経営者サクセスストーリー

キャトル 東氏


ルコントで修行を始めその後スリジュへ。
15年前に原宿キャトルをオープンさせ4年前に成瀬台店を、昨年9月には柿の木坂店をあいついでオープンさせる。渋谷東急本店、東武池袋店にも商品を置いている。

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東氏が経営する洋菓子店「キャトル」の売り上げの割合である。焼き菓子が5、生菓子が3、喫茶が2。原宿に最初のお店をオープンさせて15年、ここ数年に2店も新しいお店をオープンさせた。こんなご時世だが順調に事業を拡大している。


工場を後ろに控えた柿ノ木坂の可愛らしい店内には何種類もの焼き菓子がきれいに並んでいる。売り上げの半分を占めるこれら焼き菓子は、どうやって他社との差別化をはかり売り上げを伸ばしてきたのだろうか。

東氏は言う。「焼き菓子は例えば同じ材料にチョコを混ぜたりするだけで簡単にいくつものバリエーションを広げることができる。でもそうすると結局どれも同じような味に収まってしまう。手間はかかるけれど、あえて形も素材も違うものを作っている」と。確かにここキャトルのきれいにラッピングされた焼き菓子たちは、色・つや・形がそれぞれ違い、食べたときの味も食感もきちんとそれぞれが個性を持っている。
そしてこれらの焼き菓子たちが、おそらくはキャトルの未来をも担っている商品なのだ。


朝7時半に柿ノ木坂の工場へ。そこから商品とともに東武池袋店に向かう。お店の人と一緒にショーウインドウにお菓子を並べた後、11時に原宿キャトルに到着。渋谷の東急本店をまわって2時に柿ノ木坂にもどり5時まで働く。成瀬台に週に一度様子を見に行く。こんなサラリーマンのような時間帯で働く東氏、もともとは自らもお菓子を作っていたが、一人ではとても手が足りないと思ったときから経営側にまわった。話をお聞きすると、職人の顔と経営者の顔が微妙なバランスで見え隠れする。

「洋菓子をもっと広めていきたい。優秀な人材が多く洋菓子業界に入ってきて、お菓子屋さんとしての成功を目指してみてほしいと思う」、そんな風に洋菓子業界全体を見つめる広い視野、値段と味の接点を慎重に探るあたりに経営者ならではのコスト意識の高さを感じていると、「お菓子は寿司と同じ。定番もあるけど旬を大切にしなくては」と職人の横顔がちらっと見えたりもする。

「柿ノ木坂は工場地としては値段が高い、しかしお菓子店としてはちょっと行きにくい場所だ」と自らの店舗を指して言うが、工場を併設しているからこそ安い値段で高品質のものを常に提供できる。ここ柿ノ木坂店は裏の工場から運搬コストなしで商品を運べるメリットから、キャトル他店より値段を抑えてお菓子を提供している。そして多少便が悪くともわざわざ求めにくるお客さんや、可愛い青いひさしに惹かれて店に吸い寄せられる人、地元の人でほど良く人の出入りがある。ここ柿ノ木坂を選んだ東氏の目はさすがと思う。


材料と値段。値段と味。生産と販売。このあたりのバランス感覚のよさに、経営者でありながらも持ち続ける「職人魂」、これが東氏キャトル成功の鍵である。この業界の経営者としてのサクセスストーリーを生んだ彼の経営者としてのこれから、そしてフランス語で「4」という名前通り四季のあるキャトルの商品にも大いに注目していきたい。
取材日 1998年