京都での滞在は、睡眠時間まで含めてたったの24時間だった。その中で食べたケーキの数はたかがしれている。食べずとも覗いてみた店の数でいえば、デパートの地下まで含めると結構なものになったと思うけれど、偉そうに京都の洋菓子事情を書けるほどではない。
 しかし、今回に限らず、何度か東京から訪れた身として受ける京都の洋菓子の印象というのは、ある。全ては東京との比較になってしまうのだが、それを前提として読んでもらえればと思う。

 まず、京都のケーキは、大きい。そのせいもあるのか、味は全体的に平坦で、甘くない訳ではないのだけど、ぼやっとした甘さに感じてしまう。
 それから、層になっているケーキの、スポンジが東京よりぶ厚い。
 形は丸いホールのケーキを切りわけた三角形が圧倒的に多く、東京でよく見かける小さな直方体はあまりない。タルト型も、東京より一回り大きいのが主流のような気がする。
 デコレーションは、大阪ほどではないけれど、華やか。"シック""シンプル"なケーキばかりが並ぶショーケースというのは、まずない。
 "抹茶""桜の葉""あずき"など、和の素材を使った店がやたらと多い。

 なんとなく、京都のケーキのイメージが湧くだろうか。あるいは、同感していただけただろうか。むろん、東京と比較し、どっちがいいとか悪いとかいうことではない。しかし、どちらが洋菓子、とりわけフランス菓子文化が発達しているかといえば、それはやはり東京である。なぜなら、東京では当たり前になりつつある(それはちょっと大袈裟か)ビエノワズリや、タルトを置いている店というのが、京都にはほとんどないからだ。それは、"洋菓子"はあっても、"洋菓子文化"はまだまだ入り込んでいないことを物語っているように思えるのである。


「オ・グルニエ・ドール」
 そんな京都にも、東京人の私が食べて、「おっ!!口に合う!!」と言いたくなる、京都らしからぬ味の店が出現した。錦小路にできた「オ・グルニエ・ドール」である。サイズはやや大きいが、しっかり締まりのある味は関東風。フランス滞在経験の長いシェフのことだ、いずれ余裕が出てきたらビエノワズリもやるに違いない、と勝手ながら私は予想している。できたばかりなのにリピーターが多く、そしてとても繁盛している。「なーんだ、この味、京都の人にも受入れられるんじゃない」と、正直私は意外だった。

 東京でも20年前、いや10年前まではビエノワズリなんて置く店はほとんどなかった。あるときから一気に増え始めたのである。
 これから、京都の洋菓子は面白いかもしれない。一気に洋菓子文化が花開くかもしれない。きっと5年後、色んな変化が起きているだろう。定点観測すべき地域だと思う。