東毛酪農直販梶@木村 弘 さん

このあたりの牛を飼っている農家49戸でなっているのが『東毛酪農業協同組合』です。ここで採れた牛乳からできているのが、うちで売っている牛乳。生産者の顔が見える牛乳です。

そもそも、パスチャライズといわれる『低温殺菌』の牛乳を始めたのは、昭和51年、東京の商社の人に「3つの条件で牛乳を作ってくれ」と言われたのがきっかけで、その3つの条件とは
@腐る牛乳を作ってほしい。
Aこれからは、ゴミ問題がどんどん大きくなると思われるので、使いまわせるビンでの生産をお願いしたい。
B国産の餌で牛を育ててほしい。
というものでした。

こうやって今振り返ると、まだゴミや農薬についての問題が今ほど取り上げられていなかった時代に、ずいぶんとその商社の方は先見の明があったなあと思います。
さて、この@の条件に答えるべく私達が作ったのが『低温殺菌』の牛乳です。「低温殺菌に限らず、よく売られている牛乳(130度2秒殺菌)だって賞味期限があるから腐るじゃない」と皆さんお思いかと思いますが、実はあれは“殺菌”ではなく“滅菌”。菌をすべて殺しているから、ちゃんとパックすれば2ヶ月3ヶ月ともつものなんですよ。ただ、上層に空気の層のある日本の紙パックの仕方だとそんなに長くはもたず、1週間ほどの品質保持期間になってしまうのです。それに比べ、『低温殺菌』での牛乳は、人体に有害な菌だけを殺しただけだから、決して菌がゼロなわけではない。だからある一定期間で腐ります。商社の方が求めていたのはこの牛乳なんですよね。そして、“リサイクル”ではなく“リターナル”でビンを洗浄して使いまわすことをしました。これは今でも続いています。餌は、農業用の穀物が国内では少ないことから、現在は遺伝子組換えの食品に配慮しつつ、輸入のものも使っています。

こうしてできた『低温殺菌』の牛乳は、酵母が液体の中に生きているから、生乳とほぼ変わらない味がします。牛乳の美味しさは、決して脂肪分の量ではないと思うんです。だから、「○○%の牛乳!」って濃い牛乳に飛びついてしまうのはちょっと違う気がしますね。130度という超高温にされた牛乳からはタンパク質の焦げた味と香りがしてしまいます。これを多くの人は「牛乳の香り」と言っているんですが、決してそうではない。牛乳は本当はあんなに強い香りはしないものです。そして、口の中に入れるとネバっともせずに意外とあっさり。キレがいいものなのですよ。『低温殺菌』の牛乳が一般的である欧米に比べ、まだ150年という乳製品文化しかもっていない日本人の常識は、世界の常識とは違います。ホモゲナイズされず、脂肪球が均一でない牛乳は“クリームライン”といって、ほっておくとビンの上層部にクリームの層ができるのですが、これも見慣れない方には牛乳が腐っているように見えるかもしれません。ミルクティーに入れると最高に美味しいのですが。うちで一番の牛乳は、このノンホモの低温殺菌牛乳。もちろん、生乳そのものの細菌の量も少なくなくてはできないし、なかなか一般的な牛乳として広く認識されるのは難しい。でも、今は学校給食用に75度15秒殺菌の牛乳も出していますし、徐々に本当の牛乳の味が認識されていくといいと思っています。