深みのある赤から、鮮やかなブルーへ。ショコラのブラウンがサロン・ド・ショコラの会場を埋め尽くす中、ロマンティックな色合いが思わず目を惹きつける。「プラリュ」の新作ショコラ“SAVEURS(サブール)”だ。 |
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ロマンティックな色合いの“サブール“は、レ・カネルやノワール・シトロンなどソフトな味わいが多い
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2007年1月、今年もまた情熱と熱狂の渦巻くショコラの祭典“サロン・ド・ショコラ東京”が始まった。世界各国から一流ショコラティエが来日し、最高のショコラが楽しめるこのイベントはショコラファンならずとも心が躍る。それだけではない。昨年、パナデリアが主催するセミナーを通して運命的ともいえる出会いを果たしたフランソワ・プラリュ氏が再びゲストとして日本へやって来るという。メガネの奥のやさしそうな水色の瞳、人なつっこい笑顔、そして熱っぽくカカオについて語るその姿が温かい気持ちと共に甦る。 マダガスカルに作っているプランテーションはどうなっているんだろう、新作のピラミッド“サブール”については・・・? 話してみたいことがいくつも思い浮かぶ。そこで今回は、和食が大好きというプラリュ氏を、天ぷら屋さんにお招きしてお話を伺うことになった。 |
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1年ぶりの再会に喜ぶプラリュ氏とパナデリアの三宅
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畳敷きに掘りごたつという“和”のスタイルに、コックコート姿のプラリュ氏。傍から見ると明らかに違和感があるのだが、当のプラリュ氏は箸の使い方も手馴れたもの。お気に入りのエビ天ぷらを上手に口へ運ぶ。 「これはナンですか?」 日本のカボチャに興味を示す。一口かじっては断面をながめ、味の余韻をじっくり確認するように飲み込む。珍しいもの、食べたことのないものには貪欲なまでの好奇心をみせるのはさすがと言える。 |
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シシャモにも果敢に挑戦。お気に入りは、なんと言ってもエビ!
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さっそく、マダガスカル産のカカオをベースにシナモンやラベンダーなどのフレーバーを組み合わされた新作“ピラミッド・サブール”について伺った。
「マダガスカルでは様々なエッセンスオイルが採れます。そこで、“テロワール”のコンセプトのもと“ピラミッド・サブール”には バニラやシナモンなどを含め、全てマダガスカル産のものを使用しています。今後はカカオだけでなく、香辛料なども揃えられればと考えているんですよ」 その土地で採れたものを使うという“テロワール”の考えは、ここ数年の大きな流れにもなっている。今後は、ラッピングの紙なども、マダガスカルの抜けるような青い空と豊かな海をイメージしたターコイズブルーなど鮮やかな色を使っていきたいと話してくれた。 今回のサロン・ド・ショコラでは、ベネズエラやインドネシアなど産地別のタブレットを組み合わせた“ピラミッド・トロピック”よりも、この“ピラミッド・サブール”が先に売り切れになった。 「お客様には2つのタイプがいます。1つはカカオの味わいを堪能したいというタイプで、もう一方は嗜好品としてのショコラを楽しみたいタイプ。“サブール”は後者をターゲットに考えたものなので、オリジンのカカオ豆の良さという点では少しぼやけてしまうかもしれません。カカオが好きな人はやはり“トロピック”が好まれますね。そうそう、昨年紹介した“ブリュ・ド・サオトメ”も、カカオ好きな人たちからは非常に好評でした。自分ではショコラを作るとき、常にこの2つの局面を考えるようにしています」 色こそ違え、見た目は全く同じの“トロピック”と“サブール”には、プラリュ氏考えるショコラの異なる2つの性質が秘められていたのだ。 |
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スパイスやフルーツの華やかな香りとキレのあるショコラの味わいが楽しめる
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「プラリュ」と聞くと、カカオ豆や産地別のショコラが思い浮かぶが、パティスリーの父親を継ぎ、フランス・ロアンヌにある本店では今でもケーキや焼き菓子類などを作っている。 「本当はもっとたくさんの商品を、日本の皆さんに見てもらいたいと思っているんです」 実は、フランスの「プラリュ」には150アイテム以上の商品があるという。だが、日本で紹介されているのは「ピラミッド・トロピック」と「ピラミッド・サブール」の2アイテムのみだ。 「ぜひ一度ロアンヌにいらして下さい!私のことは、ショコラティエ(そして包み紙!)として知っている人がほとんどで、中にはボンボンを作っていることさえ知らない人も多いですから(笑)。ボンボンも含め、全部の商品を知ってもらいたいんです」 と、パティシエ、プラリュ氏の顔をのぞかせる。私たちが知る「プラリュ」の魅力はほんの一部にしか過ぎない。その魅力に満ちた味わいを堪能するためには、やはりロアンヌへ足を運ぶ必要がありそうだ。 |
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ロアンヌの本店にはこんなにかわいらしいプティフールも
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「ガナッシュももちろん大好きですよ。でも、自分のスペシャリテはやはりオリジン(産地別)のショコラだと思っています。実を言うと、ボンボンだったら、1日に1個くらいは新しいアイデアが浮かんでくるんです。でも、100種も200種ものボンボンを作って並べる訳には行かないでしょ?それよりも新しい産地やカカオ、そしてプランテーションの作り手の方に興味があるんです。真にカカオを堪能したければ、どうしても本質を追求したくなる。だから、これからもオリジンに力を入れたいと思うんです」
プラリュ氏にとって、新商品はプラリネやアーモンドではなく、新しい産地やカカオ、そして作り手を意味する。だから、マダガスカルにある自身のプランテーションだけでは満足せず、世界へと足を運ぶのだ。カカオ探求に対する野望の尽きないプラリュ氏。他の場所にプランテーションを作る計画はあるのだろうか? 「頭の中では他にもプランテーションを持ちたいと思っています。ギニアのカカオ豆も良いなぁと思うのですが、マダガスカルとは反対側の位置にある。今でさえ、モスクワや日本など海外への出張が多くて時間がないので、なかなか難しいでしょうね」 そう、残念そうに話すプラリュ氏。しかし、いつの日か他の国にプランテーションを作ってしまうのではないか?カカオへ情熱を傾けるその姿を見ていると、そんな気さえしてくる。 |
