数あるパティスリーの中でも、お気に入りの1軒があるという人に質問。その時の選ぶ基準は何だろう?おいしいから?家に近いから?それともリーズナブルなところ?もちろん、理由は人それぞれあるかもしれない。けれど、お洒落な雰囲気だったり、品数が豊富だったり、広々としていて選びやすかったりといった要素も、外せないポイントなのでは?そんな人は、是非、「レ・アントルメ国立」に行ってみよう。きっと誰もがワクワクしてしまうはずだから。
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店に入ると目に飛び込んでくるのがパンの売り場。人気のヴィエノワズリの他、バゲットなどのハード系が揃うのも嬉しい |
「駅から遠くても、こうして来ていただけるのは本当に嬉しいことですね」 開店と同時に次々と訪れるお客に挨拶しながら、目を細めるA沢信次シェフ。国立駅の南口から真っ直ぐに伸びる桜並木を10分ほど歩いた地下の店舗に、レ・アントルメ国立をオープンさせたのは今から16年前のこと。ルコントなどで培った本場フランスの味はすぐに評判となり、地下の小さな空間は大盛況。手軽な値段のシューパリジャンやエクレアを何個も買い求めたり、週末限定のクロワッサン目当てに並んだりとたくさんのファンが訪れるようになった。その後、すぐ近くにショコラと紅茶の専門店「オテル・ド・ヴィル」をオープン。こちらは口中で滑らかに溶けていく生チョコ、「大学通りの石だたみ」が評判に。そして2002年には2つの店がひとつにまとまり、店舗も拡大してリニューアルオープン。国立を代表するパティスリーと言われるほど、地元で欠かせない存在になった。 |
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ケーキのラインナップやデザインは少しずつ変化している。とはいえ、フランス菓子の基本を忠実に守る姿勢は変わらない |
「オープン当初から来てくださっているお客様が、気がつくと年配の方になっていてお孫さんを連れていたり。世代交代しているのを感じますね。もちろん、自分も一緒に歳を重ねているわけなんですが(笑)」 なんと、今でも年々お客が増えているというから驚いてしまう。そのわけを聞くと、こんな答えが返ってきた。 「例えばヒット商品を作ろうとか、そういう特別なことは考えていないんです。力を入れるのはひとつだけではなくて、全ての菓子にやるべきこと。ひとつひとつの菓子のレベルが高くて、そういうものがたくさんあるほど店は賑わうのではないでしょうか」 |
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ふんだんに使用したイチゴが鮮やかなタルト・フレーズ |
日本家屋をモダンにアレンジした佇まいに、ゆったりとかまえた店内。そこには生ケーキ、ショコラ、マカロンそれぞれに専用のショーケースが設えてあって、それらとは別にパンのコーナーもある。壁面には造り付けの棚に焼き菓子や紅茶が勢ぞろい。どれも同じように魅力的だから、あれこれとついつい買い込んでしまいそうになる。実際には、ショコラ派、マカロン派など、それぞれにファンがついていて、更に人づてにその評判が広まっていくのだそうだ。いいものを作っていれば、その良さは自然と食べ手に伝わるもの。そのことをA沢さんは知っているのだろう。
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これぞフランス伝統菓子!の風格が漂うパリ・ブレスト |
「オープン当初から正統派フランス菓子をベースに作っていますが、お客様の99%は地元、国立の方。だから、人気の高いシュークリームやショートケーキはやはり欠かせませんね。そんな風にお客様に育ててもらったメニューを優先しながら、併せてチャレンジングな菓子も並べているんです」 聞いているうちに、オープンして間もない頃、シュークリームとクロワッサン目当てに何度も足を運んだことを思い出した。良い素材を使った完成度の高いシュークリームが、たったの150円!他の商品に比べて格段に安く提供してくれたのは、子供のおやつにもなるようにとA沢さんの気遣いがあってのこと。きっと、レ・アントルメ国立のシュークリームを食べて育った子供は少なくないはずだ。敷居が高そうに見えるけれど、実はフレンドリー、そんな一面も、人気の秘密なのかもしれない。 |
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カラフルなマカロンは贈り物にも最適。エッフェル塔とマカロンがデザインされたオリジナルボックスもとびきりキュート! |
最近話題の品について伺うと、「とにかくマカロンがすごいんですよ」との答えが返ってきた。確かに専用のショーケースに丸くて小さな宝石たちが整然と並ぶ姿には、思わずうっとりしてしまう。他店では見られないビビッドでキュートな色合いも印象的。一瞬で女心をつかんでしまいそうだ。 「発色が綺麗でしょう。これは、フランスのセバロメ社の色粉を使っているから。独特の鮮やかな色は、日本の色素では出せない色なんですよ。他にも、レモンやラズベリーなどの天然濃縮香料もセバロメ社のもの。もちろん、全て日本の基準に適した安全な素材です」 |
