「ピッコリーノ」
伊藤 幹雄 氏

伊藤さんをクリック。




 初めてお会いしたときは、ハンティング帽の気のいいおじさん。二度めに会ったときは白衣に帽子姿で子供の頃イメージしてたパン屋さんそのもの。
伊藤さんは東京・町田で天然酵母のパンを作っています。お店はなく、完全予約生産で直接配達するか、郵送でパンを届けています。

もともとはサラリーマンだった伊藤さん。この仕事について20年、天然酵母を始めてからは15年。「はじめたのは全くのはずみ」「やろうと思って始めたわけではない」とおっしゃっるが安全でおいしいパンにかける情熱は人一倍。ここまでやってきた原動力は「こうしてほしい」とお客さんに出される宿題だという。

天然酵母パンというと美味しいより体に良さそうだから選んでいるって感じがありませんか?がっしりして噛み応えがあって。でもピッコリーノのパンは天然酵母を使っているのにふんわりやわらか。焼きたてのものより、少し日にちを置いた方がよりいっそう味わい深く、美味しさを感じることができるパンです。
 どうしてこの旨みとやわらかさがでるのか。どうやら秘密はホシノ天然酵母と南部小麦にあるようです。熟成した酵母をちょっとお味見させていただくと、まろやかな香りで上質な日本酒のような味。うまい。筆者も以前、ホシノ酵母を使ってパンを作ったことがありますが、酵母はつんっと、少しすっぱい感じ。発酵もなかなか進まず、がちっとしたパンになっていまいました。伊藤さんのような味と香りにならないとパンには向かないそうです。(ぐっすん。何にもわかってなかった私。)さて小麦のお話。インタビューの途中、ゲンコツパンをいただきましたが、噛んでいると粉の旨みがじんわりとしてきます。伊藤さんが使っているのは南部小麦。毎年夏に岩手県の産地巡りをして、生産者と直接話して小麦を分けていただいているそうです。天候不順や作付け面積の減少などで入荷が難しいときは、秋田の生産者にまで掛け合って、南部小麦を確保しているといいます。材料に妥協しないその姿勢がパンの味をいっそう美味しくしているようです。

「やはりこだわりは天然酵母と南部小麦ですか」の問いに「うちはこだわってないですよ。安全な材料で、安全な作り方をして、安全な食べものを提供しているだけ。ごく当たり前にやってるだけです。」「こだわりの言葉でくくられたくないのが本音です。」との答え。

 今後は「パンの作り方を教えるほうに重点を置いて、美味しいパンが作れる人を多く育てたい。」また「国内自給率を下げないためにもっと国産小麦をつくらせたい」と語ってくれました。
 インタビューから数日後、パナデリア取材班も伊藤さんのパン教室で天然酵母パン作りに挑戦!パンの扱いがとっても優しい伊藤さん。不慣れな私たちに丁寧にコツを教えてくれました。できたのは、全粒粉の素朴なパン。1日ごとに変わっていく旨みを楽しみながら美味しくいただきました。

取材日 1997年


天然酵母パン「ピッコリーノ」
東京都町田市野津田町830
TEL 0427-35-0201 FAX 0427-35-1554

*パン教室は通常3か月のコースで開講しています。次期は'98.2開講予定。
*伊藤幹雄さんの本が出版されます。(11月下旬以降の予定)
「生きているパン〜ホシノ酵母と国内産小麦でつくる〜」朝日出版 \1,700(税別)
'プロの技と知恵で必ずできるおいしい健康パン' で作り方のこつがいっぱいです。
*ピッコリーノのパンはホテル ザ・エルシィ町田のフランス料理店レストラン ラヴィでもいただけます。