ジャン・ポール・エヴァン
Jean Paul Hevin  

       (写真:土居麻紀子)

   

1月30日から2月3日まで、新宿伊勢丹で行われた「サロン・ド・ショコラ」。 開催に合わせて来日されたジャン・ポール・エヴァン氏が、パナデリアの単独取材に応じてくださいました。 今回のこだわり職人では、そのもようをインタビュー形式でまとめたものをご紹介します。


―(パナデリア 以下P)ご自身のチョコレートと日本のショコラティエのチョコレートを比べてみて、違いは感じられますか?

(ジャン・ポール・エヴァン氏 以下J)「いろいろあると思いますが、私が食べた中で言えば、ちょっと油っぽいものが多いように思います。」

―(P)では、あなたが目指しているチョコレートというのはどういうものでしょうか?  

(J)「チョコレート本来のもつ様々な香り・味を存分に味わえる、油分は少ないチョコレートです。」

―(P)チョコレートと他の素材の組合せは、どのように考え出されるのでしょうか?ご自身の感性をもとにですか?  

(J)「感性ももちろんですが、組み合わせる素材の良さを最大限に引き出せる、チョコレートの味・香りを第一に考えます。」

―(P)あなたの作られるボンボンは、一粒が小さめで、表面のコーティングがとても薄いので、重くなく、いろいろ食べられますね。  

(J)「ええ。まず半分齧って、口の中でフワーッと広がる味と香りを楽しみ、残りのもう一口で、それをもう一度味わってみてください。」

―(P)フランスで作られているボンボンやケーキを、日本向けにアレンジされるということはありますか?  

(J)「いいえ。アレンジは全くしていません。パリと同じ味ですよ。」

―(P)日本や、フランス以外の国の素材を取り入れることはありますか?  

(J)「もちろん。実際、今販売されているエキゾティックという名前のマンディアン(リング状のチョコレートの上にドライフルーツやナッツがのったもの)は、ピスタチオはシチリアとイランのもの、いちじくはトルコのもの、アーモンドはスペインのもの、ショウガは中国のもの、そしてチョコレートはヴェネズエラのものを使っています。いい素材であることが第一条件で、国にはこだわりません。 逆に、何かいい素材を見つけても、いろいろ試してみて、「これはチョコレートに合うな」という確信・満足感の持てるものができなければ使いません。たとえば、柚子の香りはとても興味深いのですが、チョコレートと合わせるとなるとまだ納得のいくものはできていないんです。」

―(P)品種の違うチョコレートを選ぶ基準、ブレンドするときの基準は何ですか?  

(J)「とにかく味です。味わってみて感じた香り・楽しさ、そういうものが基準です。ブレンドに関しても、自分がおいしいと感じた組合せを選んでいるだけです。何種類もの味や香りをごちゃごちゃ混ぜるのは好きではありません。シンプルなのが好きです。そして何よりも、味づくりの上で一番大切にしているのは、「エレガンス」と「繊細さ」です。」

―(P)ボンボンやチョコレートケーキで、新しい商品は何か考えられていますか?  

(J)「キャラメルショコラのシュークリーム。でもこれはまだ頭の中にあるだけで、試してみたこともないんですが。」

―(P)他のお店のお菓子を食べた時やお料理を食べた時にアイデアをもらうこともあるのでしょうか?  

(J)「気に入った味に出会ったときは、それがインスピレーションになることはあります。でも、そのもの自体を真似しようと思うことはありません。」

―(P)他には、どういう時に新しいアイデアを思いついたりするのですか?

(J)「場合によりますが、そうですね・・・、ジョギングをしている時が多いかもしれません。新鮮な酸素をたくさん吸うから、頭の働きがよくなるのかな。

―(P)プライベートな質問になりますが、ジョギングとおっしゃいましたが、他にご趣味は?  

(J)「食べること。たくさん食べることではなく、味わうことが好きですね。」

―(P)どんな食べ物がお好きですか?  

(J)「野菜が好きです、パスタもパンも。和食は大好きですよ。和食で特に好きなのは鉄板焼きとお寿司。素材の味そのものを味わう料理ですし、職人の仕事を目の前で見るのも好きなので。」

―(P)パティシエになられたきっかけは?  

