週末に訪れた名古屋、その際に気になるパティスリーがあり岐阜まで足を伸ばした。

落ち着いた紺のペントルーフに、白壁の建物。入り口からはひっきりなしに人が出入りしている。中に入るとまずケーキのショーケースが目に入った。キラキラと輝くようなケーキはシンプルで洗練されたデザインのものが多い。遠方から足を運ぶ人も多いのか、皆連れ立って真剣なまなざしで品定めをしている様子が印象に残った。


    



華やかなケーキのショーケースの中で、目を引くものがあった。エクレールである。デザインの派手さはないのだが、フォンダンが艶やかで、きっちりと焼きこまれている姿が美しい。





「フランスではどの店にもある、フランス人の大好きなもの。でも残念ながら東京でも置いている店は少ないですよね。うちのエクレールは東京のよりもおいしいですよ」

と自信を感じさせるコメント、柴田シェフ自身エクレールが好きで思い入れがあるのだという。 底である平らな面が上になっているため、フォンダンが薄く均一に伸びている姿はとても美しい。均一に生地を絞ること、そしてフォンダンの艶を出すための熱の入れ方に細心の注意を払うという、まさにシェフ入魂の自信作である。

テーブルにセットされたフォークとナイフでエクレアを食べていると

「シュークリームやタルトは気取らずに手で召し上がってください。その方がフランス流でおいしいですよ」

という、伝票の裏に書かれたメッセージが目に入った。
自分のケーキを自分のスタイルでおいしく食べてもらいたい、その思いはいたるところから感じられる。

まず飲物。メニューの紅茶の欄には

「風味を損なうためレモンティーはお出ししていません」

とのコメント。飲物のおいしさだけでなく、飲み方にもメッセージが込められている。また、店内にはケーキの写真とCGを組み合わせた柴田シェフの作品が飾られている。独創的な鮮やかな色彩が印象的だ。そして何といってもシェフ自身。厨房だけに留まらず、店内の隅々に目を光らせ率先して接客を行う姿が目に入る。

ここはただの食べるためのスペースではない、柴田シェフのフィルターを通したお菓子の世界を楽しむ空間なのだろう。自分の作る味に自信があり、かつ大切にしている人と強く感じた。






「小学生くらいから漠然とした『フランス』への憧れがすごく強かったんですよ。絵もやってみたかったし、とにかくジャンルよりも『フランス』に対する想いが強かったですね。最初は料理からなんです。高校生の頃から、学校が終わるとフレンチレストランに行ってはいろいろな事を教えてもらっていました」

フランスへ行きたいという強い想い、そして“食”への想いが柴田シェフを料理の世界へと導く。

「男3人兄弟なんですよ。だから食事の時はいつもすごい取り合いで。母親が作ったものだとどうしても3等分しなくちゃいけない。でも、自分で作れば全部食べられるじゃないですか」

料理から入った“食”の世界。母親がケーキを作るのが好きだったこともあってか、いつしかその方向はお菓子の世界へと定められる。独立心が強く、人と同じことをするのが嫌い、という柴田シェフ。早く独立して自分の城を作りたい、それにはお菓子の方が早いのではないか、という思いもあったようだ。

そしてついに憧れのフランスでの修業。柴田シェフのお菓子作りの根底にあるものはやはりフランスでうけた味の衝撃なのだろうか?

「実はそれまでのフランスへの思い入れが強すぎて、残念ながらそれほどの感動はありませんでした。フランス仕込みのパティシエから何年間も毎日のようにフランスのことを聞いていたので、実際に見ても本物のエッフェル塔を見たときのような衝撃はなかったんですよ。それよりも先輩から受けた影響が一番かもしれません」

フランス流の味やスタイルというだけではない。先輩シェフたちの価値観や、お菓子に対する考え方、それが今の柴田シェフのスタイルを作っているのかもしれない。


    

名古屋の百貨店のイベントへ出店することも多いせいか、近隣から週末は1日で400人くらいのお客さんが来るそうだ。今年のヴァレンタインには新宿・伊勢丹にも出店した。

「6人くらいで作っているのですが、ウェディングケーキやデザートビュッフェなども受けているのでかなり忙しいです」






だが、柴田シェフの野望はまだ尽きない。

「ウェディングやプロデュース的なこともやりたい。名古屋での出店も考えているんですよ。でもあくまでベースとなるここはしっかりと守りたい。伝統を守りながら、新しい要素を取り入れていきたいです」

若さと個性を併せ持ち、ポテンシャルも高い。これからますます目にする機会が多くなる、そんな予感がする店である。






住所 岐阜県多治見市太平町5丁目10-3
TEL0572-24-3030
営業時間7:00〜19:00
定休日火曜日
アクセス JR中央線 多治見駅より徒歩15分
http://www.chez-shibata.com/