焼き立てほわほわのパンケーキに、たっぷりのバターとメープルシロップ。口いっぱいに広がる優しい香りとしっとりとした甘みはメープルシロップならでは。そのおいしさをより広く知ってもらおうと、年1回、メープルスイーツコンテストが開催されているのをご存知ですか?メープルシロップがさまざまなパンやお菓子となって登場するこのコンテストの表彰式に、パナデリアも参加させていただきました。さて、今年はどんな作品がお目見えするのやら・・・?(前回の様子はこちら


クインビーガーデンのメープルシロップやメープルシュガー。カナダ・ケベック州限定の100%ナチュラルなおいしさが自慢



会場は東京・青山にあるカナダ大使館。司会席、表彰台と椅子席が設けられ、一番前の席には審査員と入賞者がずらり。さながら記者会見場のようなキリッとした雰囲気が漂います。
「2回目となる今回のコンテストには、前回以上にたくさんの応募がありました。それだけ、メープルシロップの人気が高まっているのだろうと信じています。日本の方々がどんな風にメープルシロップを使ってくれるのか、楽しみですね」
と、カナダ大使館のピーター・マッカーサー氏。続けてケベック州政府在日事務所と主催者であるクインビーガーデン小田社長の挨拶、そしてコンテストやメープルシロップについての説明がありました。
ここでいうメープルシロップとは、100%ピュアな天然の甘味料のこと。40年もの歳月を経た楓の木から採取した樹液を煮詰めたものを言います。なんと、1リットルのメープルシロップを作るために、50リットルもの樹液を煮詰めているというからすごい!とても貴重な大地からの恵なのです。

結果発表を前にドキドキの選手たち。栄冠は誰の手に?



さて、クインビーガーデンが主催するこのコンテストは、プロのパン・菓子職人と料理人が対象。クインビーガーデンのメープルシロップやメープルシュガーを使ったパンや菓子の作品を競い合うというもので、書類審査と実技審査をクリアした10名の選手が表彰式に参加しています。第2回目の審査員を務めるのは藤生シェフ(パティスリー・ドゥ・シェフ フジウ)、永井シェフ(ノリエット)、金林シェフ(帝国ホテル)、仁礼シェフ(ラ・フーガス)の4名。各界を代表する豪華な顔ぶれに、選手たちもどこか緊張した趣。でも、意気込み溢れるハツラツとした姿を見ていると、思わずみんなを応援したくなってしまいます。


審査員を務めたシェフの方々(藤生シェフ、永井シェフ、金林シェフ、仁礼シェフ)



「それでは、入賞者の方々、壇上にお上がりください」
入賞者は菓子部門から5名、パン部門から5名、の合計10名。それぞれの作品が順に紹介されます。紹介といっても実際にいただけないのは残念ですが、写真とレシピを見ているだけでもなかなか魅力的。菓子部門ではリンゴ、柿、オレンジ、ナッツなどに合わせたり、パン部門ではブリオッシュ、クイニーアマン、デニッシュ、ビエノア、パンドジェーヌの生地に使ったりと、バリエーションも豊かでどれも甲乙つけがたい出来栄え。この中からはたしてどの作品が優勝に輝いたのか?皆さんも写真を参考に想像してみて下さい!



菓子部門

&Kaede(アンドカエデ)
能勢 智子さん(ザ・マンハッタン幕張)

メープルムースとマスカルポーネムースのセンターに、メープル味のリンゴのタルトタタン入り。メープルの甘みとリンゴの酸味の組み合わせがポイント


ナッツとクランベリーのタルトレット
高倉 美香さん(日本菓子専門学校)

ナッツやフルーツをふんだんに使ったメープルの香りのタルトレット。ナッツのカリカリ感、パンドジェーヌ生地のしっとり感のコントラストも魅力


rayure MAPLE(レユールメイプル)
永井 朋子さん(リーガロイヤルホテル京都)

作品名は「メープルの縞々」の意味。ナッツのサックリ感、ビスキュイのしっとり感、柿のやわらかな甘み、プラリネの濃厚感をメープルの甘みでより引き立たせた一品


メープル グラノーラ
上 亜弓さん(阪急ホテルマネジメント)

サクサクのメープルクッキー生地にフルーツグラノーラをたっぷりのせて焼き上げたもの。手軽に食べられるヘルシースイーツとして朝食代わりにも


seve du terre(セヴ・ドゥ・テル)
松本 睦さん(大津プリンスホテル)