(J)「これは偶然なんです。初めは電子工学の学校に行きたかったのですが、定員がいっぱいだったので1年間待たなければいけなかったんです。その間ブラブラしているのはもったいないと思って軽い気持ちで製菓学校に行ったら、そのままその道へ進んでしまったというわけです。もともと甘いものや食べることは好きだったので。家族の中で食に関する仕事をしているのは私だけなのですが、皆食べるのは大好きで、とりわけ父はお菓子が食べるのも作るのも好きでした。私は父親の影響が強いと思っています。」

―(P)育った環境が大きく影響したわけですね。育った土地、地方の影響もありますか?  

(J)「どうでしょう。私はブルターニュ地方で育ちましたが、ノルマンディーやロワール地方にも近く、りんごのクレープなどはよく食べましたよ。」

―(P)ブルターニュというと、塩を使ったケーキなどを食べると「あ、このシェフはブルターニュ出身なのかな。」などと思うことがありますが。  

(J)「私は塩は使いません。塩とチョコレートという組合せはおいしいとは思いませんから。」

―(P)日本は今ショコラブームと言われていますが、今後どうなると思われますか?  

(J)「まだブームは始まったばかりなので、すぐには終わらないでしょう。ただ、今後続くかどうかは、お客様にどれだけのものを提供できるかという、作り手の姿勢によると思います。チョコレートの味が素晴らしいということはもちろんですが、お客様に「楽しかった」「きれいだった」というような、おいしさ以外の部分でも素敵な時間を味わっていただくようにならなければいけないと思います。」

―(P)ケーキは日本で作られていますがボンボンは空輸されているとのこと、劣化することはないのでしょうか。これも日本で作った方がいいのでは?  

(J)「パリで作っているのと同じ素材、同じ状態で作りたいので、ボンボンは出来上がったものを空輸しています。空輸といっても金曜に出荷したものが月曜には店頭にならぶのですから、品質はフランス国内と変わりませんよ。温度管理も完璧ですし。  ケーキに関してはさすがに空輸というわけにはいかないので、アンデルセンのパティシエたちに作ってもらっています。パリと同じレシピなのはもちろん、実際彼らにはパリで修業してもらいましたから、味は保証付です。」

―(P)その修業はとても厳しかったと聞きましたが、日本のパティシエたちの腕はどう思われますか?  

(J)「私のケーキをよく理解し、見事に再現してくれていると思います。もちろん、これからも日々の努力は惜しまないでもらいたいですが、とても丁寧に仕事をしてくれていますよ。」

―(P)尊敬するアーティストを教えて頂けますか?  

(J)「歌手のミッシェル・ポルナレフ。メロディ、ハーモニーがとても素晴らしいと思います。チョコレートを作る上でもハーモニーはとても重要ですが、分野は違ってもたくさん影響を受けている歌手です。それから、私の新しいブランド「エヴァンテール」(注1)を一緒に創った建築家のジャン・オッド。これからがますます楽しみな人だと思います。」

―(P)では最後に、日本のファンへ一言お願いします。  

(J)「チョコレート好きなファンの皆さん、ぜひ一度ジャン・ポール・エヴァンの板チョコを全種類、比較しながら味わってみてください。最高の品質のものを揃えているので、本物のチョコレートの味を楽しんで頂けると思います。」


注1)「エヴァンテール」・・・ジャン・ポール・エヴァン氏が新しくオープンさせたパティスリー・ショコラティエ。従来の「ジャン・ポール・エヴァン」をオートクチュールとすると、こちらはそのプレタポルテ版。「チョコレートなので、『プレタクロッケ(齧る用意のできた、という意味)』といったところでしょうか」とのこと。レーズンやピスタチオを混ぜたフイユ・ショコラ(板チョコよりも薄いチョコレート)や、クラシックな型で作ったボンボンなどがあり、すべて初めから箱にパッケージされている。 「ジャン・ポール・エヴァン」に比べ賞味期限も長めで、値段も低めの設定。



取材を終えて・・・

時差ぼけでちょっと眠そうなジャン・ポール・エヴァン氏でしたが、全身黒でまとめたスマ ートなルックスは、職人というよりまるで俳優のよう!ショップから受けるお洒落なイメ ージ通りの素敵な方でした。あまり自分から長々と語ることはなく、ピエーリ・マルコリーニ氏とは対照的という印象を受けましたが、当日5本目のインタビューだったそうなので、きっとお疲れだったのでしょう。それでも、最後にボンボンよりも板チョコレートを薦めるところは、さすがショコラティエ、と納得してしまいました。
(2003年1月31日伊勢丹新宿店サロン・ド・ショコラにて)



ジャン・ポール・エヴァン
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