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木箱を重ねたラッピング。紙使いにセンスが光る
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良質なカカオ豆を求めるあまり、マダガスカルに自身のプランテーションを持つまでになったプラリュ氏。木がしっかり成長するまでにはまだ時間がかかると話していたが、その後どうなったのだろうか。
「私のプランテーションですか?まだまだですよ。今収穫できるのは3トンほどで、決して充分な量ではありません。自分のプランテーションの木はまだ若いので、マダガスカルにあるミロという別の農園の豆を買い付けているんですよ」 豆のクオリティはどうですか?と質問すると、 「もちろん、パーフェクトですよ!」 と会心の笑みがこぼれた。カカオのことになると、まるでおもちゃを手にした子供のように瞳を輝かせる。精力的に活動するプラリュ氏はプランテーションの視察のため、現在もマダガスカルには1年に3回訪れているそうだ。 |
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インスピレーションの宝庫マダガスカルにて
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さらに、10月にはカカオの本も出版される。カカオについて、発酵、乾燥、そして工程を豊富な写真で紹介する内容で、カカオやバニラを使ったレシピも紹介する予定。なんと、カカオを使った料理のレシピもあるそうだ。 「我が家では代々、男性が台所に立つんですよ。母は台所に近づきませんでした(笑)」 そこで、スペシャリテを伺ってみた。 「うーん、ジビエや魚料理かな。“リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル”も作りますよ」 もっと家庭的な料理の名前を想像して質問したのだが、ジビエ料理の中でも特に難しいとされる料理の名前が飛び出した。リエーブル(野ウサギ)とフォアグラの料理、“リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル”は古典的フランス料理の王道とも言える一品だ。 「私の料理の師匠はあのトロワグロ氏のお兄さんなんです。ですから、“リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル”も、トロワグロ流の新しいスタイルで作っています。ショコラを使ったものですか?カカオのフェ-ブをまぶした牛ヒレのステーキはとてもおいしいですよ」 プラリュ氏はブラジルにある「トロワグロ」の兄の店で料理を含めた総シェフの経験もあり、料理はお手のものだ。 |
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エビのかき揚げに「セ・ボン!」。 サクサクの食感と、エビのプリプリ感がいたく気に入ったようだ |
「ショコラのアイデアは、旅の途中で違う文化に触れてひらめくことも多いですよ。今回は、生のシソをパウダーにしたものにインスピレーションを感じました」 そこで、パナデリアの会報誌を見ていただく。1ページ、1ページをじっくり眺めるプラリュ氏だが、あるページに特に興味を惹かれたようだ。それは、なんとあんパン特集のページだった。 「食べたことですか?もちろんありますよ。プラリネに構成がよく似ていますね。だから、日本ではプラリネが受け入れられるのかもしれないな」 と、そのあともしばらく、ずらりと並んだあんパンを眺めていた。 今回もサロン・ド・ショコラ東京では数日間で売切れてしまうほどの盛況ぶりだったが、実際に日本での手応えをどう感じているのだろうか。 「そうですね、メディア的な違いが一番大きいと思っています」 雑誌などのメディアで紹介されることにより、数年前に比べ、「プラリュ」の名とそのショコラのクオリティが日本のショコラファンに知られるようになったように感じているのだという。だが、それは日本だけの話。「ラデュレ」や「ピエール・エルメ」、「ジャン・ポール=エヴァン」を始め、フランスの超一流店が愛用する「プラリュ」のショコラはヨーロッパでは知らないものはなく、特にドイツとU.S.Aで非常に高い需要がある。 |
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お馴染みの“ピラミッド・トロピック”は、今年も人気を集めた
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「たくさんの需要はあるのですが、それを受けるための工業製品化は絶対にしたくありません」 カカオの味をストイックなまでに追求するプラリュ氏に妥協はない。世界的にカカオの量は少なくなっている上に、自信を持って提供できるショコラを作るのには限界がある。だからこそ、自分の中で線を引き、逆に自分の方から買い手を選別することも厭わないという。そこに見えてくるのは、おいしさを貫くための絶対的な信念だ。その姿は日本人には傲慢にも映るかもしれない。だが、クオリティを維持して作れる数に限界があるのは、火を見るより明らかなこと。それを、ごまかさず、貫き通すことこそ、本当の職人としてのあり方と言えるのかもしれない。 |
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お茶目なプラリュ氏。カカオ豆に囲まれて本当に幸せそう!
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カカオを探し、育て、そして最上のショコラへと昇華させる・・・ プラリュ氏の情熱は、いつまでも消えることはない。 カカオの真髄を探る旅は、これからもずっと続いていくことだろう。 |
プラリュ本店
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住所 |
8,rue Charles de Gaulle 42300 Roannne |
TEL | 04.77.71.24.10 |
プラリュ サロン・ド・テ
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住所 | 56,rue Charles de Gaulle 42300 Roanne |
TEL | 04.77.71.22.61 |