- Panaderiaが行く -
麦畑視察ツアー


今年も国産小麦の視察ツアーに参加しました。
毎年恒例になったピッコリーノ・伊藤氏主催の「麦畑視察ツアー」が去る6月某日より2泊3日の行程で実施された。
今年の目玉は秋田の大潟村(八郎潟の干拓地)の麦畑であった。とにかく広い、見渡す限りの田畑。一軒あたり約20町歩(20ha)といわれ作物も多種に渡っている。

最初にここで麦を作付けしている芹田氏にお話を伺った。印象的だったのは、麦は収穫前の約一週間ですべてきまるということであった。一日でも、数時間でも雨にあたるとその年の麦は等級でいうとランク落ちしてしまい、出荷しても人の口に入らない下等級の麦になってしまう。農家の方々は半年近く一生懸命世話をしてきた作物がたった一日のことで、こうも変わってしまう、なかば運命のようなものと共存しているということに、自分達の生活がいかに楽なものか反省させられる一時であった。

もう一つ、印象的なことがあった。米の収穫期を迎える秋、刈り取り直前に麦の種をまくのである。米を刈り取り、そのわらの下から麦が芽を出すという。寒い東北での生産者の知恵から出たことだという。
この他に米を刈り終わってから種をまく方法の一つとして、自宅の風呂の残湯に麦種を入れ、一晩寝かしゆっくりと風呂に入れてからまくと発芽がとても良いということであった。

麦の種付けの方法を比較できる畑を北上和賀町の照井氏に見せていただいた。米の後の畑では麦の穂の付きがバラバラであるのに比べ風呂に浸けた方はしっかりと束のように穂が付いていた。「麦の本来持っている力」を上手く引き出している方法だと感心し、作り手の気持ちがこのように出るということが、とても興味深く思われた。

もう一点は無農薬という問題である。現在、農作物において無農薬といえるものは、3年間、農薬を使わずに畑を持続するというかなり難しい問題である。
麦でも他の作物でも、畑では連作害と言って同じ畑で何年か続けて同じ作物をつくると病気になってしまう害が発生する。麦畑も普通、米と麦を交互にやるのが普通である。米の場合は、田んぼで水をはるため連作が可能であるが、麦は不可能である。

他の作物を育てる時も同じ畑で無農薬をうたうには、すべての作物に農薬を使わないということである。これは並大抵の努力ではないそうである。病気や害虫に一度でもやられたらその年は収入がゼロというリスクを生産者が背負うことになる。その他、作物に病害虫に負けない活性力を付けるために肥料は化学肥料を使わず有機肥料を用いる方がいいということである。
これまた都会に住む消費者である我々が簡単に無農薬がいいと軽々しく口にはできないことを痛感した。無農薬がいかに大変か、感謝感謝。

今年は他に国産小麦の利用普及についても視察した。大潟村には、ピッコリーノ伊藤氏の指導のもと、国産小麦天然酵母パンの店が町の地域の農家の方々の協力で開店していた。ここでは消費者参加型のテーマをもってパン教室を開催していた。
焼きたてのパンの香りが麦畑の中を通りぬける風にのってあたりにしあわせの香りを振りまいていた。


東京に戻り、夏に近づく空を見上げ「小麦がどうなったのか」気になりかけた頃、今年の麦の穂が岩手皆波町・杉浦氏から送られてきた。たわわに実った麦の穂をみて「今年も美味しいパンが食べられそうだ」と、安心した次第である。

調査の結果、収穫時の好天にも恵まれ東北地方としては、昨年より収穫量は増え、質のいい麦を確保できているそうです。
小麦の刈り取りも終わった東北地方は、生産者の人々が国産小麦へ注ぐ熱い思いと同じような熱い太陽の季節、夏本番をむかえようとしている頃である。