と思っています」


彼女はどの質問に対しても、じっと考え、答えを選びながら答える。白い腕に、ヤケドの跡があちこちに見える。がんばり屋で、意志が強く、また、思慮深いところが評価されたに違いない。
「チーフになって気をつけているのは、基本に忠実に作ることです。浅野屋には基本レシピがあり、それに基づいて作っています。ところが、変えているつもりはないのに、いつも同じようにはならない。それをいかにして毎日同じ状態に生地を上げるか、ってことがチーフの仕事なんです。特にウチは新入社員でも、仕込みからすぐにやらせるので。レシピ通りにやっても、新入社員と、ベテランが仕込んだものでは違うものができてしまいます。そこを見張っているというのか……(笑い)。
チーフになってやってみたいと思っていたのは、新商品の開発とかです。いろいろなお店を見てまわったりして考えるのですが、思い浮かぶのは、シンプルなものばかり。性格が男っぽいせいかも。好きなパンはフランスパンですね。わたしは、素材で勝負、という思いがあるんです。最近はフィリングなどを、できる限り自家製のものにしています。例えばリンゴは自家製で煮るようにしました。アップルパウンドとか、デニッシュとかに使っています。リンゴを自分で煮た方がぜったいにおいしいのに、って思っていました。手間はかかりますが、ウチのオリジナル感が出せますし、保存料が入らないので余計な味もしない。また、微妙な味加減ができるので、自分たちが思うベストな状態で、お客様にご提供できますから。あとは、お客様の要望によって粉を変えたものもあります。玄米食パンは、最初は玄米の粉と強力粉(カメリア)を使っていたんですが、国内産に変えました。「国産小麦を使ったものはどれかしら?」という要望がありましたので」

浅野屋は銀座松屋にも新規出店しており、そのため四谷と銀座、両方の新製品の開発が必要になる。
「銀座向き、とか四谷向き、とかはありますね。銀座のお客様は、バラエティ豊かに少量ずつ買う傾向にあります。四谷は常連のお客様が定番のものを買っていかれます。オープン当初、銀座には食パンもおいてなかったんです」

新製品の開発もさることながら、チーフとして一番、気をつけていることはなんなのだろうか?
「基本は、浅野屋の基本に忠実にいいパンを作る、です。そのために、思考錯誤はしています、粉が変われば、給水を変える、発酵の時間を変えてみる、とか、そういうことは頻繁にやっています。最終的にウチのパンにするために、さまざまなフォローを入れます。ミキシングがベストで,発酵がベストであがって、焼いているときの香りでうん! って。段階、段階で、いいぞいいぞって思いながらできるように」

最後に今後の抱負を語ってもらった。
「とにかくシンプルなものを。まだ、6、7年しかやっていませんが、わからないことが毎回毎回出てくるので、パンの基本からはじめたいと思います。また、浅野屋の基本となるパンは、ヨーロッパの伝統的なパン。食事とあわせる食事パンを作っていきたいですね」

現在、四谷店では約150種類のパンが店頭に並ぶ。そのなかで核となる食事パンは約40種。シンプルなだけに、できの違いは常連客にはすぐにわかってしまう。温度を自在に上げ下げできない石窯を使いながらも、同じものを毎日焼き上げるのは、至難の業であろう。山アシェフは、それを基本的に忠実なパン作ることで実現しようとしている。ここのところの浅野屋のパンを食べたところでは、その狙いは正解のようだ。

クロワッサンの秘密

ブランジェ浅野屋