IBIZA パン焼き人

安井定義 氏

国内外のホテルで約20年修業。その後、料理の鉄人ムッシュ坂井宏行の店で腕を磨く。
1993年3月に「IBIZA」のオーナーとなる。


僕がね、学校を出て就職する時はちょうどオイルショックの時だったんですよ。旅行が大好きだったから、旅行会社に入ろうと思いました。そうすれば色々な国に行かれるという単純な発想だったんですが、オイルショックの影響でどこも採用がなかった。仕方ないから他を考えますよね。旅行といえば宿泊、宿泊といえばホテルだよなあ。だったら、海外にもたくさんチェーンを持っているホテルがいいと、第一ホテルに入ったんです。

ホテルではお菓子を作るほうを希望していたんですが、僕と、もう1人同期がいて、「おまえは体格がいいからパンに」と、同期がお菓子にまわり、僕はパンの担当になりました。でも、その後、スイスの国立製菓学校に行かせてもらって、戻って来てからはデザートをやっていました。

それから、マカオ、グアム、サイパンと海外に数年ずついました。ホテルのお客は日本人が多いのに、スタッフは日本人不足なんですよ。だから、毎日大変です。ホテル内のレストランすべてを見てまわったり、デザートでもパンでも、なんでもやりましたね。日本では考えにくいけれど、当時、それらの国では、停電がよく起きた。停電でも、ホテルですから食事は出さないといけませんよね。中でもパンは絶対です。小さいガスオーブンで必死に半端じゃない数のパンを焼きました。でも、小さいガスオーブンで、限界はあるとはいえ、火さえあれば「それなりのパン」はできるものなんだなあって、実感しましたね。

帰国してしばらくのちにホテルをやめ、料理の鉄人で有名な、ムッシュ坂井のところで働きました。その影響は、今のパンにあると思います。ムッシュは、クスクスをよく付け合わせに使っていたんですが、うちで一番出るパン「IBIZA」はクスクス入りです。赤ワインを煮詰めたソースを使ったり、ブルーチーズを使ったり、この時代のフレンチの影響はありますね。

この店をオープンする前、店内をオーブンメーカの方に見ていただいたんです。その時、「安井さん、石窯でいかない?」って言われました。僕が「石窯、高いんでしょ」っていったら、「うん、高いよ」って。値段を聞くと、本当に高いんですよ。でもね、このあたりの土地はパン屋も多い。僕みたいな新参者がやっていくには、何か特徴がないと無理だと言われたし、僕もそう思いました。それで、思い切ってスペイン製の石窯を入れたんですが、これは正解でした。窯のパワーが違います。今までのレシピはまったく通用しなかったですが、この店ならではのパンが提供できるので、本当によかったと思いますね。

併設しているのは、フレンチ・カフェ。田舎風のフランス料理もあれば、パスタもあり。アナゴの蒲焼きのサンドイッチなんかもあります。パンを食べながら気軽にお食事してくれればいいなと思っています。

取材日 2000年4月


安井さんの秘密