京王線つつじヶ丘駅の南側にひときわ目を引くケーキ屋がある。石造りの外壁に青いファサード。ガラス張りの看板。ショーウインドーにはカラフルなギフトボックスと焼き菓子がディスプレイされ道行く人の目を楽しませる。店内は壁もテーブルも椅子も真っ白。モダンなショーケースの中にはきらきらと輝く美しいケーキたち・・・。


      




「物が溢れているのが嫌なんです。店を広く見せたかったのでなるべく無駄なものは置かないようにしました。」

と富澤宜三シェフ。

そう語るシェフの人柄がよく現れているのがショーケース。腰高の位置に設置された一段の細長いケースはさながら宝石店のよう。ガラス張りのショーケースの下は白い革張り。およそケーキ屋とは思えないつくりだ。



「まず、他の店にはない個性的なケースを作りたいと思いました。さらに一つ一つのケーキが美しく見える点も重要です。正面からだけでなく上からもケーキが見下ろせるような形にしました。間隔を空けて並べれば側面もよく見えます。ケースの中でケーキがとても映えるんです。」

今後はアクリル版やステンレスなどで段差をつけ、ケーキを立体的に見せることも考えているそうだ。赤色や金色のケーキ用台紙も特注しているというこだわりぶり。完璧な脇役陣のもと、主役のケーキはといえばこちらも非の打ち所がないほど美しい。



「仕上げの美しさも味の一部だと思っています。正面はもちろんのこと、どの角度から見ても美しいケーキが理想。例えば、ミルフィーユ。フィユタージュの間のクリームは、横から見えることを考慮して一つ一つ丁寧にシェル型に絞っています。時間はかかりますが、そういう部分にこだわれるのが個人店の良さでしょう。でも、自分では普通に仕事をしているだけですよ。」

と控えめだが、カットした時の断面の美しさやクリームの絞り方などからも几帳面な仕事振りがうかがえた。日本人特有の繊細さが見事に表現されている。









「よかったら召し上がってみませんか。」

真っ白いテーブルの上の白い角皿にケーキが2つ並べられた。はじめに勧められたのは『タルトシトロン』。赤色の台紙に黄色いレモンクリーム。クリームの上には一粒のフランボワーズ、色のコントラストが美しい。パートシュクレとレモンクリームの組み合わせが基本だが、富澤シェフはタルト生地とクリームの間にフイヤンティーヌ入りのミルクチョコレートを忍ばせた。



「レモンクリームとパートシュクレだけだとレモンの酸味が強く感じられます。そこで間にミルクチョコレートのディスクを入れたところ、その効果は一目瞭然。レモンの風味を生かしつつ程よく酸味をやわらげることができました。さらにフィヤンティーヌ特有のサクサク感も楽しめます。」

外見はシンプルなケーキにも中身は緻密に計算されたシェフの技が見てとれる。

2つ目にいただいたのは『カプチーノ』。コーヒークリーム入りのタルトにコーヒーのムースをのせ、仕上げに生クリームをひと絞り。共にコーヒー味でありながら、軽いムースとまったりとして濃厚なクリームを一緒に食べると味に深みが出るから不思議だ。

ケーキの横に添えられているメッセージは、
「味のバランスがありますので上のコーヒームースと下のタルトは一緒にお召し上がりください」
と、いかにも几帳面な富澤シェフらしい。


2つのケーキに共通して言えるのはシンプルではっきりとした味わい。

「誰にでもわかりやすい味をと考えて作っています。ケーキは嗜好品でたまにしか食べないお客様が多いですよね。一口食べて素直においしいなと思ってもらえるようなシンプルな味作りをしています。例えばタルトシトロンならレモンのおいしさを最大限に生かすようなケーキというように。そのためにはよりよい素材を使うことが必要です。メーカーやブランドに頼るのではなく自分がおいしいと感じたものを厳選しています。原価を無視して使っているので大変ですけどね。」







シンプルながら美しくはっきりとした味わいのケーキたち。このようなケーキが生み出されるようになった背景を尋ねてみた。
始めはレカンの姉妹店でデザートを作っていた。その店のシェフから「おまえは几帳面な性格だからパティスリーにむいているのでは?」と言われレカンの菓子部門へ。

「始めは抵抗がありましたが、だんだん楽しくなり、自分に向いていると思うようになりました。」

4年間働いた後、マキシム・ド・パリへ。この頃から富澤さんの渡仏への想いが強くなっていった。
その後念願のフランス行きを果たす。修業先はパリの「サダハル アオキ」

「青木シェフは楽しく仕事することを教えてくれた人です。楽しんで作らなければおいしいケーキはできないというのが彼のポリシー。職場の雰囲気も和やかでしたね。その経験を踏まえ、今の店でもスタッフが楽しみながら作業できるように心がけています。また、想像力を働かせ、自分らしさを表現することの大切さを実感しました。」

ここで今のケーキの骨格が出来上がったようだ。

3年間の在仏中は時間を見つけてはケーキを食べてまわった。食べ歩くうちに舌が肥え、おのずと自分の目指す味がはっきりしてきた。また、建築やインテリア関係にまで興味を広げ、多くの建物や内装などを目にするうちに自分の店の構想が固まっていった。 自店を開いたのは帰国してから約半年後の2002年11月。その準備期間にはケーキの試作をひたすら繰り返した。特に生地作りには重点を置いたという。例えばジェノワーズは納得のいくものができ上がるまでに半年以上も費やした。毎日配合や素材を変えては作りつづけた結果の賜物だ。

   


「常に納得のいく味作りを目指しているのでケーキの配合や素材は変えています。開店から1年半が経ちましたが、まだまだ学ぶところはたくさんあります。今後も初心を忘れることなく、より高い水準のケーキを作れるようにどんどん工夫していきたいですね。」


地道な積み重ねから生まれてくる味。確かなおいしさの秘密はここにある。







住所調布市西つつじヶ丘4−6−2−108
TEL0424-43-0820 
FAX0424-43-0821 
営業時間10:00〜20:00
定休日
アクセス 京王線つつじヶ丘駅よりすぐ