今や日本でも、パティスリーの定番アイテムとなりつつあるマカロン。 でも、やっぱり「ピエール・エルメ・パリ」のマカロンだけは特別!という方も多いのではないでしょうか? カシャッと崩れ、フワッと広がる食感・・・。 なめらかに、そして華やかに広がってゆくガルニチュール・・・。 小さなマカロンのなかには、まるで魅惑の宇宙が潜んでいるようです。 先日発売になった著書「ピエール・エルメ マカロン」で、そんなマカロンのヒミツを惜しげもなく公開したピエール・エルメ氏。今度は、伊勢丹新宿本店食品フロアの2周年を記念して、定番中の定番、“マカロン ヴァニーユ”を自らレクチャーしてくれるというスペシャルなイベントが開催されました。 あの美味しさのヒミツが明らかに?! ということで、パナデリアもお邪魔してきました。 |
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こんな貴重なセミナーは本国フランスでもないかも・・・?! |
「こんにちは。今日は皆さんに、私自身も大好きなマカロンの作り方を、コメントを交えてご紹介したいと思います。作ってくれるのは日本でマカロンを担当しているマチュ・カム氏。実は、彼と私とはいくつかの共通点があるんです。それは、同じアルザス出身で、何代も続くパティシエ一家の生まれということ。きっとおいしいマカロンを作ってくれると思います」 |
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ピエール・エルメ氏。やはり故郷アルザスには 並々ならぬ想いがあるようです |
「では、さっそく始めましょう!」 スラッとしたマチュ氏は、どこか繊細な印象。今日のマカロンも、きっと美味しく作ってくれることでしょう! 「マカロンの作り方にはいくつかの技法があります。私が目指すのは、やわらかくて、まろやか、そしてトロリとした食感のマカロン。今日皆さんに紹介するのは、そのための技法です」 サクッとした食感の後に広がるコックの柔らかい食感と、たっぷり入ったガルニチュールの滑らかな口当り。確かに、それこそが「ピエール・エルメ・パリ」のマカロンの身上!いったい、どんなコツが隠されているのでしょうか? 「まず、卵白は冷蔵庫で3〜4日置くこと。よく『そんなに置いて大丈夫ですか?』と聞かれますが、焼いてしまうので大丈夫ですよ」 と、心配そうな会場の反応をよそに笑顔を見せるエルメ氏。 コックマカロン作りには、プリッとした新鮮な卵白よりもコシのなくなった卵白が向いていると言われ、フランスではマカロン用の卵白をオーブン周りの温かい場所に1週間くらい置いておく・・・なんて話も耳にします。ちなみに、ムースショコラなど、火を通さないものには新鮮な卵白を使っているそうですので安心してください。 |
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丁寧な作業が印象的なマチュ・カム氏 |
さて、いよいよ生地作り。手鍋にシロップを沸かし、キッチンエイドで卵白を泡立てていきます。しっかりとした泡にするため、乾燥卵白を加えるのもポイント。そして、このメレンゲを、粉糖、アーモンドプードル、少量の卵白(泡立てないもの)を合わせておいたものに、加えていきます。 「アーモンドプードルは、できるだけ細かいものを使うのがポイントです」 アーモンドの豊かな香りと、滑らかな口どけはコックのおいしさの決め手。ちなみに、「ピエール・エルメ・パリ」では、スペイン産バレンシア種のアーモンドを自家製粉して使っているそうです。 サックリと合わせた生地は、空気を含みふんわりとした状態。うん、このまま焼いたらおいしそうなのですが・・・、 「ここで、泡をつぶしていきます。これは、マカロンコック作りに欠かせないマカロナージュと呼ばれる作業。カードを使って、生地をしぼませるように混ぜていきます」 すると、マチュ氏はおもむろにカードをつかみ、ふんわりとした生地を押し付けるように混ぜていきます。出来上がった生地は、気泡がほとんどなく、トロッとした状態に。 簡単なように見えますが、この混ぜ加減もマカロンコックの美味しさを決めるポイントです。 |
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マカロナージュ前(右)と後(左)の生地。メレンゲの空気が 適度に抜け、トロッとツヤのある状態です |
「次は生地を絞ります。丸く絞るのは、マカロン作りでもっとも難しい作業。ペンであらかじめ枠を書いておき、その上に紙を敷いて絞るといいですよ」 |
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赤いペンで丸を描き、その上にシートを敷いておきます |
出来上がった生地を絞り袋に入れ、キレイな丸形に絞っていくマチュ氏。 この段階では、まだ多少ふっくらとしていますが・・・ |
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少し高さを持たせるように、丁寧に絞っていきます |
“タンッ、タンッ、タンッ!” と大きな音を立てて、天板を台に叩きつけるマチュ氏。 ・・・すると、こんなにツヤツヤで滑らかな表面になりました。 |
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最後は振動を与えて泡を整えます。あっという間にツヤのある平らな円形に |
