ブーランジェリー ルボワ 

森 朝春

高校卒業後、東京に出たいなあと思っていました。実家が石川県でパン屋をやっていて、「パンを勉強するなら東京に行かしてやる」というので、東京で、製菓学校のパン科に入りました。最初に勤めたのは三鷹にあった個人店で、もちろんいずれは戻って家を継ぐつもりでした。

でも、東京の次は海外に行きたくなってしまったんです。それでパリでパンの勉強をすることにしたんです。製パン学校の先生から一軒のパン屋の住所を渡されてはいましたが、「行っても雇ってくれるかはわからない」とのことでした。

僕にとって初めての海外です。着いてまず泊めてもらった友達の家で、翌朝、友人と朝食用のクロワッサンを買いに行きました。そのクロワッサンを食べた時、頭をガツンと殴られたほどの衝撃でした。初めての海外、しかもパリという雰囲気にのまれてしまったこともあるかもしれません。でも、いままで食べたことのない美味しさでした。街に出てバゲットを食べればこれがまた旨い。先生からもらったメモを片手に、言葉もままならず訪ねたパン屋では、運よく空きがあって働かせてもらえることになりました。こういうパンが自分でも焼けると思うと嬉しかったですね。

フランスのパン屋は、なにごともおおざっぱでした。日本に帰って来て、『マディ』で働いたとき、僕の上でパンを作っていた松原さんという方に、「日本でフランスのパンを作るというのはどういうことか」というのを教えて頂いた気がします。クープの入れ方一つにしても、日本ならではの繊細さがあることを学びました。やはり、日本では神経と時間のかけ方が、フランスとは違います。最初は厳しかったけれど、本場のハード系の美味しさに、この繊細さをいい感じで融合させることができた3年間だった思います。

独立のきっかけは、ある時自分で作ったパンを友人が食べ、「これなら店を持てるわよ、協力するし、やってみたら? この先は自分でやりながら学べばいいじゃない」といわれたことから。確かに、修業をしていく中で「もう学びきった」と思うことは、きっとないと思うんです。それならそろそろ、やりながら学ぶという姿勢は正しいかなと思って。

店のデザインは、妻がやりました。僕、田舎者ですから、そんなに気取ったイメージはやめて、暖かみを大事に、フランスの田舎にあるような店をイメージしています。地元に密着した店を目指すため、対面式は絶対の条件でした。

店をはじめてまだほんのわずかですが、思い入れのあるクロワッサンがとてもよく売れるのが嬉しいですね。惣菜パンや菓子パンにも抵抗はありません。そういうのを買うお客さんにも、いずれはハード系を食べてみて欲しいですけれども、自然にそうなるんじゃないかな。「こんなパンが食べたい」というお客さんの意見もすこしずつ取り入れたいですし、僕のほうからは、ハード系の保存方法なんかをよくアドバイスしています。うちはパンを紙の袋に入れてお渡ししているんですが、「そのままおいておいたら堅くなっちゃった」なんていう意見も聞くので、保存用のビニールも用意したほうがいいかな、とか、細かいことでもいろいろ意見を取りいれながら理想の店に近づけていきたいですね。

取材日 2001年11月

















ブーランジェリー ルボワ
東京都中野区弥生町2−52−4
TEL:03-3229-8015

森さんの秘密