ORIGINES CACAO
オリジンーヌ・カカオ
前編

川口 行彦 さん  



   


オープンが12月だったので、すぐにクリスマス、ヴァレンタインと非常に忙しい時期を迎え、スタッフみんなが大変な思いをしたな、というのが今の正直な感想です。スタッフのことも考えると、何ヶ月か前から時間的に余裕を持って準備やスタッフとのコミュニケーションをできればよかったと思いますね。
でもそれを乗り切れたのもいいスタッフがいたから。みんな本当によく頑張ってくれました。

出身は静岡です。伊豆半島 東伊豆 ”金目鯛”と”ところてん”がおいしいのんびりした所ですよ。
叔父が寿司屋をやっていた影響で中学校時代から飲食業をやりたいな、と思っていました。親の勧めで高校へ進学、でもずっと飲食業には興味がありました。
同級生が大学へ進むなか、自分はまだ何がやりたいのかわかっていなかったんです。
予備校時代に母親が亡くなりました。その時"なんてオレは親不孝なんだ"と思ったんです。母親に何もしてやれなかった分、せめて親父が生きている間に何かをしたいと思い、その後すぐに予備校を辞めました。
伊豆には磯料理屋が多く、最初はそれもいいなと考えていました。その時に、知合いに菓子屋を紹介され、浜松にあるお菓子屋さんの工場へ。ところが、入ってみると毎日毎日天板を洗うだけの仕事でした。


工場に行く途中に「マルタヤ」というケーキ屋を通るのですが、ガラス越しにみんなの作っている姿が見える。たしか、ゴッツエ氏がいたお店だったと思います。その様子を見て『何で自分は天板を洗っているんだろう?小さい所でもいいから技術者になりたい。東京でなくてはダメだ。』と考え、東京へ出ることを決めました。
最初はドンクの工場にしか空きがないと言われました。ところが、ちょうど運良くドンク六本木店に欠員がでたんです。
店の近くには、フレンチレストラン「イル・ド・フランス」とその寮があり、そこのメンバーと仲良くなりました。そのうち「イル・ド・フランス」系列の「パッション」が、ルノートルのシェフを招きパティスリー部門を立ち上げるという話が持ち上がりました。ところが、仕事のきつさは倍、お給料は半分という条件だったんです。
ちょうどその頃、私は『フランス菓子とは何だろう?』、『どうしてこうやって作らなくてはいけないのか?』、『どうしてこうなるのか?』という、菓子作りの壁にぶち当たって悩んでいた。若い頃の苦労は買ってでもしろ、とも言いますよね。働き者の技術者の父の姿が目に浮かび、やってみる決心をしましたが、結局他には誰も行きませんでした。



新しい職場は、ルノートルで13歳から働いている生粋の職人と2人。ルノートル氏も顔を出すことがあり、「ああ、これがガストン・ルノートルか。」と感動しましたね。
そこでの作業は、今までとは違いました。
例えばエクレアだったら、定規で測って10回絞る。これでOKをもらえれば、その作業は任せてもらえるんです。
4、5年して、シェフがフランスへ帰って店をやることが決まり「一緒にフランスにこないか?」と誘われました。ずっとスーシェフでやってきたし仲も良かったので、すぐにフランス行きを決めました。
だったら、店がオープンする前に色々な店を見ておこうと、一足先にフランスへ行き何件か店を回りました。帰国してビザをしようとすると、これがなかなかおりない。相手が個人店ということもあり、難しかったようですね。「パッション」でバイトをしながらビザがおりるのを待っていました。


その頃ですね、和光のケーキショップから声がかかったのは。でも「フランスに行きたいから」と断りました。
年の瀬だったでしょうか、お金もなくコックの友人宅に寝泊りしていました。そんな時、もう一度和光から話があったんです。今までは縁のなかったボーナスがもらえ、「いつやめてもいいから」と言う条件付き。「それなら・・」と和光へ入ることを決めました。
しばらくすると、和光がチョコレートショップを新設することに。「シェフをやらないか」と声がかかりました。最初は断わったのですが、2度目は「会社の費用でフランスへ行っていい」との条件付き。これは嬉しかったですね。
帰国後、チョコレートショップをスタート。最初は大井町にある仕事場で2人で作業していました。その頃はロベール・ランクスとの提携もあり、同じような類の商品がコンセプト。日本で手に入る材料で、いかに完成度を上げるかということを目的にチョコレートを作っていましたね。
それから、17年。
途中で何度か辞めようと思ったこともあります。でも、後を任せる人がいなかった。任せようと思うシェフが皆、渡仏や独立をしてしまって。だったら自分がやっていくしかない、とシェフを続けた訳ですが、一方で自分がやり遂げなくては、という思いもありました。まだ、日本にはチョコレート屋がない時代。"チョコレート"というものが良いと認められ、ちゃんと売れるものにしたい。人間として、成功させてから辞めたいとはずっと思っていました。


後編では、和光をへて「オリジンーヌ・カカオ」オープンに至った、
シェフのチョコレートやケーキに抱く思いを伺っています!


オリジンーヌ・カカオ
東京都目黒区緑ヶ丘2-25-7
ラ・クール自由が丘2F
03-5731-5071