文・写真:加納雪乃(パリ在住) |
パリのパティスリー&ブーランジュリーでは、気の早いところは12月末から、普通は1月2〜3日から、一斉にガレットを店先に並べます。 ブーランジュリーではフランジパン(アーモンドクリーム)を入れ込んだ普通タイプのものだけを作り、パティスリーでは普通タイプのほかに、各店いろいろな味を入れ込んだオリジナルタイプを作ることが多いようです。 百花絢爛のガレットたちから、パティスリー、ブーランジュリー、サロン・ド・テ、レストランの4ジャンルから、それぞれ優れものを紹介します。 |
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パティスリーを代表して、ご存知「ラデュレ」。イチゴとお子さま向けみたいな甘いボンボンの香りを練りこんだアーモンドクリームを使ったオリジナル作品です。
ピンク色のクリームは、香りも色も味もトロンと甘く、「ラデュレ」の店のイメージにピッタリ。こんがり焼けたフィユタージュはサクサクと噛み締めるほどに、この店のクロワッサンの味を思い出させる香ばしいバターの香りがたっぷり。クリームは見た目よりもずっと軽く、優しい甘さ。このメゾンにしか似合わない、ウルトララブリーな味です。 太めでコロンとかわいらしいガレット。王冠もフェーヴもラデュレオリジナルで、なにからなにまでフェミニンでかわいらしく、夢溢れるガレットです。 |
![]() ラデュレのフェーブ |
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ブーランジュリーからは、1月4日、5日に開催された、パリ&パリ近郊のブーランジュリーたちが参加する「ベスト・ガレットデロワ・コンクール」の今年の優勝店、「フランソワ・バカヴァン」の作品を。13区にある、なんてことのない小さな小さなブーランジュリーの、フランジパンのガレットは、100軒あまりの参加店の中から選ばれた秀作です。 他の3つのガレットに比べ、バターよりも粉の魅力をフィユタージュに感じるのは、やはりパン屋さんだからでしょうか。適度なサクサク感と質感を持つ誠実なフィユタージュに、これまたきっちりと過不足なしの見事なできばえのフランジパン。変な自己主張が全くない、生地にもクリームにも、どこまでも誠実な職人魂を感じる、全てのガレットのお手本になるような作品。今年の優勝作品にふさわしい、王道のガレットです。 |
![]() バカヴァンのフェーブ |
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人気サロン・ド・テ「ラルティザン・エ・サヴール」は、ランチもオヤツもおいしい店。オーナーのパトリックさんが作るガレットは、グリーンアニス、カルヴィ(クミンに似たスパイス)、オレンジの花の水で味をつけたオリジナル。 どことなくオリエンタルな香り漂うガレットは、強い味や香りを使っているのに、あくまでも上品で洗練された味。それぞれの香りのバランスがとてもよくとれた、パティシエの感性が光るガレットです。 ノエル、年末と、ひたすら食べすぎの日々が続くフランス。ガレットを食べるころには胃はクタクタという中、消化作用のあるスパイスを使った体に優しいガレットは、98年のオープンからずっとこの店の人気商品です。 |
![]() ラルティザン・エ・サブールのフェーブ |
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最後は、レストランの作品を。今のパリで最も勢いがあるレストランの一軒、「ル・ムーリス」。同名の超高級ホテルのシェフ・パティシエであるカミーユ君は弱冠23歳。ごく若くして、トップレストランのパティスリーを任されるだけあり、実力は見事。今では、パリを代表するトップ・パティシエの1人です。
軽くカラメリゼした洋ナシとトンカ豆の粒を混ぜたフランジパンに、焼き上げた表面にオレンジの花の水のシロップをかけたオリジナル・ガレットは、食べた瞬間、天国に連れて行ってくれます♪ 新鮮さ、作りたて、をなによりも大切にするカミーユ君のポリシーは、ガレットにも生きていて、フランジパンに混ぜられたジューシーで香り豊かな洋ナシは、皿盛りデセールの作品のよう。とことん柔らかくフレッシュで、ガレットのクリームとしては、かなりトロトロ系。口の中でトロリと洋ナシの食感とカリカリと歯にあたる細かく砕いたトンカ豆とのコントラストが見事。両者を包み込む、これまたウルトラフレッシュなフランジパンの味は言うまでもありません。そんなクリームを包み込むガレットは、ごくごく薄いフィユタージュ。細かな層の一枚一枚が、完璧な焼き上がりになっています。サクンと表面を噛み切ると中のフィユタージュはサクサクとミシミシをあわせたような食感。間に入り込む空気量がごく少ないのに、決してべたつかず、フイタージュの一枚一枚が、そのおいしさをきっちり主張しているのです。脱帽! フェーヴは、ホテルのロゴと色を使ったお星様の形。レストラン「ル・ムーリス」に足りない最後のミシュランの星を、このフェーヴがもたらしてくれるかもしれません。 素材を贅沢にこだわり、極上の技術と確固たるポリシーをもって作られたこのガレットは、もはやガレットの粋を超えているかも。小売用でなく、ムーリスのホテルやレストランのゲストのための、いわば利益を考えずに作る作品だからこそ実現可能な質の高さなのでしょう。このガレットを食べるために、1月6日に「ル・ムーリス」に泊まったり食事をしたいくらい、それはそれはすばらしい、一見、もとい一食する価値のある、オート・クチュール・ガレットです。 |
![]() ル・ムーリスのフェーブ |
味遊びが得意なパティスリーは、各店とも、楽しい味のガレットを発表。 「ピエール・エルメ」の代表菓子“イスパハン”味のガレット(ライチ、フランボワーズ、ローズ)、「ジャン−ポール・エヴァン」のショコラ味のフィユテにラムレーズン、シナモン、カカオ豆をあしらったガレット、名パティシエであるクリストフ・フェルデールが陶器メーカー“ベルナルドー”とコラボレーションして作ったマンダリンとザクロシロップのガレットなど、ワクワクするような味のガレットたちが溢れている、1月のパリなのです。 |