マダムミクニ
寺井 則彦さん



<経歴>「ルノートル」で5年間の修業後、渡仏。「ジャック」「ジャン・ミエ」「ル・コルドン・ブルー」などフランス、ベルギーの名店を経て帰国。「ル・コルドン・ブルー」で講師を勤めた後「オテル・ドゥ・ミクニ」へ


   




小さい頃から食べるのも作るのも好きで、自然に食に興味をもち始めました。小学生の時には外で食べたものを真似て作って見たりしたこともあるんですよ。その中でもお菓子をやろうと思ったのは、味だけでなく形そのものから創作し、自分を表現することができるのが面白そうと思ったからです。


レストランはオテル・ドゥ・ミクニが初めてです。三國シェフから食材や題材のテーマをもらって考えるのですが、ミクニはデセールも含めたコースの中で同じ素材・調理法を2度使わない、季節感を出すというルールがあるので、その点は注意しますね。

デセールと両方作っていて参考になるのは素材の組み合わせくらいで、あとはパティスリーとデセールは根本的に発想は別ですね。よくお菓子屋さんやホテルで皿にケーキがおいてあってソースをかけてある、というのを見かけますが、ミクニのデセールは全て「ア ラ ミニュット」、その瞬間だけのものを提供するもの。熱いグラタンに冷たいアイスクリームをのせるといったような、パティスリーとは全く構成が異なるものです。

デセールとは対照的に、パティスリーでおつかいもの向けに新しい発想で提案したのがケーク(パウンドケーキ)です。もともと、カットされたものよりも華がある生のアントルメをいろいろ出していたら、おつかいものとしてよく売れたんですね。そこで、暑い季節にも向くケークを、アントルメの代わりになるくらい華のあるものにしようと思ったんです。真空パックに入ったようなものではちょっと味気ないですよね、だから上にフルーツを飾ったりケークをまるごとカラメリゼさせたり、見た目にもおいしそうなものになるよう工夫したんです。

もちろん見た目だけでなく、アーモンドプードルを入れる感覚で生地にいちじくを混ぜ込んだものや、間にガナッシュが挟まれたものなど、新しい発想のものがいろいろあるんですよ。

ケーク・ショコラ
・オー・フリュイ・ルージュ


最近は休日にお菓子屋さんへ行くということは滅多にないんです。シェフと友達なのに行ったことのない店がたくさんあるんですよ。よくないですよね。本でレシピを見てもそういうところから発想を得て作るということはないです。フランスにいた頃は食べ歩きはたくさんしました。やはりその頃に自分が体験した味、どこかで食べておいしかったという記憶の中から、自然に消化され、自分の感性を通してインスピレーションが湧いてくるというパターンがほとんどですね。料理だったら寿司、焼肉、イタリアン、フレンチといろいろ食べに行きますが、それもただ純粋に楽しむだけです。

自分は日本人でありパティスリーの世界では「外人」なわけですが、フランコ・ジャポネであってもいいけれど「洋菓子」は作りたくないと思うんです。たとえばシュー・キャラメルを作ったときにも、日本なのだからシュークリームは需要があるけれど普通とは違うものにしたかった。どこで自分というもの、フランス菓子というものを出そうかと考え、形を細長くしてキャラメル味にしました。先ほどのケークもフランス人にも好評で、レシピを教えて欲しいと言われたんですよ。 あくまでも「フランス菓子」をやってきたのだから、これから先もそこから外れたくはない。日本人の口に合うのはもちろんだけれど、フランス人が食べてもおいしいと思ってもらえる、そういう味を目指しています。



マダムミクニ
東京都新宿区若葉1−18
TEL03−3351−3811

寺井さんの秘密