ビストロ・ボンファム
中野 寿雄 シェフ 

   



一般に"ビストロ"と聞くとカジュアルでちょっと家庭的なレストランを想像するが、『ビストロ・ボンファム』は、きちんとしたフランス料理を明るい光の差し込む店内でいただける、ちょっと大人の雰囲気のレストランである。

料理長を務めるのは、中野シェフ。3年半の渡欧後、数店を経て、'88年より『ビストロ・ボンファム』で料理長を務めている。

おいしさに定評のあるシェフの料理は、古典的な技法がベースにありながらも、常に新しい挑戦を感じさせる正統派フランス料理。"古典的"とは、新旧という意味合いではなく、確かな技術に基づくしっかりとした、力強い料理だったのか、と思いを新たにする、非常に存在感のあるレストランである。



「以前は、"西洋料理"という名前でひとまとめにされていたフランス料理。フレンチ、イタリアンという店が当たり前になった現在でも、実は素材や調理法によって正確な区別がつきにくい。それを技術、知識、そして自分の舌でこれぞフランス料理というものに仕上げたい」と中野シェフは言う。

「地続きのヨーロッパでは、料理は似ている部分がある。その中で、良い所だけをすくい上げ、技術、味を進化・洗練させていったものというのが、僕のフランス料理の定義です。 調理法だけでなく、フランスの技術・文化をしっかり理解していなければ、そういう味は作れない。それが古典的という言葉で表現されるのだと思う。」

そんな中野シェフの料理は、素材そのもののおいしさというよりも、むしろソースや素材の組み合わせ、味のバランスなど、「美味しい素材をいかにおいしく楽しんでもらえるか」と言う、素材への"挑戦"とも取れる、シェフの強い思い入れが感じられる内容ばかり。

しかも、完成されたフランス料理の味の中に、驚きのある素材や組み合わせを取り入れてあるため、正統派のイメージとは裏腹な新しさを感じさせる。



前菜にいただいたいたのは、『黒トリッュフのブラマンジェ』。 (右写真)

「はい、ゴマ豆腐。」シェフに言われて、一瞬信じてしまったほど。贅沢に散りばめられた黒トリュッフが、黒ゴマを思わせる。

ヒンヤリとしたブラマンジェを口に運ぶと、まずその食感の新鮮さに驚く。それもそのはず、葛で固めてあるそうだ。クリームを抑えあっさりと仕上げたブラマンジェと、コクのある根セロリのソースが見事に融合。技術と舌に基づいた正統派の味わいをベースに、新しい風を取り入れた、新古典とも言うべき一皿になっている。



本日のデザートからご紹介いただいた1品目は、チョコレートのムースを使ったもの。

ネズミの形のアイスクリームがなんともかわいい一皿。ピスタチオの耳とオレンジピールのしっぽが何とも愛らしく、食べるのを躊躇してしまうほど。女性でなくとも嬉しくなってしまうのではないだろうか。嬉しいのはもちろん形だけではない、ネズミの台にはスペイン産チョコピック社の香り高いチョコレートのムースにバナナとキャラメルのソースという文句のないおいしさ。フランス料理では、定番中の定番のチョコレートムース。味には小細工をせず、あえて形で遊んでしまうところが嬉しい。


2品目は、パッションフルーツを使った、夏向けのデセール。

透明のグラスにオレンジが涼やかだ。このデセールのシェフの隠し技は、ゼリーの上の白いフワフワ。まさに泡としか表現できない 驚くほどはかなげな泡は、口に入れたその一瞬で消えてしまうほど。ココナッツミルク、メレンゲ、ゼラチンで作られたこの泡は、テイクアウトでは絶対に味わえない贅沢な食感。下のゼリーは、しっかりとパッションフルーツのおいしさが凝縮されており、ひっそりと隠されたマンゴーソルベ、そして上の黒胡椒と泡のココナッツの風味がアクセントになって、味、食感共に完成された一皿。



料理にはやはり、人柄が表れるのだろう。料理について語るシェフの目はイキイキと輝いていて、本当に作ることを楽しんでいる人なんだ、とこちらまで嬉しくなってしまう。

最近では、何を食べさせたいんだかわからない料理が多くなっているような気がするという中野シェフ。 流行に媚びないシェフの料理は、フレンチの王道を極めている。アミューズからメインそしてフィナーレを飾るデセールまで、すべてに気配りが感じられる。ぜひ、中野シェフが誘う味の世界に旅立ってみてはいかがだろうか。


ビストロ ボンファム
住所東京都港区赤坂1-3-13 溜池鈴木ビル1F
TEL03-3582-0200
アクセス地下鉄銀座線 溜池山王駅下車 徒歩7分。特許庁交差点モービルGS裏
営業時間11:30〜14:30、17:30〜22:00(L.O)