メゾン・カイザー

木村氏

アルデリック氏

ローラン氏

「パリのメゾン・カイザーで働いていて、帰国するとき、経営者のエリュック・カイザー氏に"日本でやるぞ"と言われた。あのときは嬉しかったですね」
そう語るのは木村周一郎氏。言葉通り、昨年夏、カイザー氏と共同経営で『ブーランジェリー メゾン・カイザー ベーカリーショップ高輪』を、秋には三田にパティスリーをオープンさせて話題をよんだ。

厨房にはパリの『メゾン・カイザー』から来たフランス人職人が2人いる。パンを担当するMILLET LOURENT(以下ローラン)氏と、お菓子を担当するPAUMIER ALDERIC(以下アルデリック)氏だ。
「パンやケーキに日本人向けのアレンジは?」と聞くと、2人とも「ノン」と首を横に。「カイザー氏のプロダクツが素晴らしいと思って日本に持ってきたのだから、アレンジしちゃったら意味がないでしょ」と木村氏が言葉を補う。だから、パンもケーキも味、大きさともにパリそのままである。フルーツにいたるまで、素材のほとんどはフランスからの輸入。味をそのまま運ぶことで、パリの文化まで知って欲しいという思いもある。

素材が同じなら、製法も当然パリと同じだ。例えばパンなら、「ナチュラルでいこう」をモットーに、イーストの使用は一切なし。カイザー氏の生み出した自然酵母で、なによりパン自身の力を大切に発酵させる。出来上がるのは「こうすることで、豊かな香りが自然に出てくる」とローラン氏が主張する、なんともいえない奥行きの香り高いパン。ケーキにのるフルーツの味の濃さひとつとっても、日本のとは明らかに違う。

ちなみに2人の職人と木村氏には大きな共通点がひとつある。全員、家業がパン、ケーキの製造をしているという点だ。自然と自分も同じ職業を目指していたという彼らには、もって生まれた職人魂と食に対する人並み以上の興味があるようだ。ローラン氏の奥さんは日本人。アルデリック氏も「和食は大好き。日本人はフレンドリー」と日本での生活を満喫している様子。

「仕事のスタイルは、短時間での集中。長く、だらだら厨房にいるだけでいいパンがうまれるわけではありません。やるときはやって、休むときは休む。パリのスタイルと同じですから、彼ら2人にも抵抗はないと思います。彼らは何年かしたらパリに戻ります。そして交替で新しくパリから人を呼ぶ予定です。常に新しいパリの風を入れたいですからね」と木村氏が言う。
『メゾン・カイザー』は、いわば時差のない日本のパリなのである。

取材日 2002年1月










メゾン・カイザー
東京都港区三田4−19−27
TEL:03-3446-2110