ノリエット 

永井紀之 氏

 店を始めて8年になります。最初よりも肩の力が抜けました。今思うと、はじめの頃はフランスにいた感覚で、突っ張っていましたね。「もっと甘くなくちゃ」「もっと重くなくちゃ」というのが強かったですよ。でも、今は自分の味覚に素直になれるようになりました。「ちょっと重過ぎるんじゃない?」と思ったら軽くできるようになったというか、そういう感覚です。

 それから多少なりとも、店のケーキに昔よりも色気が出ているはずですよ。ほんとは嫌なんだけれど、まず目をひいて食べてもらうためには、こういうことも少しは必要かなあと思うようになりました。でも、決してゴテゴテせず、自分が許せるギリギリのデコレーションですけれどもね。

 「フランス菓子」という看板を掲げているからには、やはり伝統的なものが基本です。それを自分流にアレンジ。素材も、新しいもの珍しいものと追い求めることはしないですが、例えば最近出てきたパラチニットとか新しい砂糖はコンフィズリーの可能性を広げるなと思いますし、だから使ってみたりします。コンフィズリーやヴィエノワズリなどはオープン当初から店にありますよ。「こういうものやってなきゃ、フランス菓子屋じゃないだろ!」というのが自分の中にあるんです。最初っから、店をやるベースが商売哲学じゃないんですね。もとを正せば「フランス菓子を作る人間はこうあるべき」ということまでしっかり教えてくれた師匠、河田さん(オーボンヴュータン 河田勝彦氏)の影響ですね。

今思い出すと、河田さんにお菓子を教わったというイメージはないんです。フランス菓子とはどういうものか、それに取り組む人間のあるべき姿や仕事への姿勢などすり込まれたんです。今も、例えば簡単なナパージュを使おうとしても「楽するな」と自分に言い聞かせて踏みとどまれるのは河田さんのおかげ。「前どうだった」ではなく「今何をしているか」がすべてだ、というセリフも良く言っていました。だから、今はもちろん、5年後、10年後にしっかりした仕事が出来るよう、今は何をすればよいかということも、常に考えています。お客様にもね、時間があればどんどんオーダーのケーキを頼んで欲しいです。こちらは採算が合わなくてもやりたいし、そこに菓子屋としての面白さがある。なにより、「ガッチャンコ、ガッチャンコと版を押すようにケーキができるわけじゃない」ということを知ってもらいたいですね。

それからもうひとつ。店のケーキをひとつだけ食べたりしただけで、「これがノリエット」とか「これがこの店」って思うのはちょっと違うと思う。マスメディアなんかに、例えばシュークリーム一個取り上げられると、それだけ食べてその店すべてがわかった気がすることもあるかと思うけれど、そうではなく、もっと他のケーキも店の雰囲気も、すべて見てもらいたいですね。こういうことを理解してもらうことで、僕らが5年後楽しく仕事が出来るんじゃないかなと思うんです。

取材日 2001年5月













ノリエット
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