ピエール マルコリーニ銀座
Pierre Marcolini  

     (写真:土居麻紀子)

   

先週のジャン・ポール・エヴァン氏に引き続き、今週も先日のサロン・ド・ショコラで来日されたピエール・マルコリーニ氏のインタビュー。銀座のショップでお話を伺いました。 日本では、オープン以来予想以上の売上でご本人も驚かれているそうです。「日本はチョコレートのお店もどんどんオープンし、ショコラティエを目指す職人も増えているとのこと、これからがとても楽しみです。」とおっしゃっていました。


(以下マルコリーニ氏談)

これまでに、ショップのあるベルギー、ロンドン、東京などでたくさんの取材を受けてきましたが、ジャーナリストの方々は「チョコレート会社」と「ショコラティエ(チョコレート職人)」との違いをはっきりと認識されていないように感じてきました。そこで、まず初めに「ショコラティエとは」という定義からお話したいと思います。

現在、原料となるカカオ豆の産地には、伝統的なものでは南米のメキシコ、エクアドル、ベネズエラがあり、アフリカ諸国も50%を超える生産量を誇っています。そして近年ではアジアでも生産されるようになってきています。
この原料であるカカオ豆から、チョコレートの状態になった「クーベルチュ―ル」を作るわけですが、これにはひとつの産地のものだけで作られるものもあれば、産地がブレンドされたものもあります。チョコレート会社というのは、この「クーベルチュ―ル」の状態になったチョコレートを買って、型に流すなどの加工をして売っているだけなのです。ワインの世界で例えれば、協同組合がつくったものに、ただ生産者の名前の印字されたコルクをしただけのもの、というようなことになるわけです。



私がやっているのはそうではなく、原料から付加価値をつけたものまで、つまりチョコレート作りのAからZまで全てなのです。希少価値の高い豆、生産量の低い豆でも入手できるようにするには、そうやって常に自分で開拓していかなければならないのです。リヨンのベルナール・ションも私と同じようなやり方をしていますよ。ですから、このようにして作った板チョコレートというのは、最高のもの、聖なるものであり、これを作るのがショコラティエなのです。ボンボンにしても同様に、中に詰めるクリームやガナッシュも、そしてまわりを覆うチョコレートも、全てがショコラティエのオリジナルなのです。豆から吟味し、全ての工程を管理して作る、それがピエール・マルコリーニのチョコレートです。

一方、大手チョコレート会社はクーベルチュールの状態になったものを30〜40万トンと買い付けます。彼らが「ベネズエラ産のチョコレートの味は・・・」などと言っても、所詮は一次加工を施した状態の味しか知らないわけです。原料のカカオ豆を実際に見たこともないのにチョコレートを語るというところに、大きな矛盾があるのです。


今、世界には国境というものがどんどんなくなってきていますね。以前ベルギー大使がおっしゃっていたことですが、日本に来て何が一番驚いたかというと、ベルギーの職人が日本にいたということだったそうです。そのくらい、人の交流、文化の交流が広がってきているということですよね。チョコレートの知識も広がったし、逆に日本の寿司や天ぷらも世界に広がってきている。一方通行ではない、双方向の文化的・知的交流があるわけです。ボンボンに使われる伝統的なプラリネにも紅茶のフレーバーが使われるなど、どんどんインターナショナルになってきています。私はチョコレートには、クラシック音楽やワインのように、誰からも受け入れられる普遍性が秘められていると思うのです。特に、ボンボンは中に使う素材にいろいろなものを取り込むことができるので、素材的にも、そこに内包された文化的背景にもとても豊かなものがあると思います。

この銀座のショップをオープンするというお話を頂いたとき、私は東京ですらろくに知らないような状態でしたので、どういう店にしたいか、そのコンセプトを明確にしようと日本のスタッフと何度も話し合いを重ねました。 私はこの銀座のショップを、人と人の出会いの場、くつろぎの場、また、心と舌で楽しみを見出せる場、そしてプレゼントなどによって喜びを分かち合う場にしたいと思っています。カフェとチョコレートを結びつけることで、新しいコンセプトを、しかも日本とベルギーというつながりの中につくるということはとても嬉しいことです。

ここへ来られるお客様には、日常のストレスから解放されて探究心や好奇心を取り戻し、贅沢なひとときを味わって頂きたいのです。様々な文化、思想、アイデアの交流があり、それらが融合され、味わいや空間を通じて深まっていく、そういう場にしたいと願っています。