2006.1.26
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ピンク、緑、黄色・・・、色とりどりの紙で包装され、積み重ねて紐で結ばれた正方形のタブレット。 「あ、あれね!」 と、ぴんと来る人も多いだろう。サロン・ド・ショコラの会場の中でも、ひときわ目をひいていたあの魅力的なラッピングがされた「ピラミッド」、あれがプラリュ氏のチョコレートだ。 |
プラリュ氏は、なんと、マダガスカルに自身のカカオ農場を持ち、さらには世界15カ国もからカカオ豆を買っている。豆から製品になるまでを自分のところで手がけるという、数少ない職人の一人なのだ。 今回のセミナーのタイトルは「カカオ豆からショコラバーができるまで」。 会場内のモニター画面には、プラリュ氏が4年前に自身の農場を作るときの場所選びをしているシーンからスタートした。いかにも山走りに強そうな車が、水溜りにぬかるみにとタイヤをとられている。そんな、わたしたちから見ると「荒れた」土地を、奥へ奥へと突き進む。カカオの木は、木によって守られている土地でなくてはよく育たないそうだ。ゆえに、農場とする場所を決めてからも、そこにもともとある木は、完全には伐採せず、ある程度残しておくという。 |
選別した豆で苗を作り植えると、カカオの木はその土地に根付き、日々ぐんぐんと育っていく。直径1センチほどの、蘭の花を小さくしたような白い花をつけ、やがてカボスと呼ばれるラグビーボールのような大きな実がなる。収穫し、中の果肉に包まれた小さなカカオの実を木の桶の中で発酵させる。続いて乾燥。そこからは、ロースト、粉砕、精錬という過程を経て、ショコラバーとなっていく。 |
そう、この段階のものを仕入れて商品化する店がほとんどの中、プラリュ氏はここまですべてを手がけている、というわけなのだ。画面を見、説明を聞いていると、プラリュ氏の並々ならぬ素材への思いが熱く伝わってくる。 「最高の豆」を手に入れるため「原産地」にこだわり抜く。そんなプラリュ氏が、わたしたちに用意したデギュスタシオンは、まろやかなプラリネと4種類のチョコレートだ。3種の紙に包まれたチョコレートと、アルミホイルにのせられたチョコはすべてカカオ分75%で、味の違いをストレートに感じられるようになっている。 |
紙に包まれた一つ目。これはマダガスカルのものだ。フルーティーで、軽い酸味がある。二つ目は、インドネシアのもの。こちらはややスモーキーである。土っぽいような味もして、たとえば音で言うと低音みたいな味がする。三つ目は、バヌアツのもの。バヌアツというのははじめて聞く地名だったが、オーストラリアの東に位置するそうだ。カカオは思っているよりいろいろなところで採れているんだなあと、自分の足でカカオを探すプラリュ氏にまたもや尊敬の念が溢れる。3番目のこのチョコレートは、ココナッツの葉で編んだじゅうたんの上で乾燥させているため、軽いココナッツの味がする。ワイン同様、カカオもそれぞれの土地の味を持つということを、しっかりと口で感じることができた。 |
さて、最後に残されたチョコレートは、「ブリュ・ド・サオトメ」というものだ。アフリカ大陸西部、ギニア湾に浮かぶ群島国家サオトメ産のカカオ豆だ。この豆を、通常120℃で30分行うローストを100℃で20分に、72時間する精錬を3時間にとどめた、レアなチョコレートなのである。 |
口にしてびっくり! なんとも荒削りな強い味わい。カカオの苦みや香ばしさの中に、納豆や味噌のような発酵系の味もする。納豆や味噌にコクがあるように、このカカオにも押し付けがましくないコクがあって・・・、今まで味わったチョコレートとはまったく違う味である。この味作りや発想は、カカオ豆に最初から携わり、知り尽くしたプラリュ氏だからこそできるのだと、と強く感じたのはみなも同じな様子。この味わいに、会場騒然という感じだったのだ。セミナー参加者だけが購入できるこの「ブリュ・ド・サオトメ」に、セミナー終了後、参加者ほとんどが並ぶ列ができたことは言うまでもない。 このあと、場所を移して、プラリュ氏を囲む懇親会があった。そこにはエヴァン氏やフェルベール氏、土屋氏をはじめ、多くのショコラティエも参加した。ちなみにプラリュ氏の素顔に触れると、フランス人らしく「愛」について語り始める、素敵な男性だったのでした! セミナー参加者は、今頃すでに、「ブリュ・ド・サオトメ」を食べ尽くしていると思う。不思議なのだがこのサオトメ、もうちょっと、もうちょっとと後を引く、麻薬性のある味でもあるのだ。入手は困難かもしれないけれど、機会あらば是非一度試してほしい味である。 |
(取材・文 浅妻千映子) |