「大地と太陽」がテーマ。太陽の光を浴びたオレンジと大地の恵のメープルの組み合わせ。マスカルポーネムースからメープルの豊かな香りが広がります






パン部門

メープルカップ
中島 庸博さん(神戸屋)

ホットケーキに染み込んだメープルシロップの味を再現。ブリオッシュ生地にアマンドを合わせてメープルシロップを染み込ませ、優しい甘さに仕上げています


ペール・ド・メープルクイニーアマン
川村 徹(パティスリー アテスウェイ)

大きいサイズのクイニーアマン。粗塩を使用して塩味を残し、メープルの甘さとアクセントを強調。サクサクとした食感もポイント


楓の雫
二宮 茂彰さん(帝国ホテル)

雫型に仕上げたデニッシュ。メープルの樹液の一滴を表現。キャラメルナッツフィリングと折り込み生地の相性に着目


メープル・ナッツ・デニッシュ
神村 玲さん(神戸屋レストラン)

メープルの甘みとコーヒーの苦みで大人の味をイメージ。砂糖を一切使わずに、メープルシロップとメープルシュガーだけで仕上げた作品


Canadian Rock(カナディアン・ロック)
古田 朋広さん(山一パン総本店)

ナイフとフォークで食べられるようなソフトな食感に。ビエノア生地、パンドジェーヌ、ナパージュ、カクテルの全てにメープルを使用




それでは、発表します。



金賞
能勢 智子さん


銀賞
上 亜弓さん


銀賞
二宮 茂彰さん




さて、予想は当たりましたか?早速、金賞を受賞した能勢さんにお話を伺いました。
「初めはメープルシロップとマスカルポーネの組合せを考えたのですが、なかなかしっくりいかなくて。何度も試作した結果、メープルとタタンがすごく相性がいいことに気づいたんです。タタンに使ったリンゴの酸味がメープルの甘みを引き立てているのがポイント。また、ムースにはメープルシュガーをカラメル状にしたものを使って強調しています」
なるほど、確かにおいしそう。話を聞いているとますます食べたくなってしまいます!

パーティー会場でグランドハイアット東京の本田シェフとスイーツ研究家の平岩理緒さんを発見!



それでは、審査員側から見たポイントは?藤生シェフによると、
「いかにメープルらしさを出せているか、ですね。もちろん作品自体がおいしいことが大前提。受賞した作品はどれも全体のバランスが良く、メープルの使い方が上手かったもの。“ああ、こんな使い方があるんだって、私自身も勉強になりました。私の店ではこれまではそば粉のクレープに添えるくらいでしたから。今回いろいろと試作してみましたが、これがなかなか難しい。まだまだ開発の余地がある素材ですね」
メープルシロップを主役にするのは難しい素材だということは、どのシェフも感じているようです。例えば、金林シェフ。
「パン部門の川村さんのペール・ド・メープルクイニーアマン、これは惜しかった。端っこのよく焼けた香ばしい部分はおいしいけれどメープルの風味が弱い。逆に、内側の焼きが甘い部分はメープルを感じるけれど生焼けっぽくなってしまう。メープルは焼くと香りが飛んでしまうんです。だから焼きこんだ場合、普通は香料に頼ってしまうところが多い。この辺が難しいところですね」


パーティー会場でのお楽しみは、もちろんメープルを使ったパンとお菓子。審査員を務めたシェフの作品がずらりと並びます



どうやらメープルの香料に慣れている私たちにとって、天然素材だけで勝負するというのは職人にとってはなかなかハードルが高いようです。でも、穏やかな甘みや優しい香りは天然ならでは。その良さを活かしたシェフたちの作品が、表彰式後のパーティーの場で披露されました。藤生シェフの「メープル」や永井シェフの「メープルエンガディーナ」、金林シェフの「メープルのエスカルゴ」、仁礼シェフの「クグロフカナディアン」等々、どれも上品でやわらかな甘みに仕上がっていて、初めて食べるのにどこか懐かしい・・・そんな優しさが感じられます。また「鴨のメープルシロップ焼き」など、メープルシロップは料理の中でも大活躍。本場カナダでは料理の調味料としても広く使われているそう。味に癖がないから使いやすく、日本料理にも向いているというから気になります。




「カナダ産鴨のメープルシロップ焼き黒胡椒風味」や「カナダ産ポークのやわらか煮込みメープルシロップで」など、メープルを使った優しい甘みの料理が新鮮




パンにお菓子に料理にとたくさんの可能性を秘めたメープルシロップ。パンケーキのときだけのお楽しみだと思っていた人は、早速、いろいろと試してみては?(2007.11)