VIRON
ヴィロン(前編)

牛尾 則明さん





   




2003年6月に渋谷にオープンしたVIRON。赤を基調にしたスタイリッシュな外観とロゴ、そしてまるでフランスそのままのようなパンの品揃えに驚いた人も多いのではないだろうか。
VIRONを経営しているル・スティルの専務であり、職人でもある牛尾 則明さんにVIRONそしてご自身のことをうかがった。
「生まれは姫路です。図画工作や機械いじりが好きで、父が自転車のパンク修理をするのを見て、見よう見真似でやってみたりしてました。近所のお母さん達が『これも直して』と持ってきたりして。結構たくさん修理しましたよ。
1年の3分の1は歯医者通いという程、お菓子が好きでよく食べていました。」


パン屋らしからぬロゴは
VIRON社のもの






パリを思わせる粋な空間

"食"に興味のあった牛尾さん。就職に選んだのも"食"の道。ところが、ここで思わぬ運命のいたずらが・・
「学校を卒業し、「Viron」つまりル・スティルの経営母体であるニシカワ食品に就職。実は、その前に見学に行っていたのですが、実際の現場はいわゆる3K。その時は、パン屋にはなりたくないな、と思って帰ってきたんです。ところが、希望する会社に入れず、就職のタイムリミットも近づき、とりあえず入社を決めました。1年したら辞めよう、本当はそんな風に考えていました。
そして配属されたのがパンの工場。器用なせいか、コルネを巻くのが人より早かった。職場のおばさんたちにもずいぶん重宝がられました。」





パン工場で持ち前の器用さを発揮しパンの技術を習得する牛尾さん。苦労はなかったのだろうか。
「半年経った頃、上司に一番難しいパンは何かと聞いたんです。答えは"フランスパン"。工場では色々な種類のパンを作っているので、覚えることがたくさんある。一番難しいのさえクリアすれば、後が楽だろうと考えたんですよね。
ところが"職人の世界"では、聞いたところで絶対に教えてはくれない。みんなが帰った後に我流で仕込んでみたりしていましたね。
ある日、フランスパン担当の職人が作業をしているのを見ていた時のこと。その職人がフランスパン生地50kgを10分で分割していました。すると、『おまえ、ちょっとやってみろ』と言う。
でも、自分が分割にかかった時間は40分。ショックでした。
"早く覚えたい"、そして"負けたくない"という気持ちで一杯でした。少しでも早く切れるようにと、スケッパーを研いだりもしました。
そして、1ヶ月後。8分で分割できるようになりました。それを見た職人が「じゃあ、おまえがやれ」とフランスパンの持ち場を明け渡してくれました。」


バリッとスーツ姿の牛尾さん







ケーキや焼き菓子も
フランス風

そして、そのヴァイタリティが新しい世界を開く。
「昭和53年当時は、ソフトで典型的な日本風フランスパンが主流。作り方も、まだ確立されておらず、かなりいい加減な部分がありました。
そこで、社長からビゴの店でフランスパンをしっかり勉強してくるように言われ、ビゴ氏の下で修業。インストアベーカリーも7,8軒担当しました。」



そして、再びニシカワ食品へ。
「日本にフランスパンを広めたと言われるカルベル氏が来日したのは、まだ日本人がフランスパンを全く知らない時代。その背景でまず第1に必要だったのは、フランスパンの作りやすさだったと思います。そこに重点をおいて開発された小麦粉は、代わりに風味や食感が失われたもの。
それ以来、一般的にフランスパンと言うとこのイメージが定着してきました。もちろんこれをくつがえすつもりはありません。それはそれでいいと思っています。
ただ、自分としては本物を提供してみたかった。
ビゴ氏には『俺がやりたかったことをやられた』と言われましたよ。でも、ビゴ氏の広めたフランスパンの基礎があってのこと、と思っています。」


少し高めのパン棚はフランス仕様





爽やかな旨みのフランス産
セーグルもVIRONならでは

そして新しいコンセプトのショップの企画が始まる。
「そういうわけで、新しい店のコンセプトはフランスのパン屋の姿そのまま。バゲットを中心としたフランスのパン屋の平均アイテム40品に、アルザスやリヨンなど地方性のあるもの20品を加えた60種を揃えています。
コンセプトが先にたった形でスタートしたわけですが、今思えばかなり危険だったんですよね。実は日本でハード系の売り上げと言うのは、全体のわずか2,3%くらいのもの。これだけで勝負しようと言うのですから。ただ、今のパン屋にありがちな"ハード系から惣菜パンまでなんでもある"というパン屋はその店自体が何を訴えたいのかがわからない。そういうのは嫌だったんです。」






本格的なハード系のみの店のオープン、順調に進んだのだろうか?
「実は、場所を決めるのにも一苦労でした。関西の会社なので、当初は神戸や大阪を考えていました。ところが、大阪にハード系のパン屋を構える知合いに相談すると、大阪での手ごたえは今ひとつよくないようで、東京の方がいいだろうと言われたんです。それなら東京で勝負しようと、と進出を決めました。ところが、条件の1フロアで80〜100坪という場所が全然見つからない。最初は自由が丘、その後、銀座や表参道なども探しましたが条件に合うところがないんです。"渋谷"はどうも若者の街というイメージがあり、最初は考えに入れていませんでした。
場所を決める期限の日が迫っている、でも見つからない。そこで、この場所を見に来ると、意外にも落ち着いていて高級住宅街も近いという好立地。あっさりここに決まりました。

大人の雰囲気の
2Fブラッスリー





バゲットの品揃えは3種
場所が決まり、フランスVIRON社の小麦粉"レトロドール"を使った『VIRON』のオープンまであと3日。
ところが、どうやってもパンが膨らまない!!



無事オープンにこぎつけるのか?!
後 編 はヴィロンでレトロドールを使えるようになるまで、
またフランス産小麦を使ったパン作りのご苦労をお伝えします!
どうぞお楽しみに!


VIRON
東京都渋谷区宇田川町 33-8
03-5458-1770