厳しい寒さが続いていた2月上旬。パン好きたちの間で、ある衝撃的な?ニュースが駆け巡りました。“パナデリアがユーハイム・ディー・マイスター志賀シェフによる国産小麦パン講習会を行うらしい・・・”志賀シェフといえば、パン好きの間では知らない人はいないほどの存在。そのシェフが、普段は扱うことのない国産小麦にチャレンジするというのだから見逃せません。パナデリアが講習会の募集を開始した途端に定員40名の枠を求めて申込が殺到し、瞬く間に満員御礼となりました。


これまでにも様々な素材に取り組んできたパナデリア。その中でも国産小麦は関心の高かったものでした。何故なら、生産者の顔が見えるという安心感があるということがひとつ。そして何より、自国で採れたものを使って作るというのは、本来とても自然なことだと思うから。「ハルユタカ」「春よ恋」「南部小麦」etc・・・最近、パン屋さんで国産小麦のブランド名を目にする機会が増えています。品種改良が進んだことや生産者と加工業者の努力などが実を結び、徐々に身近な存在になりつつある国産小麦を使ったパン。とはいえ、どうしても“重い”“硬い”“どっしり”などといったイメージが先行しがちかもしれません。そんなイメージを一新したい、国産小麦の本当のおいしさを伝えたい、それはパナデリアが常日頃から考えていたこと。そしてついに、その夢がかなうことになりました。日本製粉さんの講習会場をお借りして、国産小麦パン講習会が実現することになったのです。更に嬉しいことに、江別製粉、鳥越製粉といった製粉会社の製品を使用する許可までいただくことができました。会社という垣根を越えてご協力いただき、本当にありがとうございます!


会場には日本製粉の粉を試食するコーナーも


テーマが決まったところで早速志賀シェフと打ち合わせを開始。パナデリアの考えを伝えたところ、

「実は国産小麦に関しては、もう10年以上も扱っていないんですよ。以前いろいろ試してみたんですが、扱いにくかったりあまり質が良くなかったりしたものですから。でも、本来は近くで採れたものを使うのが理想的。実際にフランスやドイツでは、地元の生産者や製造業者が一体となって活動しています。私も出来る限りやってみましょう」

と、笑顔で快諾してくださったシェフ。多忙なスケジュールの合い間を縫って準備をしてくださいました。


ホワイトボードを使って種の説明をする志賀シェフ


業務用ミキサーで生地を作成。
予想以上にべとべとしています



シェフの“魔法の手”を間近に体験


そして迎えた3月7日の講習会当日。志賀シェフと国産小麦、そこにはいったいどんな物語が繰り広げられるのでしょう。

午前9時半、日本製粉の講習会場に40名の参加者が集まりました。見渡すと、20代〜30代の女性を中心に男性の姿もちらほら。その真剣な表情から、皆の期待の高さがひしひしと伝わってきます。
パナデリア三宅、志賀シェフ、日本製粉 三嶋課長などの挨拶の後、いよいよ作業開始!ジャパネスク(日本製粉)、ハルユタカ(江別製粉)、Type ER(江別製粉)、ミナミノチカラ(鳥越製粉)の4種類の国産小麦を使用し、約8時間の講習時間内に何種類ものパンを作っていきます。


二次発酵を終えた生地。
手で触るとつぶれてしまいそうなほどデリケート



業務用オーブンから次々とパンが焼きあがります


日本製粉の方の話によると、市場における国産小麦のシェアはわずか10%とのこと。しかもそのほとんどが、うどん等に使用されているというから、実際に生産されている国産小麦パンはほんの一握りに過ぎないのが現状なのです。その理由のひとつとして挙げられるのは“国産小麦は扱いが難しい”というイメージがあるということ。例えば、外国産に比べてグルテン量が少ない傾向にあるためボリュームが出にくい、また粉の種類によってかなり吸水量が異なるために、水分量の調節が難しい、更に収穫時期ごとにタンパク量などの品質が変わりやすい等々。こう聞くと、確かに難しそうな気がしますが・・・。

「今日の講習会にむけて事前に何度も試作をしてみましたが、確かに少し扱いにくい部分もあるかもしれません。でも、大丈夫。大切なのはレシピを守ることではなく、その都度生地の状態を見ながら判断していくということ。これは通常のパン作りにも共通していることなんです」

その言葉どおり、シェフは常に生地の状態を肌で感じ、まるで生地と対話しながら作業を進めているように見えます。そして何より驚かされたのが、生地に触れるときのしなやかな手さばき!成形作業の時など、慣れた手つきで素早くリズミカルに形を整えていきますが、決して力を入れたりはしません。あくまでも優しく丁寧に、極力生地を傷めないよう細心の注意を払います。パンは生き物だということを改めて実感させられたひとコマでした。

「座っているだけでは退屈でしょうから、皆さんもこちらに来て触って見てください。さあ、どうぞどうぞ」

シェフの呼びかけとともに、参加者たちが大きな作業台を取り囲み、皆で成形作業を手伝います。近くで見ていたときにはいとも簡単そうに思えたのですが、実際に触ってみるとこれがとても難しい!国産小麦で作った生地は、一般的なものに比べるとかなりやわらかくてべたべたっとしています。そのためパン作りに慣れている人でも苦戦してしまうほど。けれども、“難しい”“扱いにくい”と言いつつも、皆、とても嬉しそう。生地を前にして自然と顔がほころび、楽しみながら手を動かしている姿が印象的でした。



今回の講習会で紹介していただいたのは低温長時間発酵タイプのバゲットやリュスティック、ハードトースト、あんぱんなど全部で15種類。いくつもの作業を並行して進めていきます。例えばスイートロールの生地をミキサーでこねながら、隣でハードロールの成型を行い、ホイロにはバゲットが入っていて、オーブンではリュスティックを焼いている、といった具合。当然のことながら、シェフは五感を働かせてそれら全てのパンの状態を把握しているのです。スタッフもシェフの指示に合わせてキビキビと動き回ります。プロの仕事振りを目の当たりにして、パナデリアも参加者もただただ感心するばかり。




パナデリア名物?の手料理。
ロースとポーク、ブロッコリーのムースなど
パンに合わせた料理がずらり


そして気がつけば、次々とパンは焼き上がり、会場中が香ばしさに包まれます。焼き上がった側からパンをカットし、カットした側から試食するという贅沢なひととき!これぞ講習会の醍醐味といえるかもしれません。昼食時には、恒例となったパナデリア三宅の料理が並び、パンに花を添えました。出来たての何種類もの国産小麦パンを堪能した参加者たち。さて、気になる感想は?

“国産小麦パンの味わい深さを再確認しました”
“国産小麦でこんなにおいしいバゲットができるなんて感激”

など予想以上の反響。
また、久々に国産小麦を扱うことになった志賀シェフも、

「以前に比べると、味わいの面でも作業性の面においても格段に良くなっていますね。驚きました」

とのお話。志賀シェフならではの国産小麦パンのとらえかたに、パナデリアを含めて参加者の誰もが新しい可能性を感じたに違いありません。本当にありがとうございました!



粒餡、ゆず餡、桜餡などあんぱんだけでも8種類!どれにしようかな


カットしたパンも一瞬で空っぽになるほどの人気


試食タイムにはシェフも参加して和やかに



それぞれのパンの詳細や粉の特徴等については、次号の会報で取り上げる予定ですのでどうぞお楽しみに!(2006.03)


国産小麦で作ったバゲット。見事な気泡!