オテル・ドゥ・ヴィル
レ・アントルメ





美しい街路樹が続く国立の大学通りにある洋菓子屋さん、ということで以前にパナデリアで取材したことのある「レ・アントルメ」のオーナーシェフ、さん。あの、優しいお人柄にもう一度ふれたい!というわれわれスタッフの思いが通じて2度目の取材が実現した。「レ・アントルメ」の並びにもう一軒あるさんのチョコレート専門店「オテル・ドゥ・ヴィル」を中心に、再びお菓子職人としての氏の横顔にせまってみた。

ルコント時代、長い間担当していたこともあり、チョコレートに対する思い入れは人一倍強い。「香りを楽しむもの」とチョコレートを表現する。だからほとんどのチョコレートにお酒は使用しない。お酒を入れてしまうと、チョコレートそのものが持つ、せっかくの香りがわからなくなってしまうからだ。

シャープな味のフランス系、「バローナ」と「バイス」というチョコレートを使って作られる約10種類のチョコレートを味わってみると、甘いだけでも苦いだけでもない、重いわけでもないのだがしっかりとチョコレートを食べているという満足感が味わえる、素材重視の味がする。中に入っているのはプラリネクリームやヘーゼルナッツといった定番ものからちょっと珍しいアールグレーや蜂蜜といったものまで、主張しすぎずに個性を発揮。数種類を小さく切って食べ比べると、それぞれの味がさらにはっきりわかって楽しい。看板商品の「大学通りの石だたみ」という名前の付けられた生チョコは、マッチングに工夫をこらした独特の製法で作られており、口の中で心地よくまどろんでいく。


この「オテル・ドゥ・ヴィル」、チョコレート以外にも紅茶とアイスクリームを店に並べて売っている。チョコレートは一般的にコーヒーに合うと言われる。紅茶を一緒に売っているとは珍しいと思って訪ねると、奥様が紅茶に造詣が深く、専門の資格まで持っているとのこと。店員さんも本格的な入れ方を教えてくれるし、あまり忙しくない時期には時間のあるお客様に紅茶を出してくれることもあるという。そしてこれは食べて感じたことだが、ここのチョコレートは紅茶にも良く合う。というよりむしろ、濃いコーヒーより紅茶の方がチョコレートの素材の味をしっかり味わうことが出来る気さえする。「甘いものを食べた後の口をすっきりさせるための濃いコーヒー」は必要ないのだ。
 

「将来的には一カ所にチョコレートもケーキも喫茶も工場もまとめたい」「店員みんながただの売り子ではない、プライドを持った集団を目指している」と職人としてだけでなくオーナーとして、上に立つものとしての明確な指針もあらゆる面ではっきりと持っている。しかし、ずっと現役でお菓子を作り続けていきたいという気持ちは変わらないようだ。
 

取材にお伺いした日は洋菓子店「レ・アントルメ」をオープンさせてちょうど6年目の日だった。6周年を記念して焼かれた「バナナのパウンドケーキ」が乗せられた店内ショーケースには、そろそろ寒くなる季節に向けてチョコレートやタルト、バタークリームを使ったケーキが幅をきかせてきていた。「でもやっぱりここのケーキの売りはシュークリーム」と、150円のそれを指さす。「自転車で来て、子供のためにお母さんがぱっと買えるのがお菓子だから」と言う氏の人柄に、またまたスタッフ一同惚れ込んでしまったのであった。
取材日 1998年