イタリアというとやはりパスタが主流なので、意外とパンに対するイメージが薄いような気がしますが、実はそんなことはありません。イタリアには実にさまざまなパンがあります。ただ、確かにイタリアのパンは料理と一緒に食べるので、料理の邪魔をしないシンプルな味わいのものが多いようです。イタリアは南北に長い国。北と南の小麦粉の質が違うことや、地形の相違などから地域色豊かなパンが生まれていきました。

例えば、南の地域ではデュラーム・セモリナ粉が育ちやすいため、それを使ったパンが多く作られます。地域で採れるものを大事に使っているため、自然と地域色が出てくるのでしょう。イタリアのパンは個性的なパンに加え、地域によって、同じものでも名称が違うものもあります。なんとその種類は3000種類以上もあるとのこと! 驚きますよね。 南イタリアの農家ではそれぞれの家庭ごとに伝わる味があります。家庭で焼くことが多いので、パン屋には数少ない種類のパンが並ぶだけのようです。菓子パン類にいたってはほとんど並んでいないそうです。一方、北部では家庭でパンを焼く家が少ないので、パンはパン屋で買うことが多く、食事パンも調理パンもその種類は多いようです。

パンの嗜好はローマを境にはっきりと区別することができるようです。ローマよりも南の地方では、ロゼッタにオリーブオイルをつけて食べることが多く、北部では菓子パンなどリッチなパンが好まれて食べられていました。北部はフランス、スイス、オーストリア、旧ユーゴスラビアと国境を接し、文化的にも経済的にも恵まれ牧畜も盛んなため、バターを利用したリッチなパンが多くなったのではないでしょうか。




チャバッタ
チャバッタとはスリッパという意味で、平べったいパンの形からきています。フランスパンと同じ材料をあまりこねないで作るチャバッタは、キメは粗く本来の味が素直に伝わります。塩味の効き具合も程よく、食欲をそそります。エキストラヴァージンオイルを付けて食べると一層美味しさが増します。イタリア北部のポレシーネ地方アドリア原産のパン。小さく丸く成形したものは、チャバッティーナと呼びます。

パーネ・トスカーノ
トスカーナ地方の焼き色のほとんどない白いパンには、塩を使っていません。トスカーナ地方の食事は塩気が多いため、塩を使っていないパンが多くみられます。その味わいは、キメが細かく詰まっていて、粉と水の甘みが伝わってきます。白いご飯を食べる感覚でお料理と一緒に食べてはいかがですか。

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ミラネジーナ
ミラノのテーブルパン。小麦粉、ライ麦粉、セモリナ粉と3種類の粉がブレンドされ、それぞれの粉の特徴が出て複雑な味わいとなっています。クラストはパリッとクラムはもっちりしっとりとしています。

グリッシーニ
イタリアの代表的なパン。細長くて表面が堅く、ポリポリとした食感が楽しめるパンです。塩味がきいて香ばしく、前菜の付け合わせやお酒のおつまみなどによくだされます。消化が良いので、病人用としても用いられます。イタリア最北西部のピエモンテ地方トリノのパン。

ロゼッタ
イタリア語でバラの意味。花のような形に見えるのでこの名前がつきました。真ん中が膨らんでおり、中は空洞になっています。クラストはサクサクとしており、その食感が楽しめます。イタリアでは朝食や昼食用として、間に具をはさんでサンドイッチにして食べることが多いようです。ミラノ、ベネツィアでは「ミケッタ」と呼ばれ、地方によっては空洞のない「ミケッタ・ピエーナ」と呼ばれるものもあります。
もともとはオーストリアから伝えられ、オーストリア支配下のロンバルディアで初めて作られたパンと言われています。そのせいか、どことなくオーストリアのカイザーゼンメルに似ています。

フォカッチャ
古代ローマ時代から伝わるもので、ピザの原形とも言われています。皮はパリッと中はふんわりとしていて、それでいてしっかりとした噛みごたえがあります。ジェノヴァ生まれですが、今ではどこでも見られます。地域によって呼び名が違い、また食感もトッピングもさまざま。塩味のみのシンプルなものから、バターと砂糖をふりかけた甘いフォカッチャドルチェ、トマトやオリーブをのせた南イタリア風などもあります。ブーリア州バーリのものは大型で「スキアッチャータ」と呼ばれ、中にはセモリナ粉を使ったものもあります。

パネトーネ
バターや卵の入ったリッチな生地にドライフルーツがたっぷり入った、ミラノ生まれの発酵菓子です。口どけがよく、フルーツの甘みと香りが口の中に広がります。本来はクリスマス用ですが、今では通年見られるようになりました。パネトーネ種と呼ばれる天然酵母種を使い、長時間発酵・熟成させて作るので日持ちします。パネトーネの種は北イタリアのものが最適で、日本では本場のものを取り寄せているところも多いようです。小さいサイズのものを「パネトンチーノ」、アーモンドの粉と卵白、砂糖で作ったトッピングをしたものを「パネトーネ・マンドルラート」と言います。

パン・ドーロ
星型の台形の形をしたパン。パネトーネと同じ天然酵母種を使いますが、それだけでは発酵の時間がかかりすぎるため、ビガ(イーストと粉と水をあわせて長時間ねかせたの)という中種を使って作ります。パネトーネと同じくクリスマスの発酵菓子で、ヴェローナが発祥地とされています。パン・ドーロは「黄金のパン」という意味。その名のとおり卵黄、バターが非常に多くとてもリッチな配合で、生地の色も黄色くなっています。卵やミルク、そしてバターがリッチに効いたお菓子のような感覚のパン。小さい形のものを「パンドリーノ」といいます。

コロンバ
パネトーネ生地にオレンジピールを加えて鳩の形の型に入れて焼いたもの。天然酵母とビガを使って長時間発酵させて作ります。表面にはアーモンドのメレンゲをぬり、アーモンドとあられ糖をのせます。復活祭(イースター)を祝う発酵菓子。鳩は復活の象徴であり、また卵やアーモンドは繁栄の意味が込められています。もともとロンバルディア地方生まれですが、今ではイタリア中で見られます。

ヴェローナ
イタリアならではのパン。生地もデンプン質というより麩のような口どけの良い生地と塩気はあまりなく、食事のときにソースなどと一緒に食べるのが美味しいパンです。
パンの名前からも分かるようにヴェローナがこのパンの発祥地のようです。

栗の粉のパン
噛み締めるほどに甘みがあり素朴な味わいのするパン。森の香りのような自然の恵みが詰まっています。