まちむら農場 町村 均 氏

私の祖父にあたる人が、札幌農学校卒業後、明治39年にアメリカに渡航して、中北部ウイスコンシン州で近代的な酪農・アメリカ的な牛の飼い方を10年間に渡り勉強してきました。帰国後、はじめは東京・中野で搾乳業を始めたんです。その後、大正6年に現在の石狩市樽川地区で牧場経営にのりだしたんです。でも、自然の厳しさに10年で石狩での酪農を断念し、昭和4年に江別へと移り、再び酪農を始めました。これが本当の創業というかたちだったと思います。それから60年間、現在は資料館になっている旧町村農場で酪農が行われていました。現在地には平成4年に移ってきました。この農場は、日本の酪農の先駆け的牧場の一つなんですね。

まちむら農場は、創業時からホルスタインの乳牛専門の牧場です。昭和40年くらいまでは、牛乳などの販売というより、牛そのものの販売をおこなっていたんです。もちろん牛乳も売っていましたが、そこから得られる収入というのはたいしたことはなかったんです。祖父はアメリカに行っている間に、アイスクリームやバターを作る技術も学んできていました。生の牛乳そのものは長持ちしないけれど、形を変えれば長持ちをするんだということを学んで、その技術を会得してきました。力こそ入っていませんでしたが、アイスクリームやバターはかなり昔から作っていましたよ。アイスクリームは長いこと自家用だったんですが、バターの方は戦前から販売していました。長い間、新宿の中村屋レストランに納めていたんです。あとは近所の人に少し分けたりして。でも、そういうものよりも牛を売った収入のほうが主だったんです。それが父の時代くらいになると、牛の能力が上がり育種改良のレベルが難しくなり、売ることが難しくなりました。そこで、それまで主でなかった加工乳で柱をたてようと考えたんです。昭和43年に工場を作り、飲むための牛乳を始めました。

今は9割が乳、乳加工業が中心です。牛乳、バター、飲むヨーグルト、アイスクリームの4種類を販売しています。その中で売上、使用量ともに牛乳が一番。牛乳、アイスクリーム、バターの順です。ただ、牛乳とアイスクリームの間はすごく差がありますけどね。うちの牛乳はUHTが主流なんです。昔は低温でノンホモだったんですが、何年かして量販店に出すようになってUHTのホモの通常のかたちにして売っています。今後は低温殺菌のラインもあるので、UHTの牛乳とは別に作っていきたいです。







美味しい牛乳を作り出すためにいろいろな考え方があると思いますが、うちは青草は与えないんです。つまり放牧して、生えているそのままの草は食べさせません。青草ばかり食べさせている牛の乳はやはり青臭い、それに成分があまり高くならないんです。コクが出にくいかな。うちは昔から、牛を運動のために外に出すことはしますけれど、基本的には搾乳をしている牛に青草を食べさせるための放牧はしないですね。今も、この昔からの伝統方法を守っています。

餌については、必ず乾燥させたり、あるいはサイレージなどで発酵させたものを中心に与えています。サイレージとは、サイロにギュウギュウに青草を詰めこんでフタをして乳酸発酵させるんです。これはヨーグルトと同じ原理で酸っぱくなるんです。牧草の色がオリーブ色で甘酸っぱい香りになるのが良いサイレージです。もちろんこれは餌の保存性を良くしたりというメリットもあるのですが、牛乳の味にも影響があると思われるんですよね。
もちろん牧草だけでなくトウモロコシなども作っているので、牛の状態を見ながら、餌のバランスの加減をきちんとコントロールしています。そうすることによって、大体一年中同じ状態・質で与えることができ、牛乳の味を維持しているんです。うちは表示値が乳脂肪分が4.0%、無脂乳固形分が8.7%なんですが、実際には乳脂肪4.2%と無脂乳固形分8.9〜9.0%あります。季節の変動によっても乳脂肪分など変わってはくるんですが、うちはその変動を持たせないためにも餌をコントロールして、青草を与えないようにしているということなんです。

その他にも、良い牛乳を生むためには、牛にストレスがかからないほうがいいと思います。牧草地には放牧してないものの、牛舎の中で牛はつながない、できるだけオープンな牛舎を作って換気を良くするとかね。この方法は、うちだけでなく今では多くの酪農家が採用し始めています。実際にそういう環境の牛は多くの牛乳を出しているというのは確かなんだけれども、牛乳の味に影響しているか…となると、これは数値化できないので、なかなか難しいところでしょうね。







牛乳の二次加工品であるバターは、通常のバターの有塩と無塩の2種類をだしています。発酵バターを作るほどの量の原乳まではないので、作っていません。普通のバターだけでも原料が足りない、製造が追いつかないという季節もあるので、今後も発酵バターを作る予定はありません。とにかくバターは、原乳からあまり手を加えすぎないで普通に作ることで町村バターらしい、原乳の味わいを残したバターが生まれるんではないでしょうか。うちは牧場なので、とにかく絞った牛乳をすぐに分離にまわせるんです。分離した後すぐに一晩、エイジングにかけます。エイジングに何日かとるところもありますが、うちは一晩。翌日にはバターにします。
何故かというと、原料となる生クリームの成分は40〜45%は脂肪です。脂肪は時間が経つと酸化します。だから生クリームでおいておく状態が短ければ短いほどいいんです。生クリームは酸化するとどんどん臭くなってきます。牛乳の酸化の比じゃないですからね。できるだけ手際良く、さっさと製品化することが良いバターを作るためにも大切なことなんです。

バターの色は、うちの場合は青草を与えていないので季節による変動はあまり影響ありません。年間を通して同じ品質のものを作ろうとすると、餌も自分達で作った牧草とトウモロコシを中心にバランス良く一年中同じような質のものを供給できる体制をとらないとなりませんからね。しかし、季節に関係なくどういう餌が収穫できたかによって、バターの色、風味が違うということはあります。なんと言っても、天気と土という自然が相手なので、失敗することもあります。どうしても雨にあたった牧草を牛に与えるざるを得ないという時があるんですね。そうするとバターの分離などのタイミングなども変わってきて、さらには出来あがりのバターも変わってきてしまうので鋭いお客様はそれを感じますね。そういうことがないようにと、できるだけ頑張っています。また、うちは手作りでバターを作っているので、バターの水切れが大変難しいところです。
季節的にも夏場などは詰めた後に汗をかく時期があって、水滴がつくこともあります。バターについた水滴は、冷蔵庫で保存中などに匂いがつきやすいので、開封後はきっちりとラッピングを行ったり、早めに召し上がっていだだきたいですね。良い餌作り、良い環境作りが良い牛乳を生み、早く乳製品に製品化する、そしてやはり早めに召し上がっていただくのが一番ですね。
まちむら農場の牛乳・バター
まちむら特選牛乳

牧場で搾って、牧場で詰めた"フレッシュミルク"。乳脂肪分は4.0%以上、無脂乳固形分は8.7%以上で、それぞれ一般的な牛乳より0.4%ほど高くなっています。さらっとしていて飲みやすく、生乳のやさしい風味が感じられるコクのある牛乳です。

町村特製新鮮純良バター

新鮮な牛乳から分離したての生クリームを、すぐに加工して作られたバター。生乳の風味豊かな.美味しさがぎっしりと詰められています。無塩バターと有塩バターの2種類。



まちむら農場の牛乳・バターを使用したパンが買えるお店

ベイクハウスHIROYA
北海道江別市緑町東3‐34
011‐382‐3034
9:00〜19:00(無休)