パン・ド・ラサ
田中 朗さん
<プロフィール>

吉祥寺「サンメリー」
銀座「ビゴの店」などで修業後、
94年2月に現在の店を開く

   


パン作りに全人生を傾ける田中さん。パナデリアでの取材は2回目になりますが、今回はこの10年を振り返ってお話しをしていただきました。 初めて取材をさせて頂いたのは、まだパナデリアが始まったばかりの頃。ハード系とデニッシュ系だけという店はまだまだ少なかった時代ですから、田中さんはとても先駆的な存在の方なのです。 粉・素材にこだわり、真夜中から夜まで仕事を続けるというスタイルをずっと貫かれています。こんなひたむきな人生を歩む職人さんに出会うと、「パナデリアをやっていてよかった、この職人さんの心意気をみなさんにお伝えしたい!」と心から思うのです。 「パン仙人」田中さんのお話です。


今年で10年目になります。開店当初からアイテムはほとんど変わらずハード系とデニッシュ中心です。途中加わったものといえば山型食パンとデニッシュ以外の菓子パン、ルヴァンくらいですね。お客さんもそろそろ飽きているんじゃないかと思うんですが。

はじめは対面式だったんです。でも一人でやっていましたから手が回らず、やめました。今は自分以外にスタッフが3人、みんな女性です。男性だとお互いが本気になりぶつかってしまうんですよね。スタッフが増えたおかげで、開店時間にはバゲットが並べられるようになりました。7時半開店なので、起きるのは夜中の1時頃。前は余裕がなく起きるのが遅くなってしまったんですが、だんだん早くなってきていますね。

普通、パン屋というと夕方が一番混む時間なんですが、うちは朝と昼がピーク。フランスパンやクロワッサンも焼くのは朝と昼の2回だけです。近くにパン屋がありますし、あまりパンを残さないようにしているので夜は客足が遠のくようです。そのかわり、昔から顔なじみの常連さんが朝一でパンを買いに来てくれるなど、平日は客層、顔ぶれともに一定しています。土日は遠くから来てくださる方もいるようなので、もう少し多くなります。

粉については、食パンにははじめから"醍醐味"という国産小麦(夛田製粉)を半分使っていますし、ハードロールやベーグル、クリームパンはほとんど国産小麦です。こういった商品はやっぱり「香りがいい」「粉の味がする」と昔から言われます。香りでいうとこの粉がダントツだと思いますね。"タイプER"(江別製粉)もサンプルをもらってからルヴァンに使っていますが、だれてしまうので長時間発酵タイプのものには向かないようです。フランスの粉に似ているんですが、コシやもちがやや劣るので、フランスパン系の生地に100%で使えるか、というとなかなか難しいと思います。

ルヴァン種は前日仕込みの種を24時間寝かせ、本捏ねにはいります。ルヴァン種をサワー種として使うというのが一般的なようですが、うちはサワー種とルヴァン種を別々に起こしてそれを合わせて使う、というやり方です。
フランスパン系は配合は普通だと思いますが、吸水率は72%と高めです。
デニッシュに使うバターは開店当初からずっと発酵を使っています。九州の高千穂バターが一番おいしいと思うのですが、クロワッサンに使うのは叩くのが大変なので明治発酵バターを使います。その他トッピングの生地やラスクにはタカナシ北海道バターを使うなど、目的によって使い分けています。
塩はあまり差が出ないと思うので特にこだわりはありません。味よりも、粗塩や水分の多い塩だと溶けずに残ってしまう方が気になってしまうので。


これからもハード系とデニッシュ系中心というのは変えるつもりはありません。ただ、昔ながらの日本の菓子パンみたいなものを残したいなあ、と最近思うんです。あとは定番のパンで作るサンドイッチや、フォカッチャみたいに具を練りこんだパンなど、それだけで食事になるような商品は増やしていきたいと思っています。
取材日2003年10月16日


パン・ド・ラサ
東京都世田谷区梅丘1−10−9
03−3425−4774