シェ カザマ   風間 豊次さん  

   



初めてパンを作ったのは5歳の時でした。あの時からずっと、僕はパンに恋をしているんです。最近やっと世間が自然に注目してきましたが、僕は子供の頃から自然を愛する気持ちと同様、パンを愛してきたんです。

僕にとってパンとは、ただ食べるためのものではないし、何個売っていくら、そういう次元のものじゃない。ひと握りの粉からパンをつくりあげる、それは芸術であり哲学なんです。人間にとって大事なのは衣食住よりも先に、人間性・精神だと思っています。

10年以上も、仕事の後に残って、ひとり、飾りパンの研究を続けてきました。誰かに師事したわけじゃない。全くの独学です。ヒビができず、カビず、虫のつかない飾りパン、それを自力で開発したんです。このパンの籠は、もう作ってから10年以上経っていますよ。でも、いまだにヒビひとつないでしょう?


かつて、500万円で講師を頼まれたこともありました。断りましたよ。お金の問題じゃないんです。心底僕のパンを愛してくれる人、そういう人に理解してもらえればいいんです。小鳥のパン籠は、10万、20万で買って頂いたこともある。だからといって、これが高級品だと言いたいわけではないんです。



以前、別の店に置いてあったパン籠を見た子供が、泣いて親にせがんだそうです。買ってはもらえなかったのですが、翌日、なんとその子は画用紙を持ってスケッチをしに来たんだそうです。その話しを聞いた時、僕は本当に嬉しかった。なんという純粋な気持ちでしょう。そういう子にはタダであげたいという気持ちになりますよ。「年代・時を越えて人の心に訴えかけるものを作りたい」、というのが僕の想いですから。

一般のお客様をはじめ、皇室・政界・財界の方々までもが、僕のパンを評価してくださっています。そういう色々な方達との縁も、みんなこの小鳥たちが運んできてくれたものだと思っています。
僕のパンに魅了され、ファンになってくれる。それは僕のパンを、ただ粉と水でできたものとしてではなく、芸術品として認めてくれたということ。つまり僕の感性、独創性を理解して頂いたということです。


感性というのは、お金を積んで得られるものではない。
僕はヨーロッパへ行っても、パン屋を見てまわるなんてことはしません。行くのは美術館。自然や芸術に触れないと、いくら技術が優れていても感性は磨かれませんよ。
イギリスが大好きなんですが、パン屋にもレースのカーテンがかけられ、美しい花壇がある。日本に比べ、やはり民度が高いですよね。
今は日本でも何でも手に入りますね。芸術にだって触れる機会がたくさんある。でも、まだまだ家庭レベルにまでは浸透していない。日本人には、もっと時間と心のゆとりが必要だと感じますよ。

今の若い人は一つの仕事を長く続けられないと言われますね。そういう人は、きっと自分の感性、自分なりの「何か」をまだ見つけられていないからだと思います。 何を成し遂げるにしても、道のりは長いと思います。でも、自然や芸術を愛する気持ち、心のゆとりは忘れないでほしいですね。


シェ カザマ

風間さんの秘密