オラン

松川 和弘さん
秋場 隆行さん
堀田 誠さん

2002年12月、世田谷の住宅街に颯爽と登場したオラン。是非『こだわり職人』の取材を、とお店に伺ってみると、3人でパンを作っているとのこと。それぞれの想いについて語っていただいた。

   




「自分で何かをやりたい、と思っていました」と話すのは、大学卒業後、サラリーマンを選ばずパンの世界を選んだ、松川 和弘さん。
それまで学んできたことや、環境に違いはあれ、3人に共通していたのがこの気持ちだった。独立するなら自分の好きなことをやってみたい、そう考えて選んだのがパンの世界だったというわけである。
「パンは好きだったし、パン屋からイメージする雰囲気が好きだった、そのパンで独立できたらと思ってパンの世界に飛び込みました。」とは秋場 隆行さん。
堀田 誠さんは、大学時代に "酵母" をテーマに研究をしていたことから、パンの世界へ飛び込んだという。

よく似た動機からパンの世界へ飛び込んだ3人は、引き寄せられるように代官山の「アルトファゴス」へ集まる。
キーパーソンは、現在 ユーハイム ディ マイスター 丸ビル店でシェフを務める志賀 勝栄シェフ。 志賀シェフの作るパンに魅せられた3人がオランで作り出すパンは、やはりアルトファゴス時代に作っていたパンがベースになっているという。

そのうち、一緒に働いていた3人それぞれ別々に、「店をやってみないか」という声がかかった。独立への夢を持つ3人は、それぞれ異なる思いを胸に抱き、独立を決めた。

3人を見ていると、誰がリーダーというのでもなく、それぞれが自分の世界を持ち、その上で3人が協力し合っているという印象を受ける。「今思うと、オープン前に3人で丸1ヶ月の間、ヨーロッパを旅したのがよかったのだと思います」と秋場さんは語る。キャラクターの違う3人だったが、1ヶ月間、朝から晩まで3人だけの生活をしてみて、お互いのものの考え方が理解できるようになり、少しずつチームワークが生まれ、そして3人で店をやっていくスタンスが確立したのではないかと当時をふり返る。バックパッカーのスタイルでスイス、ドイツ、フランスを旅し、食べるものはほとんどパンという、パン三昧の旅だったそうだ。
「お互いの表現の自由を奪いたくない、そんな気持ちからオランではあえてシェフを決めていません。3人がパンを作り、店のこともやるという風に、あえてスクエアなスタイルを取っています」と堀田さんは語る。

松川 和弘さん

秋場 隆行さん

堀田 誠さん

「オープンするにあたって3人で色々と話し合いました。どんなパンをやりたいかという点では3人とも同じでした」と松川さん。今までやってきたようなハード系のパンの美味しさや楽しみ方を伝えたい、馴染みのないパンを日常に取り入れてもらいたい。大げさかもしれませんがそれが何度も話し合った3人の夢だったんです。」

毎日の食卓に並ぶ角食のようなパンはオランにはない。駅から離れた住宅街という地域では、かなりリスクが大きいのではないだろうか?そんな心配をよそに、小さい子供を連れたお母さんや、50〜60代の中高年層が、「今日はバゲット1本」という感じで買いに来るのだそうだ。


パンの素材についても3人の思いを1つにしてくれたのは、旅の経験だった。「パリのMOFブーランジェのムニエ氏の店を訪れた時のこと、氏に『結局は、腕と頭なんだ』と言われ目のさめるような衝撃を受けました。」店にはバゲットだけでも5,6種類あり、それぞれに風味も食感もまったく違う。しかし、使っている粉は2種類だけなのだそうだ。「それまでは、それぞれの粉への思いはありました。でも、あんまり粉や素材にこだわりすぎないで、まずは腕を高め、美味しい商品を作ることをしっかりとやろう、ということで方向性が一致しました。」と松川さんは話してくれた。

1周年を目前にし、念願の天然酵母を使った商品もお目見えした。インドネシア語で『人間』を意味するオラン(Orang)。フランス風でも日本風でもない、3人が生み出すパン屋がここにある。


取材日 2003年9月24日


オラン
東京都世田谷区赤堤1−43−1経堂スカイマンション1F
03-5301-2186

オランの3人の秘密