「今回のサロン・ド・ショコラ東京で注目のブランドは?」との問いかけに「やっぱりベルナシオン!」と答えた人がどのくらいいたでしょうか?そう、なんと言っても今回、開催前から一番話題をさらっていたのは、このベルナシオンでした。その最大の理由は、このサロン・ド・ショコラ東京が、フランス国外において初出店だということ。前夜祭から、ブースの前にはショコラを買い求める人々の行列ができ、一人で抱えきれないほどの商品を買う人も。そして、初日にはなんと開店後3時間で全ての商品が完売という凄さ!しかも後日、追加販売されるも、朝9時から整理券が配布されるという事態だったのです。もちろんパナデリアもしっかりチェックはしていたのですが、正直、さすがにここまでとは予想していませんでした…。これほどの人気とあっては、セミナーも倍率が高いのは必至。中には有給休暇をとって来ている方もいたようです。
ところで、今回のセミナーは今までと違い、整理券を受け取る際、自分で希望の座席を指定できるシステム。そのため、早く並んだ人ほどいい席を確保できるというわけなのです。


サロン・ド・ショコラのブースの様子



今回、来日していたのは3代目フィリップ・ベルナシオン氏と、営業を担当している姉のステファニーさん。そう、ベルナシオンは家族経営のショコラトリーなのです。

「さすがに3時間で完売するとは思っていませんでした」

と本人たちもこの状況には驚いている様子。身長が高く体格のよいフィリップ氏は、それだけでも会場で目を引く存在。しかし、その体つきからは想像できない控えめな話し方と、照れたような笑顔が印象的です。今回は、ベルナシオンを知ってもらおうと自己紹介を兼ねて、スライドを見ながらのセミナーがスタートしました。その、門外不出とも言われたショコラと、その製法の秘密が少しでも明らかになるのですから、期待は高まります。

フィリップ氏とステファニーさん

過酷な整理券争奪戦を勝ち取った参加者たちだけあって、
かなり真剣な様子




お店を構えるのは、三ツ星レストラン「ポール・ボキューズ」を始め星付きレストランが点在し、美食の街として有名なフランス第2の都市リヨン。そのリヨンにおいて、地元の人々が“ちょっと高級な贈り物”として利用するのがここ、老舗・ベルナシオンなのです。スライドに映るのは、堂々とした店構えと、広々としていながらもシックで落ち着いた店内。

「開店してから50年が経ちましたが、ずっと同じ場所で営業しています。2代目である私の父が未来を予測し、『この先、同じクーベルチュールを使ったショコラばかりが出回る時代になるだろう。それなら、自分たちで特徴あるクーベルチュールを作っていこうではないか』と言ったんです」

そう、ベルナシオンの最大の魅力は、カカオ豆を焙煎するところから始まるショコラ作り。現在では、自店でカカオ豆の焙煎から手がける職人は数えるほどですが、ベルナシオンでは創業当時から現在もなお引き継がれている伝統なのです。

「輸入したカカオ豆は、まずふるいにかけて不純物を取り除きます。生産者がかさをごまかすために、石や木のくずが入っていることがあるのです」

と言うカカオ豆は、中南米の約10ヶ国から仕入れています。

「そして、焙煎の際は焦がさないように細心の注意を払わなければなりません」

スライドに映されたのは、18年間も焙煎を担当しているという職人の方。その前任の方は、30年以上も焙煎専門で勤務されていたのだそう。老舗ベルナシオンには、従業員の中にも、その道のスペシャリストと呼べる方がたくさんいるのです。



次々と映し出される工場内の作業風景。ボンボンをコーティングしている女性の姿、ベルトコンベアーから出てくるボンボンを箱詰めしている様子、中にはボンボンのコーティングの一部や、ラッピングの一部で機械化してきたものもあるようですが、それでも基本はやはり手作業。その中の一人がガナッシュのコーティングをしていたのは、ベルナシオンの顔とも言える「パレ・ドール」。その手元をよく見てみると、手には数個のボンボンが。

「これはパレ・ドールを同時に5個ずつコーティングしているところですね。この女性は35年間勤続してくれているんです」

“金の円盤状のもの”という名の通り、少し厚みのある円盤状のショコラの上には金箔が散らされていて、ベルナシオンを知るにはまずこれを食べなければ始まりませんよね。

「パレ・ドールを作る時も、シートの上に手で金箔を散らしてその上にボンボンを乗せるので、金箔が多いものもあればほとんど付いていないものも出来てしまうんです」

と苦笑いするフィリップ氏。一つ一つを見比べてみれば、大きさや形に不揃いなものがあるのも確かですが、それがかえって手作りの温かみを感じさせてくれるのです。

この手作業がベルナシオンのショコラを生み出します



パレ・ドールの他にも50〜60種類あるというボンボン・ショコラが、次々とスライドに映し出されていきます。

「これは『トゥルフェット』。普通のトリュフとは違いオレンジ風味なので、こう名付けました」
「ノワゼットのプラリネが入った『アベリーヌ』はベルナシオンのスペシャリテの一つです」
「この『アーモンドプリンセス』はヌガティーヌのセンターにアーモンドのプラリネを入れています。もちろん、ヌガティーヌもプラリネも全て自家製です」


一つ一つの商品を丁寧に説明する姿から、自店の製品への愛情と自信がひしひしと感じられます。そして、

「説明だけさせてください」

との申し訳なさそうな声…スライドには既に完売してしまったショコラ・アソートの画像が。これには参加者たちも苦笑い。中央に「B」のマークが入った箱は、ラベンダーパープルとモダンとも言える花のデザインがとても素敵です。

「箱のデザインは2年ごとに変わるのですが、実はこれを担当しているのは姉のステファニーなんです」

パッケージのデザイン、色、リボンなどの全てを考えているのが彼女、しかし、経営に関する決定は“家族会議”にあると言います。家族みんなで一丸となってお店を守り続けている様子は、このお二人を見ているだけでも伝わってきました。

一つ一つの商品の詳細を説明するフィリップ氏

ステファニーさんがデザインしたパッケージ



そして、試食に出されたのはパレ・ドールと、カカオ分75%の「シューペル・アメール」(最高に苦いという意味)というタブレット。今回サロン・ド・ショコラにきていたのは10種類、それだけでも多いと思っていたのに、なんとお店には30種類ものタブレットがあるというから驚きです。ここからも、カカオから焙煎している老舗ベルナシオンの強さを感じます。

「タブレットを作れなければショコラティエではない」

とは、創業者であるフィリップ氏の祖父の言葉だそう。

種類豊富なタブレットも魅力的



「ショコラは生きています」

そう言葉を続けるフィリップ氏。

「パレ・ドールを作った直後と1週間後、2週間後…とでは、味わいがだんだん変わっていきます。5週間が限度なのですが、それを超えると味がガラッと変わってしまうんです。そのため今回のサロン・ド・ショコラでは、最初、パレ・ドールを売るのを躊躇しました。4週間後にまだ売れ残っていたら、廃棄処分になってしまいますから…」

きっとその決定も家族会議によるものなのでしょう。これが、今まで「門外不出」とまで言われていた理由の一つなのでしょう。

これぞ老舗の味、「パレ・ドール」





配られたパレ・ドールを口に入れると、とろりと舌の上で広がっていくガナッシュ。けっして洗練されたショコラではないけれど、その素朴で温かい味わいに、ベルナシオンの歴史の全てが詰まっているように感じられました。



商品完売後も、最終日までブースに立ってサインに応じていたお二人





←目次ページにもどる