最近、ベーカリーで人気なのが、“シュトーレン”や“クグロフ”などお祝い事を彩るパン。ケーキはもちろんですが、こうしたパンとお菓子の中間のような発酵菓子を店頭に並べるところが増えてきました。 そこで今回、エマニュエル先生に教えていただくのは、“ガレット・デ・ロワ”、“パネトーネ”そして“クグロフ”。さらに、“ガレット・デ・ロワ”で使うフィユタージュ生地の応用として、エマニュエル先生が15年間働いていた仏パリ「ポワラーヌ」の人気商品“タルトレット・ポンム”や“ショソン・ポンム”なども登場するようです。 シンプルな食事パンも良いですが、テーブルを華やかに彩るこんなパンもしっかりマスターしておきたいもの。 では、先生。今日もよろしくお願いしまーす! |
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デリアン・エマニュエル氏 |
「皆さん、こんにちは。今日はまず、フィユタージュ生地の仕込みからスタートします」 フィユタージュというとお菓子のイメージが強いかもしれませんが、キッシュやパイなどパン屋さんでも欠かせない生地のひとつです。 |
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ミネラル分の甘みをグッと感じる“ゲランドの塩”を使用
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まずは、デトランプと言われる生地作りから。ボウルに冷水、ラム酒を入れ、その後に、小麦粉(薄力粉と強力粉)、塩、そしてバターを加え、ミキシングします。 「すべての材料を一緒に混ぜる、オールインミックス方式で作ります」 ところで、ラム酒を入れるのは珍しいような気がしますが・・・。 「そう?だって、おいしいでしょ」 と、平然と答えるエマニュエル先生は、ご想像通りお酒が大好き。でも、ラム酒がほんのり香る生地は、想像するだけでおいしそう! |
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今日はバターもたっぷり使います!
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「そうそう、お酢を入れるのもいいんですよ。その場合は、白ワインヴィネガーをコーヒースプーン1杯くらい入れてください」 お酢を入れるとどんな効果があるのでしょうか。 「お酢を入れると、生地を(冷凍)保存しても変色しにくいんです。実は、この生地は、4ヶ月前に仕込んで冷凍しておいたもの。見て、白いでしょう?今日のランチに出しますからね」 えっ、4ヶ月も前の生地!? ちょっとびっくりですが、ブルーのビニールシートに包まれたパイ生地は白い状態で、確かに問題はなさそう。気になる味の方は、ランチタイムに試すことにしましょう。 |
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これが4ヶ月前の生地。モルトを加えると茶色味の濃い生地ができるそうです
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サクサクとした食感が身上のフィユタージュ生地は、大切なポイントが2つあります。ひとつめは“温度”。 先生、何度くらいが良いのでしょうか? 「水は、つめたい!つめたい!つめたいッ!」 と、片言ながら、冷たさを力説するエマニュエル先生。今回も、氷でキンキンに冷たくした水を使います。 そして、もうひとつが“固さ”。 「生地をやわらかく仕込んではだめ。でも、固すぎると、バターを折りこんだ時に一緒に伸びないので気をつけてください」 後で生地にバターを包んで伸ばす際に、重要なのが生地とバターの固さ。これが合っていないとうまく伸びず、きれいな層ができないのです。 「生地が固そうに見えても、すぐに水を足さないで下さいね。よし、これでOK!触ってみてください」 と生徒をうながす先生。 ・・・すると! 「あっ!待って!!」 と、ふざけてスイッチを押す真似をするエマニュエル先生。なかなかお茶目な性格のようです。 |
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出来上がったデトランプ生地は、もろもろとした状態。ちょっとおからのようにも見えます。
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出来上がった生地は5等分(1510g)に分割。両手を使って丸め、上を十字にカットします。乾燥しないようビニールに包んだら、冷蔵庫へ。このまま120〜180分間休ませます。 |
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次は、フランス・アルザス地方の伝統菓子パン“クグロフ”。クリスマス時期になると、パン屋さんの店頭やマルシェ・ド・ノエルにずらりと並ぶ“クグロフ”は、しっとりやわらかな口当たりと、レーズンたっぷりのリッチな味わいが魅力です。 |
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今回使用するのは、直径16cmのクグロフ型。ちょっとしたプレゼントにもピッタリの大きさです
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この生地の特徴は、牛乳がたっぷり入るところ。粉の50%が牛乳で、バター30%、卵 10%とかなりリッチな配合です。 生地がミキサーボウルから離れるくらい、なめらかになってきたところで、薄くスライスしておいたバターを少しずつ加えます。 「ミキシングは低速で短めに。そうしないと、香りや味が逃げてしまいます」 バターが生地としっかりなじんだら、前日からラム酒に漬けておいたレーズンを加えます。 「今回はラム酒に漬けましたが、キルシュでもいいですよ」 ちなみに、フランスでは、“オレンジの花の水”を少し加えて、香りをつけることもあるそうです。 |