そして、いよいよオーブンへ!! と思ったら・・・ 「生地は焼成する前に必ず30分以上置いて、表面を乾かしてください」 ということで、今回は差替え用の生地を焼成。180℃に温めておいたオーブンに入れたら、すぐに160℃に設定を下げ、約14分焼きます。 用意されていたのは家庭用の小さなオーブン。マカロンコック作りには、オーブンの性能がかなり大きく左右すると聞いたことがありますが、本当にこんなオーブンで大丈夫なのでしょうか?かすかな不安がよぎります。 「では、焼成している間に、中に挟む“ガナッシュ ヴァニーユ”を作ります。私のマカロンの特徴は、中のクリームが多いこと。ピスタチオ、フランボワーズ…なんでもそうですが、この部分で味覚を出すようにしています」 マカロンコックで食感を出し、クリームで味を出す。なるほど!言われてみればもっともです。 「今日作るのは“マカロン・ヴァニーユ”。当然ですが、ヴァニラ味を出したければたくさん入れてください」 これも、シンプルすぎるほどのポイントですが、それがおいしさの真実なのかもしれません。 「今回は1種類のヴァニラビーンズのみですが、“アンフィニマン ヴァニーユ”というシリーズのマカロンでは、産地の違う3種類(タヒチ、マダガスカル、メキシコ)のヴァニラを組み合わせています。これによって、エルメのヴァニラ味が生まれるんですよ」 ご自身も大のヴァニラ好きというエルメ氏。今回は、ヴァニラビーンズとヴァニラエッセンス、そしてビーンズを粉砕したヴァニラシュガーをたっぷり入れて作ります。 まず、手鍋に生クリームとヴァニラビーンズ、ヴァニラパウダーを入れて火にかけ、沸騰したらフタをして、15分ほど置き、香りを移します。 「これを溶かしたホワイトチョコレートとあわせます。ところで、実は私はホワイトチョコレートを、チョコレートとしては使いません。それは、(カカオの)味がないから。では、なぜ使っているかといえば、ほかの素材の香りを染み込ませ、引き出すためです。ヴァニラのほか、桃やサフランなどの香りを引き出すのに、ホワイトチョコレートは非常に有効なんですよ」 ヴァニラそのものよりも華やかで豊かな香りがグッと広がるのは、このホワイトチョコレートが一役買っていたのです。 |
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とにかくヴァニラたっぷり! 少しグレーがかって いるのがわかるでしょうか? |
ところで、ここでアクシデントが発生! 「実は、今マカロン生地を失敗しました・・・。熱いプレートに生地を乗せてしまったため、すぐに温度が上がりひびが入ってしまったようです」 家庭用のオーブンに付いているセラミックのプレートを入れたまま、予熱をしてしまったのが敗因。 「でも皆さん、この失敗から学んでください。さぁ、メモをとって!(笑)」 と、こんな状況もプラスに変えてしまうエルメ氏。やはり天才はハプニングからも学ぶものなんですね。 さて、気を取り直してもう一度。今度はひび割れのないコックが焼きあがったでしょうか? 「もう一度失敗したら、オーブンを捨ててしまうかもしれません(笑)。でも、人は捨てませんよ」 とエルメ氏。 |
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今度は見事美しいコックが焼きあがりました! |
でも、大丈夫。家庭用オーブンにもかかわらず、しっかりとピエ(※)の出た、美しいコックが焼きあがりました! 「よく見てください。カリカリ感があるけれど、かたくないというのが理想のコックです」 そっと触ると、確かに中はしっとりとしている様子。冷めたら、オーブンペーパーからはがし、裏返しておきます。 |
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焼き上がりは、普段食べるときよりも固い状態 |
「次は、さっきのガナッシュヴァニーユをはさんでいきます。これは落しラップをして、1.5〜2時間は冷蔵庫で寝かせておいたもの。かたいポマード状の目指すテクスチャーになればOKですよ」 完成したガナッシュは、かなりグレーを帯びたクリーム色。たっぷりとヴァニラが入っていることが見た目にもよくわかります。 「中のクリームはコックと同じくらいの量をたっぷりと絞ること。そして、絞ったらすぐに上のコックをかぶせてください。たくさん数を仕込む店舗の場合でも、10個くらいずつ絞ってはかぶせるようにしているんですよ」 マカロンのクリームが少ないとちょっとがっかりですが、これなら大満足! 味の部分は間のクリームで作る、というエルメ氏の言葉にも納得です。 |
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見てください!こんなにたっぷりと絞るんです |
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すぐにふたをするのも重要なポイント! |
「出来上がったマカロンは、そのまま冷蔵庫に入れ24時間寝かせること。もし、あなたがマカロンを食べて固いと思ったら、それは出来たてということ。ベストの食感になるのは2日目です」 という訳で、出来たては残念ながらおあずけですが、今回のマカロン・ヴァニーユのほか、6月27日から発売になるバイオレットとカシスの“マカロン・アンヴィ”、そして“マカロン・ヴァニーユ”、“マカロン・ショコラ”をいただきました。 |
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マカロン・ヴァニーユの完成! |
カリッ、フワッ、そしてトロ〜ッとした食感と、溢れ出すような風味・・・。 エルメ氏のレクチャーを受けながら、口にするマカロンは格別です! |
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美しい出来栄えにホレボレ!簡単そうに 見えて、やっぱり難しそうです |
自家製アーモンドプードルの香り、そしてマカロナージュの技術、そして、シンプルでリッチなヴァニラ使い。 想像以上にシンプルな工程の裏に、エルメ氏の哲学が垣間見えた今回のセミナー。 ますます、「ピエール・エルメ・パリ」の虜になってしまいそうです! |
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