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品良く可愛らしい店内のディスプレイにも注目 |
マカロンは、ブームが起きるずっと前から並べていた菓子。けれども、常に情報収集は忘れなかった。フランスでマカロンが評判のラデュレを訪ねたり、若手のフランス人シェフの講習会を受けたりする中で刺激を受け、店のマカロンもリニューアル。“フランスと同じだね”と言われるように、色もサイズも配合も変えた新生マカロンは、特にクリームにこだわりがある。 「マカロンのクリームには3つのタイプがあるんです。ホワイトチョコレートとクリームを合わせたガナッシュタイプとコンフィチュールを挟むタイプ、それから、バタークリームに香り付けしたタイプ。私は、バターと牛乳とバニラを合わせたバタークリームをベースにしています。何故なら、ガナッシュは水分が生地にしみてきちゃうし、コンフィチュールは日本人には甘すぎるから。それに比べて、バタークリームなら生地が湿気る心配もないし、時間が経っても味の劣化が少ないのが利点。実際にお客様が口にするまでには随分時間が経っていることも多いから、その点も考慮してあげないと」 このマカロン、なんと、バレンタインの時期には1日に2000個作っても追いつかなかったほど!しかし、実際に食べてみれば、全ては納得のおいしさなのだ。 |
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マカロンのように商品そのものをリニューアルしている場合は見た目にも明らかだが、
「実は気がつかないところでも、少しずつ変えているんですよ」 と微笑むA沢さん。早速、その秘密を伺ってみると・・・? 「例えばマカロンだったら、ペット素材でできたケースを特注しました。ひとつひとつ固定できるから、送る場合にも割れる心配がないんです。他にもケーキ用のショーケースは、石をそのまま使ったタイプのものから、天然石を粉状に加工したタイプのものへ。石のままだと真っ直ぐでがっちりとしたデザインになってしまうんですが、加工したものならやわらかいラインが可能なんです。ちなみに、ガラス部分は透明度の高いペアガラス。曇ることもありません。それから焼き菓子や紅茶を並べている棚の上にも、それぞれライトをつけてみました。これ、熱くならない菓子専用のものなんです」 気持ちよく選んでもらうための、そんなしかけがあったなんて。あちこちに隠された細かい演出のおかげで、どのお菓子もひと際輝いて見えるから効果は絶大だ。そうした“さりげない心くばり”は、まだまだある。 「菓子屋は室温が低いので、冷えるでしょう。だから、スタッフがいる場所は床暖房にしているんです。というのも、妻が店に立っていて率直な意見を言ってくれるので。でも、そんな店、きっと他にはないですよね(笑)」 仕事場の環境こそ、居心地良く。そうしたスタッフへの気遣いも、おいしさへと繋がっているに違いない。 |
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カラメル風味とほろ苦さが魅力の生チョコレート「大学通りの石だたみ」 |
オープンしてからこれまでの間、店を拡大して百貨店の出店も果たしてと、全ては順風満帆に見えるA沢さん。しかし、意外にも口から出た言葉は、 「この16年、常に綱渡りしているような状態ですよ(笑)」 実は昨年、百貨店への出店を辞退したのだそうだ。それは、スタッフと家族を思えばこその決断だった。 「百貨店に出すということは、店の休日でも仕込みをする必要があるということ。当然、スタッフにも負担がかかりますよね。それからもうひとつ。私には小学生の子供がいますが、ほとんど相手をしてやれないんです。今はまだまだ親を必要とする歳。だからもう少し一緒にいてあげたいなと。もちろん、将来的には店をもっと広げたいんですよ」 自分の夢と現実の姿を量りにかけ、ベストのやり方は何なのか、常に決断を迫られてきた。とことんやり抜くときもあれば、力を抜くときもある。とはいえ、全ての決断は、ある想いに向けられているようだ。 「お客様がドアを開けた瞬間に“わあっ”と満面の笑みを浮かべてくれる。そのことが何よりも幸せですね」 その想いは16年前からずっと変わらない。“お客様に喜んでほしい”と願う純粋な気持ちこそが、A沢さんを突き動かしている。 (2008.03) |
レ・アントルメ国立 |
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住所 |
東京都国立市東2-25-50 |
TEL | 042-574-0205 |
FAX | 042-574-0233 |
営業時間 | 10:00〜19:00 |
定休日 | 水曜 |
アクセス | JR中央線国立駅より徒歩10分 |
URL | http://www.les-entremets.com/ |