八木 淳司シェフ・日東製粉ベーキングセミナー



八木淳司シェフといえば、オーストリアのマイスターを取得されている凄腕の菓子職人。また、「マイスターのウィーン菓子」という伝統的なオーストリアの焼き菓子の本を出版されている方でもあります。今回行われた「日東製粉ベーキングセミナー」の参加者はパン屋さんが多かったのですが、八木シェフはお菓子屋さん。"何かオーストリアの焼き菓子で、パン屋さん向けに販売できるもの、商品開発に一案を"という打診をうけ、西葛西にある日本パン研究所での今回の講習会となったそうです。

実施されたのは1999年10月19日・午前10時から16時20分まで、八木シェフのオーストリアの焼き菓子5品と、日東製粉の研究員の方から南米キヌアなる種子を生地に混ぜ込んだパン、ミックス粉を使ったパンなど21品のアイテムが紹介されたのです。セミナーの時間が限られている中での総数26品の紹介であったため、焼き菓子とパンの同時進行の中で講習が進められていきました。
その中でも、やはり受講者の「パン屋にはないお菓子に近い商品開発のアイディアを」との要望の方が強く、割合的にも菓子7:パン3くらいのかんじで講習が進めらていったようです。パナデリアとしても今回は八木シェフの見事な職人技に興味津々だったので、お菓子中心のレポートとさせていただきました。

今回、八木さんが紹介してくださった5アイテムは、秋の味覚でもあるりんごを使った「アプフェルシュトゥルーデル」、ヘーゼルナッツが香ばしい「ヌースボーゲン」、アニスの風味が効いた「オースターピンツェン」、ドライフルーツがぎっしりと詰められた「フルヒテブロート」、アプリコットを入れて焼き込んだ「マリッレンシュトロイゼルクーヘン」。
八木さんといえば、1976年にオーストリアに渡り、製菓店で修業を積み、1980年にはオーストリアの国家公認製菓マイスターを取得。その後、ドイツで製菓の仕事に従事し、合計8年間の滞在を経て帰国し、'88年に名古屋に「フレダーマウス」をオープン。現在オーストリア菓子の普及に努めていらっしゃいます。

講習が始まると、八木さんの見事な手さばきに、参加者は次第に引き込まれていきました。講習中、オースターピンツェンの生地をレシピどおりに仕込んでいったにも関わらず、当日の外気温・湿度が低いなどの外的要因が加わり、生地が堅くなってしまうというアクシデントに見回れましたが、八木さんは、長年培ってきた経験と技量で、分量外のミルクや溶かしバターで調節。丁度よい状態の生地に仕上げ、計量の大事さだけでなく、その時の粉の状態、バターの種類、湿度、気温などに応じた生地本意というのが、やっぱり大事なんだということを改めて教えていただいたような気がしました。これはもちろんパン屋さんの大部分が普段のパン作りで実際に感じていることと同じだと思います。

八木さん曰く、「今回、提案させていただいた、アプフェルシュトゥルーデル、オースターピンツェン、フルヒテブロートなどの生地は、捏ねたり、イーストを使ったりしたものもあるので、お菓子屋さんよりもパン屋さんである皆さんのほうが、より理解していただけるのではないでしょうか。私は菓子屋なので、捏ね上げの温度などはあまり厳密には測っていないのです。ホント申し訳ないのですが、温度は測ったことがないのです。人肌温という感覚だけなんです。」とのこと。
「私はあくまでも菓子屋なのでパンの事は、詳しくないのです。ですので皆さんの質問にぴったりとした答えではないかもしれない…」「中にサンドする果物も、全くおなじでなくていいのです。それぞれ皆さんが今まで、されてきたことをしていただければ。私の今回提案したものが少しでも役に立てたらと思っています。」などと、話して下さる八木さんの物腰の柔らかさが、まだいただいていないお菓子の美味しさを物語っているような気がしたのは、私だけでしょうか。

その他、八木さんの教えてくださったことは、ウィーンの菓子屋やパン屋では、今回紹介したマリッレンシュトロイゼルクーヘンは大きな四角い天板のままで売られていて、パレットナイフで取り分けて売られているなどの販売方法や、丸型は一般的にオーストリアでは底が付いてなくセルクルで下に紙を敷いて丸型として使われるなどの興味深いことばかり。
他にも、ウィーン菓子については、オーストリアの歴史的背景には欠くことのできない「ハプスブルグ家」が絶対的な権力をヨーロッパで持ち得ていたことから、各地域のお菓子がオーストリア・ウィーンに集結。そこで、ウィーンのエッセンスが加わってウィーン菓子が生まれたということ。寒冷地であるドイツやオーストリアでは木の実を使って焼き込んだお菓子が作られ、暖かなフランスではフルーツやそこから生まれたリキュールを使ったお菓子が作られていったこと。…等など、さまざまな角度からお菓子にまつわる話をしてくださり、技術の習得だけではなく、ご自身がむこうで生活をしてきた時に触れてきた生活文化、得た知識などの話をとりまぜての講習だったので、とても充実した講習会だったと思う。

「本当に今日は時間がないので割愛して話をしてしまいましたが、ウィーン菓子には歴史的背景などがまだまだあるのです。」と、八木さん。
是非!是非!!八木さんのウィーン菓子への思い・定義など詳しくお話をお聞きしたいとパナデリアスタッフは願っております。今回はオーストリア菓子の伝授だけでなく、いろいろな話を聞かせていただき、又、日東製粉のパンとの同時進行であったため密度の濃い講習会に参加させていただきました。ありがとうございました!!



<今回紹介された八木シェフによるお菓子>  レシピはこちら
アプフェルシュトゥルーデル
1. アプフェルシュトゥルーデル
オースターピンツェン
2. オースターピンツェン
ヌースボーゲン
3. ヌースボーゲン
フルヒテブロート
4. フルヒテブロート
マリッレンシュトロイゼル
5. マリッレンシュトロイゼルクーヘン





<今回紹介された日東製粉のパン>

1. クリビスケンブロート
2. キヌア・グランド
3. パーネシチリアーノ
4. 麦麹テンダーブレッド
5. フランスパン
6. パーネ・シチリアーノ(ミックス粉によるもの)
7. フランスパン(ミックス粉によるもの)
8. もっちりスチームバー
9. ミニスチームボール
10. もっちり蒸しケーキ
11. 発酵蒸しケーキ
12. 惣菜ドーナツ
13. クラップフェン
14. スコーンドーナツ
15. さつまいもドーナツ
16. サクサクトースト
17. バルバリ
18. ポケットスティック
19. アメリカンブレッド
20. ガレット
21. シューパイ