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エマニュエル先生が何度も言っていたのが、“なめらかさ”と“力”。この両方がある生地を目指します
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生地の仕上がりはこんな感じ。ちなみに、捏ね上げ温度は24〜26℃が目安です。 生地は60分後にパンチ。でも、エマニュエル先生はタイマーを30分にセットしています。 「本来は60分ですが、30分で一度チェックしてみてください」 ということで、30分後にチェックしてみると・・・ 「うん、いい状態ですね。ここで一度パンチして下さい」 次のパンチは30分後ですが、この時も15分で一度チェック。数字に頼り過ぎないことも重要です。 さて次は、ドライフルーツがたっぷり入ったイタリアの伝統的なパン“パネトーネ”。クリスマスの4週間前(待降節)になると、各家庭で焼かれ親族や友人に配る習慣があったのだとか。 「これは、パネトーネに使う“ルヴァン パネトーネ”。昨晩仕込んでおきました」 今回は、昨晩仕込み冷凍しておいたということ。その場合は、2〜3時間前に出しておくようにします。もし、生地がちょっと弱いな、と感じたら一度パンチを入れると良いそうです。 |
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中種の“ルヴァン パネトーネ”。粉600gに対し、卵が250g入っているので生地色も黄色がかっています
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そして、生のレモンが登場。 「今日はフレッシュな自家製レモンピールで作ります。むき立てなので香りも良いですよ!」 ということで、自家製レモンピール作りを開始。 「レモンの皮をこのピーラーでむきます。フランスでは、野菜やフルーツの皮むきには、これを使うんですよ」 日本の一般的なピーラーと違い、刃が縦についているのが特徴。これだと、ナイフを使うようにして皮をむくことができます。 「日本でこのタイプのピーラーを探したのですが、手頃なのが見つからなくて・・・。フランスではだいたい、1つ2ユーロでどこでも売っているのに!今度フランスに帰ったら、みんなにお土産に買ってきますね(笑)」 エマニュエル先生、ぜひお願いします! ちなみに、このタイプのピーラーはオクソーやマトファなどのメーカーで作られているようです。 |
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ピーラーが1本しかなかったので、ナイフも使用。どうしても苦い白い部分まで一緒にむけてしまうので注意が必要です
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レモンの皮は、このままフードプロセッサーで細かくカット。たったこれだけで、自家製レモンピールの出来上がりです。 では、パネトーネの本捏ね開始。中種と粉、砂糖、水分などを合わせてミキシングし、次にバターとショートニングを加えます。 「バターのみだと重い食感になり、ショートニングを加えるとボリュームが出て軽くなります。もちろん、全部バターでもOKですよ」 ところで、フランス生まれ、フランス育ちのエマニュエルさん。実は、日本に来るまでショートニングを知らなかったのだとか。ショートニングは元々アメリカ生まれ。フランス人にはない発想なのかもしれません。 最後にフルーツを加えて、高速でミキシング。捏ね上げ温度は25℃が目安です。 |
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これくらいに薄く伸びればOKのサイン。
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そして、クグロフの型を準備します。 「こうして、グラニュー糖を型にふります。この上にアーモンドを乗せると、カリッとした飴状になるんですよ」 わーっ、おいしそう! 「うーん、これだとうまく行かないなぁ・・・。よし、こうしよう」 と型を前にして、真剣な表情でしばし考え込むエマニュエル先生・・・。 |
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いったい何を悩んでいるの?というほど深刻な表情
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実は、型の溝の部分に並べるアーモンドの配置について悩んでいたのでした。 |
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しばし検討の結果、1個おきに配置することに決定!
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そして、クグロフ生地の成形。これが、なんともユニークなので、画像でご紹介しちゃいましょう。 |
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「よし。見ててよ〜」
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「中心を決めて・・・。エイッ!」
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「ハハハ!驚いた?」
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「ほら、見て!これで完成」
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穴が開きました!
