華僑が多く暮らす国、シンガポールの正月は中国と同じ旧暦で祝います。今年の正月(春節)は2月9日から始まり、23日までの15日間。その間、中華系の人々は様々な菓子や料理を食べ、厳密には何日目にはコレ、と言った決まりがあるほどです。元旦の前夜、一族が結集し全員で鍋を囲むことから始まり、春節の時だけに登場する魚生(ユーシャン)という巨大な皿に盛られた刺身サラダを、ごちゃ混ぜにして立って食べる風習など、15日間の間に様々な宴を幾度となく繰り広げ、正月明けはどこのエステも大繁盛。新聞広告がエステのドギツイ痩身モデルで埋め尽くされる、という現象も笑い事ではありません。





今回は、そんな春節の食卓や居間の片隅に必ず置かれ、訪れる人が気軽に手を伸ばして食べているシンガポールから届いた春節の菓子をご紹介しましょう。
とはいえ、これらの菓子は普段何気なく食べられているもの。しかし、縁起担ぎが過大な中国文化。お正月ともなれば、その菓子が金塊や龍や鯉など、中華系民族がこよなく愛するHappyグッズに形が変えられ、福建語や広東語、北京語が飛び交うシンガポールでは、そのいずれかの発音がおめでたい言葉に似ている、というだけで突然正月用アイテムに変身し、ますますキレイ??に成形されて登場するのです。その数たるや巨大な体育館を埋め尽くすほど。昆布巻きや田作りなど、縁起の良いものを食べる日本のおせちも感覚は同じですが、年に一度、街中が真っ赤赤の金キラ金に染まり、あれもこれも縁起を担ぎまくる中国の人々のすさまじい意気込みに、圧倒される時でもあります。






◆最もポピュラーなパイナップル・タルト



パイナップルの発音が中国語で「旺来(ワンライ)」幸運来たり、というおめでたい響きに聴こえるとされ、春節には欠かすことのできない菓子です。タルトと言うのに、この形は何?と手厳しいパナの会員さんはおっしゃることでしょう。正月前に売られているものは花形にクッキーが焼かれ、その真ん中にパイナップル・ジャムが載ったもの。これは正月用にパイナップルの形を意識して成形されたものですが、近来はこのままの形で一年中売るところも多くなりました。本来はマレーシア、中国とマレーシアの文化が融合した「ニョニャ」のものとも言われ、ラードを大量に使用する中国本土の菓子と違い、生地にバターや、マーガリンなど植物性の油脂を使用しているのが特徴です。シンガポール菓子の名店、大同餅家のものはパイナップルのフィリングも生から丹念に炊き込み、甘酸っぱさと、果肉の繊維までしっかり残した逸品です。




◆その名もロマンティックな「ラブ・レター」



中国名は「蛋巻(ダンチュアン)」と呼ばれる卵風味の巻き菓子のことで、17世紀にポルトガル人によりマカオで伝えられた薄焼きビスケットが始まりだと言われています。
かつては新年に一家団欒で炭火を囲みながら、おばあちゃんたちがゴーフルを焼くような丸い形をした、蛋巻専用の薄い鉄に生地を流し、焼き上げた側から冷めないうちに子供達がクルクルと箸や指で巻いていったそうです。その鉄型には福禄寿などの縁起ものが描かれ、焼きあがった生地に、くっきりと神様たちが浮かび上がっているのはいかにも中国的!ラブ・レターの名の由来は、その後マレーシアに伝わった当初ロール状ではなく、丸く焼き上げたものを4つに折りたたんだレター状のものだったことから来たとも言われていますが、定かではありません。シンガポールの蛋巻はココナッツミルクをふんだんに使い、南国情緒満点の味。ひとつの菓子の中にも立派な旅があり、おもしろいですね。




◆辛党には、海老のミニミニ春巻き、蝦巻(シャーチュアン)



海老はどこの国でもおめでたいアイテム。シンガポールやタイなど、東南アジア一帯でスナック菓子としてよく目にするものですが、これもお正月用にドレスアップ。
大きさは小指大。でも中身はパンチのきいた海老チリ味!干し海老に、サンバルという東南アジア独特のスパイスソースを絡めた超ピリ辛味に仕上げてあります。これでお正月のビールは何本いけるか・・・・辛党さんたちの心強い味方です。蝦巻とパイナップル・タルトを交互に食べるとなぜかオイシイのです。




◆インドネシアのバウムクーヘン? Kueh Lapis(クエ・ラピス)



その幾層にもなった生地はまるでバウムクーヘン。マレー語でクエとは菓子、ラピスとは層をなす、ということ。マレーシアやインドネシアはもちろん、シンガポールなどの近隣諸国では大変ポピュラーな菓子ですが、その幾層にもなった生地から「年々高昇」一年一年ますます良い生活ができますように、という願いが込められての登場です。これは春節の時だけでなく、マレーの正月ハリラヤにも登場する人気菓子。プレーンなものは小麦粉にスペキュロスという、洋菓子通はご存じの、ベルギーの祝祭日に焼くクッキーと同じスパイスを混ぜて焼いてあり、味も香りも濃厚な仕上がりになっています。かつてインドネシアがオランダ領だった頃、ヨーロッパの影響を受けた菓子のひとつと言えるでしょう。 クエ・ラピスはバラエティーも様々で、東南アジア料理に多く使われるパンダンリーフ(お米の香りがする葉)のフレイバーや、チョコレート味のもの、生地にタピオカ粉を入れレインボーカラーに染めたウイロウ状のもの、米粉をいれたものなど、味も食感も違う菓子なのに、みな層を成しているというのは面白いとは思いませんか?







まだまだ数え切れないほどおめでたいアイテムがあり、ご紹介できなくて残念です!

中にはクッキーの上に、ちょこんとピーナッツが載っただけのピーナッツクッキーなども。ピーナッツを意味する「花生(ファーサン)」の発音が「發財」という財を成す意味に似ていることや、その形が中国人の大好きな金塊に似ていることから、縁起が良いと必ず登場する菓子です。
お正月早々、街じゅうに溢れる金塊の作りもの。ピーナッツも金の塊に見えてしまうなんて、さすが中国! 

皆さんも春節の気分を味わいに、中華街へと繰り出してみてはいかがですか?お菓子好きなら普段見られない、面白いものが必ず見つかるはずですよ。 お味は・・・????・・・・・。