卵については2点の問題があると思うんです。一つは、食中毒を起こすサルモネラ菌についてですよね。卵を触った場合、やはりとても神経質になります。菌がついていたら、その後触った調理台や器具、全てに広がってしまいますから。火を通す焼き菓子には基本的に割卵を使っていますが、ムースなどには冷凍のものを使っています。昔、デパートにケーキを出していたときは、衛生面の厳しさから生菓子にはすべて冷凍卵黄を使っていましたね。 そしてもう一つ、長い目で見たときの体への安全性というのがありますよね。鶏の餌の問題なんかがそうです。こちらは、食中毒のように食べたらすぐ病気になるというものではありませんよね。でも、抗生物質など鶏が食べていれば、それは卵にも残り、私たちの体にも蓄積されますから。食べ物を作る立場として、こういうことがどこまで追求できるか、気を遣っていきたいなというのがあります。 卵の話題って色々な人と話している時、結構出るんです。こういうのがいいよとか、こんな卵があるよ、って。サンプルをいただくこともあります。今回、ある所から城山鶏園の卵の話を聞いて、食べて全然今までと味が違ったし、餌の段階からかなりこだわっているその鶏の育て方にも興味を持ちました。黄身も箸でつかめるんですよ。卵白の立ち方の差は歴然としています。しっかりした泡が立つんですよね。 卵を替えると、お菓子はどのくらい違うのかな、っていうのもずっと興味がありました。ちょっとづつテストしてもわからないですから、ここのところ、1ケース(10キロ)、2ケースと注文して、今のお菓子作りの工程の中に組み込んで、仕事として流してどういう差が出てくるのかやってみています。かなりいい卵だなという手応えはありますね。だだ、当然値段も高いです。普通の卵の倍くらいかかってしまいますね。この卵を全てのお菓子に使ったからといって、お菓子の値段を上げるわけにはいきませんから、どういう風にお客様にアピールしていくか、そのあたりも難しいところです。 今、ここでは割卵以外に、冷凍卵黄、冷凍卵白、乾燥卵白を使っています。卵白と卵黄、同じ数だけ使う訳ではありませんから、それを乾燥・冷凍もので補わなくてはならないです。焼き菓子がいっぱい出ると卵白が足りなくなったり、生菓子がいっぱい出ると卵黄が足りなくなったり。 冷凍卵白はそれだけだとコシが弱すぎます。どんなにいい卵でも、冷凍するとコシが抜けてしまいます。乾燥卵白はしっかりメレンゲも立ちます。冷凍卵黄は、シンプルな材料で作るアイスクリームなどに使うと、まろやかさやコクにおいて割卵に負けることが味に出ますが、それは冷凍が悪いというのではなく、冷凍にする卵の選別の仕方から来るところが大きいのではと思います。やっぱり大手メーカーだと、餌にまでこだわった鶏の卵を扱っているわけではありませんからね。(いい意味で)特殊な育て方をした鶏の卵で作れば当然値段も上がるでしょうし。 今、1日に使う卵は平均2ケース。値段が倍になるのはなかなか大変なことですが、でも、卵の値段って今まで他の素材に比べて安すぎたのかな。高いっていうのが普通の値段かもしれないですよね。 |