モンサンクレール

辻口 博啓 氏



18歳の頃より、都内のフランス菓子店及び南フランスにて修業。その間3度の世界大会に日本代表として出場し、優勝経験を持つ。帰国後、モンサンクレール取締役、シェフとして就任。


国内のみならず世界の大会でもいくつもの金メダルを手にしてきた。つい先日は人気テレビ番組「料理の鉄人」で「バナナ・チョコレート対決」においてみごと鉄人を破ってしまった。彗星のごとく現れた彼の名は辻口博啓さん、フランスから帰国後、自由が丘「モンサンクレール」で腕をふるう名パティシエである。

生まれ育ちは石川県、ご実家は和菓子屋さんを経営していたという。そこでお菓子を作ることを常に目にしていた辻口氏は、自分もお菓子の作り手になると子供の頃から思っていた。家は「和」、だから自分は「洋」でいこうと修業を始めたのは15年近く前のことだ。

フランスでの修業も長い。もちろん学んだ土地の香りはお菓子に表れる。しかしフランスの味をそのまま伝えようとか、フランスで学んだものを日本人の口に合うようにアレンジしようという意識は持っていない。味はあくまで辻口流、今まで試行錯誤の中で生み出してきた、作り手の個性溢れる味で勝負、と自信を持って言う。
旬のものや美味しいもの、素材を職人としてこだわり厳選するのは当たり前というが、そういった素材を活かすための配合や温度、砂糖やクリームの使い分け、卵の火の通し方といったことには繊細な気の遣いようである。そしてそこに技術が加わると辻口流作品の出来上がりだ。

お店をやっていく上でのポリシーは?という質問に、「決して作ってやっているという気持ちにならないこと。自分がお客さんだったらこういうものが食べたい、こういうサービスを受けたいということを日々忘れないで作ること。常にお客さんと同じ目線で思いやりを持って接することで色々なことに気づく」と答える辻口氏の姿勢は、一緒に働くスタッフに対しての「自分だけしかできないお菓子を作って、周りがついてこられなくては、成り立たない。できるだけ色々なことを任せ覚えてもらい、全体のレベルが上がり、自分も向上していきたい」という姿勢にもどこか通じている。
そしてガラス張りで、お客さんが商品を購入しているのが見える厨房、ダイレクトにお客さんの声が聞ける喫茶スペースと、作り手とお客さんがより近くなるような店の設計は辻口さん御自身が図面に線を引き生まれたものである。忙しい傍らシュガー教室を開いているというのも、この辻口さんならわかるなと思わせられてしまう。

今後はお菓子を始め、デザインにもっと気を配れたらいいと考えているそうだ。コンクールで培ったものを徐々に取り入れていかれたら、というから今後の商品にはますます目が離せない。文頭で述べたように恐れ多くなるほどのメダルの持ち主である。
だがそんな偉ぶったところや壁は全くない。私たちが喜ぶ顔を喜んでくれる、そんな人柄がなんだかとても嬉しい。
取材日 1999年


辻口シェフの秘密