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生徒さんたちもチャレンジ。簡単なようですが、生地の中心に穴をあけるのは結構難しいようです
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穴の開いた生地を型に入れて、成形完了。後は、ホイロに入れて発酵させます
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クグロフの後は、フィユタージュ生地の成形。シーターで伸ばし、4つ折を4回行ないます。 「伸ばすのは後で。今日は用意してきた生地があるので、これを伸ばして使いましょう」 確かに時計を見るともう午後1時になろうというところ。手早く成形していきましょう! |
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シーター登場。見るたびに家庭用が欲しい・・・と思ってしまいます
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「これは、ヴォロヴァン用の型です」 “ヴォロヴァン?”と首をかしげる生徒たちを前に、辞書を調べ始めるエマニュエル先生。 |
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エマニュエル先生愛用のヴォロヴァン(Vol-au-vent)用の型
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なんでも、ヴォロヴァンとは、たっぷりのソースで絡めた具材たちをパイに詰めた料理のことなのだとか。今日はこの型を使って、生地を丸くカットしていきます。 |
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内側、約1cmのところまでクリームをたっぷり絞ります。今日はアーモンドクリームとヘーゼルナッツクリームの2種類を用意
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そして、ガレット・デ・ロワの楽しみといったら、やっぱりフェーブです。 エマニュエル先生が用意してくれたのは、ブリオッシュやパン・オ・ショコラ、そしてマカロンといったパンとお菓子のフェーブ。 思わず“わーっ、かわいい!”と、歓声が上がります。 |
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「クリームを絞ったら、こうやってフェーブをおいて・・・。あっ、さっきフェーブを入れ忘れちゃった!フランスでは毎年1月になると、ものすごくたくさんのガレット・デ・ロワを作るので、フェーブを入れ忘れて次々にフタをしてしまうこともあるんですよ」 |
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ご存知のように、フェーブが入っていれば、その日1日、男性は王様、女性は女王様になれるというもの。人数分にカットしたら、断面が見えないように隠した状態で選んでもらうのがコツだそうです。 クリームの上に、もう一枚フィユタージュ生地を乗せたら、ひとまわり小さいヴォロヴァン型でしっかりと抑えます。あっという間に表面がなめらかになるので、確かにこの型は優れものです。 |
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この上に卵を塗り、ナイフの背で模様を描いていきます
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次は、ポワラーヌで人気の“タルトレット・オ・ポンム”。実は、これも成形が面白いのです。 まず、フィユタージュは13cmx13cmの正方形にカット。そして、櫛型にカットした紅玉を用意します。 「こうやって、リンゴを3つ並べてください。そして、まわりの生地を内側に貼り付けるようにします。上に、リンゴを乗せて出来上がりです」 型を使わずに、丸いタルトレットが完成。リンゴの曲線を活かすなんて、さすがのアイデアです! |
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リンゴの形を利用した、リンゴたっぷりのタルト。うーん、おいしそう!!
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リンゴピュレを敷き、その上に、シナモンにまぶしたリンゴを乗せた“ショソン・ポンム”も
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クンクン・・・。そうこうするうちに、辺りにいい香りが漂いはじめました。 お腹がすいた〜、と思って時計を見るとすでに時計は16時を回っています。発酵の終わったクグロフ、パネトーネを窯に入れたところで、ランチタイムです。 |
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前回同様、さすがはフランス人!と感心してしまうのが、ランチタイムの過ごし方。 こんなに忙しかったら、ちゃちゃっと済ませてしまいそうですが、エマニュエル先生は絶対にそんなことはしません! 社長の箕輪さんによれば、エマニュエルさんの実家を訪れた際に、食べ疲れるほど、長い時間食事をしていた・・・という逸話もあるほど。とにかく、おいしいものを、ゆっくり、しっかり食べることを大切にしているのは間違いないようです。 |
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エマニュエル先生が、2日間かけて自宅でじっくり煮込んできてくれたポトフ。牛テールやバラ肉などたっぷりのお肉と野菜のエキスが溶け込んだ豊かな味わい。体も心も温まります!
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冷凍生地を使ったミニピザとホワイトソースを詰めたブッション
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【今回作ったパン】 |
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クグロフ 焼き上がったら、溶かしバターを刷け塗り。 この後、粉糖でお化粧して完成です。 |
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パネトーネ ドライフルーツの心地よい甘さが広がるお菓子パン。 上にたっぷりあられ糖を乗せて。 |
フィユタージュ生地を使って・・・ |
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ガレット・デ・ロワ(写真中央)、ショソン・ポンム(写真後) 表面に模様を施した美しいパイ。中には、たっぷりのクリーム(アーモンドとヘーゼルナッツの2種)が入っています。そして、後に見えるのが生のリンゴとリンゴのピュレを入れて焼き上げたショソン。焼きたてが命のパイ!ぜひ、家庭でもトライしてみたいものです。 |
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タルトレット・ポンム サクサクのフィユタージュ生地から、ジューシーなリンゴが顔をのぞかせ、なんともおいしそう!リンゴを包み込んで焼くことで、外側はサクッと軽く、内側はしっとりとした食感に。ジューシーなリンゴとの組み合わせは、思わず唸ってしまうほどのおいしさ! |
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ポム・ド・テール フィユタージュ生地の間に、たっぷりのじゃがいも、玉ねぎ、パセリを入れて焼き上げた食事パイ。焼きあがったすぐに上をカットし、そこから生クリームをたっぷりと注ぎ入れるのがポイントです。 |
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ピザ フィユタージュの二番生地を利用したピザ。飴色に炒めた玉ねぎ、トマト、アンチョビ、オリーブ、パセリ、そしてチーズを乗せて焼き上げるという贅沢な一品です。 |