日本でも本格的なショコラティエが登場するようになって久しいが、カカオ豆の焙煎からはじめ、自店専用のクーベルチュールを作り、自身のショップで売るタブレット、ボンボンを作っているショコラティエはここだけである。 残念ながら今回の取材では、焙煎工場は拝見できなかったが、味覚糖の高瀬社長補佐、シェフパティシエの奥田友之氏にお話を伺うことができた。 本社ビルの中にショップはある。外観は、まるで宝石店のようなしつらえで、タブレットショコラをモチーフに、銅板をデザインした雰囲気のエントランス、センターにはまるで宝石を並べたようなショーケースがあり、奥にショコラティエが製造している姿が見える構成になっている。この店舗をデザインしたのは 数々の斬新なインテリアデザインを手掛ける、「GLAMOROUS」代表の森田恭通氏。 このCagi de rêves(キャギ ド レーブ) という店名の意味は、「夢の扉を開く鍵」。ショップの中には鍵をモチーフにしたもの、もちろんショコラにも鍵型のものが並んでいる。 |
![]() |
味覚糖本社入り口。中にこんなお洒落なブティックがあるとは!
|
![]() |
キャギ ド レーブ入り口。きらきらと輝き、まるで宝石箱の中に入っていくかのよう
|
味覚糖がチョコレートへ本格的に取り組み始めたわけ |
社長の「いつか味覚糖でも本物のチョコレートを製造販売していく」という旗印のもと、その取り組みは始まった。そこで、奥田シェフの他、ベルギーでショコラティエ経験のあるアドバイザーの助けを借り、オリジナルチョコレートの製造から始めることに。そして、アドバイザーの勧めもあり、社長自らが試食して確かめた上で、マダガスカル産のシングルチョコレート一本でショップを作ろうということになった。 だが蓋をあけたら、とてつもなく大変なことが分かった。カカオ農園とのコンタクト、カカオビーンズの選定、加工工場手配など、やらなければいけないことが山ほどある。しかし、現地にスタッフを派遣しなんとか形を整え、まずは、マダガスカル国内の工場で生産し、カカオの焙煎、クーベルチュールの製造を始めた。その間、焙煎技術の修得、日本での製造設備の手配などを行い、2年後、ついにカカオ豆を日本へ輸出し、大阪の工場にてクーベルチュールを製造することになった。 |
マダガスカル産カカオのチョコレートについて |
今、使っているカカオ豆は、あのヴァローナも提携しているミロ農園で作られている。ヴァローナの畑のすぐそばとのことで、特徴はとてもフルーティで若干酸味があり、香りはトップノートに女性的なやわらかいフローラルな香りのするもの。品種はクリオロ種系。もともとマダガスカルのサンビラーノ川流域では、とても品質のいいカカオが採れるそうだ。しかし、奥田シェフ曰く、味の出し方がとても難しいもので、さらに輸入されるロットごとに違いがあり、その都度焙煎の温度を変えたり、作業を変えなくてはならない、じゃじゃ馬のような安定していないカカオだという。しかし、それでもショコラティエとしてお客様の口を満足させるには、この自分で作ったクーベルチュールを使って、安定した味わいを作らなくてはならないので、毎回作るたびに難しさを実感しているそうである。 |
本物の味を作っていく |
大阪でのチョコレート事情は、まだまだこれからというところだが、逆に発展性がある場所とも言える。もともと、ケーキなどお菓子はわりと派手めな飾りつけや、フルーツをたっぷり使ったものが流行る傾向にある。しかも、値段に関してはシビアな一面も。そんな中で、一粒200円、300円のボンボンショコラはなかなか売れないのも実情だ。ただ味に関してはとてもうるさいところなので、本当においしいものを作っていけば、新しいチョコレート文化が大阪の地に根付くと確信しているという。 |
![]() ![]() |
宝石箱や鍵穴をイメージしたデザインが心をくすぐる
|
今後の展開 |
今まではクーベルチュール作り、そしてシンプルな ボンボン、タブレットのみを作ってきたが、今年から、いよいよ洋菓子の方へもこのチョコレートを展開していくつもりだそうである。まずは7月から、テイクアウトできるショコラムース 「ショコラ フロマージュ」3種を。9月からマカロンの販売を予定している。 またプロ用のクーベルチュールについても、追々、販売の方向で検討をしている。 |
![]() |
ショコラ フロマージュ3種
|
今回の取材でこのショコラ フロマージュを試食させていただいた。そして、出来上がるまでの苦労や素材について奥田シェフに伺ってみた。 「マダガスカル系のショコラの特徴であるフルーティな部分を残しつつ、素材の存在感を出すのにとても苦労しました。特にフロマージュを使うということが、最初にテーマとしてありましたので、ロックフォールなど青カビ系のものを試しましたが、残念ながらショコラが負けてしまいました、結局マスカルポーネを使うことで、ショコラの香りを保ちながら、味に厚みを出すことに成功しました」。 |
![]() |
ナチュール
|
酸味がしっかりとしたショコラをガナッシュタイプに仕上げた逸品。57%のタナを使用し、トップからフルーティな香りが全体を包みます。ゆっくりと口の中で溶け出すと、まったりとしたチーズの味わいと酸味のバランスが絶妙なハーモニーを奏でる。
|
![]() |
グランマニエ
|
グランマニエの使い方がとてもエレガントで、ショコラ本来の香りはそのままに、どこにフルーティなものがいるか探しているうちに口の中で溶けてしまう。やがて喉の奥のほうから、ほんのりオレンジの風味が上がってくる。最後に、少し舌に刺激を感じるが、隠し味のペッパーが低い位置で全体を引き締めている。
|
![]() |
フランボワ
|
フランボワのコンフィチュールが入ることで、前の2つのショコラよりフルーツの素材感を強く感じさせる。酸味はフランボワの方が前面にでているにも関わらず、ショコラの酸味との相性が抜群である。マスカルポーネのまったり感がショコラのキレを邪魔するかと思いきや、最後の喉越しは驚くほどよい。
|
どれも奥田シェフが何度も試作を重ねてここまで仕上がってきたことが、しっかり食べ手に伝わる逸品であった。紹介されたこの3品、さりげなくショーケース内に置かれているが、他のショコラ同様、手にとって味わって、改めて奥深い味の探求の末に出来上がった作品であることが分かる。 |
最後に |
長い間日本人が食べてきたチョコレートといえば、スーパーやコンビニなどでも誰でも手軽に手に入るあの味が主流であった。その後、フランスのショコラティエなるものに触れ、日本でも衝撃的なインパクトのあるチョコレートを味わえるようになった。この10年ほどで、日本に大きなショコラブームをもたらしてきたフランスのショコラであるが、限られた愛好家には、その感性を満たすものとして今もこれからも食されることだろう、しかしここにきて、その味を知った日本のショコラティエたちが自分たちの風土にあった、自分たちのショコラを創造するようになってきた。 今回の取材は、これからの、日本のショコラティエが世界にむけて出て行くことを期待させるインタビューとなった。 |
Cagi de rêves のHPはこちらから
http://www.cagidereves.jp/ |