南部
杉山 勝 さん
 

   



オープンした当初、近所の方たちから"高いパン屋さん"という風に思われてしまったんです。古い町ですし、大手チェーンのパン屋やコンビニのパンくらいしか比べる対象がないので、そう思われてしまったんですね。しかも"天然酵母"がどういうものかを知る人も少なかったので、何にこだわっているのかなかなかわかってもらえなかった。

逆に"天然酵母"、"国産小麦"などを求めて買いに来てくださる方には「安いですねー!」と驚かれます。

そういう訳で、近所の人よりも子供がアトピーになり悩んでいるお母さんなど、安全性にこだわる人がインターネットなどで調べてわざわざ車で買いに来たり、通販を利用するというケースが多いですね。
低インシュリンやパイウォーターなどの本で紹介されたときには、それを見て買いに来てくださる人もいました。ただ、玄米粉を使ったリブレ〈玄米〉パンが効くということでそればっかり買っていくんですよね。体に良いといっても、毎日毎日同じパンじゃ飽きちゃいますよ。自然に体がおいしいと喜ぶようなものじゃないとだめなんですよね。


うちでは初めてくるお客さんには、まず試食をしてもらっているんですよ。せっかく来てくれたんだから、自分の好みに合ったものをみつけて欲しい。自分もね、お店に買いにいって見た目だけで選んで失敗した経験があるから。

それから、幼稚園やオーガニックレストランにもパンを卸しています。うちのパンのおいしさは、食べてもらえればわかる。いいものっていうのは、体にすーっとはいっていくんですよね。この店を始めて4年になりますが、自分たちの食生活も意識するように心がけていたんです。そうしたら、化学調味料が入っている外食なんてするとてきめんで、ひどく胃がもたれてしまうんです。二人であわてて胃薬を飲んだことがあるんですよ。お客さんからも、お子さんが他のパンを食べなくなっちゃったなんて聞いたことがあります。

店を始める前からずっと「なぜ入れる必要のないものを入れるのか?」と言う疑問が自分の中にありました。だから、疑わしい素材は一切入れないようにしています。お茶は、杉本園の有機、無農薬のもの、発芽玄米と黒米は千葉・佐原の篠原さんという有機栽培をやっている方、と生産者の顔の見えるものを選び、できるだけ直接生産者に会うようにしています。

天然酵母、国産小麦のパン、というと酸味の強いポソポソしたものを思い浮かべる人も多いですが、それは初めに天然酵母を紹介した人たちのパンがそうだったから。うちでは、ホシノ天然酵母と、ナンブ小麦、アルカリイオン水を使っていますが、砂糖をいれなくてもナンブ小麦特有の粉の甘みで噛んでいるとじんわりと甘みが広がるんですよね。それから、この辺りの水質がよいからか国産小麦でもしっとりとした食感が生まれるんです。

天然酵母のパンは、イーストと違って自然の持つ力を利用して発酵するので、発酵だけで12〜20時間位と非常に手間がかかります。クルミとレーズンを入れるパンなど、クルミを入れて発酵、さらにレーズンを入れてまた発酵とかなり手間がかかりますね。店頭の販売以外に、火曜日と金曜日の通販、水曜日の幼稚園に卸すパン、それから教室も5クラスあるので、大変です。
天然酵母のパンは日持ちがするのですが、うちでは1週間持つものでも2日を期限に店頭に並べています。手間隙かけ、良い素材を使って作ったものが無駄になるのはもったいない。そこで、パンが余ったときには立川市の至誠学園という児童擁護施設に持っていき、園児や学生に食べてもらっています。

今、ブームということもあって天然酵母をうたうパン屋が多いですが、イーストと併用しているのか100%天然酵母なのかわからないことが多い。しかも、天然酵母100%でも小麦粉にポストハーベストの心配がある外麦を使っていたり、便利だけれど体によくないショートニングを入れていたりと全体を見ると首をかしげる部分もあります。最近、雑誌などからの取材を受けることが多いですが、そういう天然酵母とイーストの違いまで説明している記事が少ないのは非常に残念です。


こだわりといっても、結局は"おいしいパンを作る"ということにこだわっているだけ。 "ジャム"を例にあげると、うちではフルーツのほかは砂糖だけしか入れません。それで1年間普通に日持ちするものなのに、さらに長く持たせようとして色々なものを加えるから変な味になってしまう。そういう昔ながらのことを守り続けているだけですよ。余計なものをいれなくてもおいしいものはできるんです。

取材日2003.10.


南部
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042−359−5963

杉山さんの秘密