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パトリック・ロジェ氏 M.O.Fのコックコートの下にブルージーンズというさりげないスタイルが決まっています |
サロン・デュ・ショコラの魅力のひとつが、憧れのショコラティエに会えること! その魅力をより深く堪能できるセミナーはサロン・デュ・ショコラファンにとって欠かせないイベントです。しかも、今回からは伊勢丹のアイ・カード会員限定の有料セミナーのみ、さらに抽選とあって、涙を飲んだ方も多かったはず。 そんな貴重なセミナーの中でも、恐らく一番の狭き門だったのが、初登場となったパトリック・ロジェ氏のセミナーでしょう。 ロジェ氏は、「ペルティエ」、「モデュイ」などを経て独立。1997年パリ郊外の高級住宅地ソー市に店を構え、2000年にはフランスでも数少ないというショコラのM.O.Fを取得。その独創的なアイデアには、かのピエール・エルメ氏をして「すぐれた才能。金銀細工師の腕をもつ」と言わしめたほど。2005年にはパリ6区に2店舗目、さらに16区に3店舗目をオープンしたばかりと、とにかく、今最も注目度の高いショコラティエのひとりなのです! |
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ブース内は連日大盛況。お目当てはやっぱり「カラー」? |
そんな彼の代表作は「カラー」と呼ばれるボンボン・オ・ショコラ。 一粒一粒異なる微妙な色合い、そしてその艶やかな輝きはショコラを超えた芸術作品のよう。さらにその中でも、昨年サロン・デュ・ショコラ東京に登場した「シクローヌ」は、なんと一粒2100円とその価格でも話題になりました。 あらゆる面で常識を覆してくれるのロジェ氏。今回は、ついにその秘密が明かされるのでしょうか・・・!? 「ボンジュール!」 “プラリネの魔術師”、“チョコレートの芸術家”など様々な異名を持つロジェ氏。気難しくて繊細なイメージがあったのですが、ニコニコと笑顔を浮かべて登場した姿は、想像していたよりも気さくな印象。 |
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満を持しての初登場!最初はインタビュー形式で |
最初の話題はブースのデザインについて。足を運んだ方はご存知と思いますが、グリーンの木々に包まれ、まるで森に迷い込んだかのような不思議な印象を受けます。 |
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鳥のさえずりが聞こえてきそう! |
「テーマカラーのグリーンは、植物そして森の色で故郷をイメージしています。自分のオリジン、つまり起源に戻ることは、味を考える上でも重要なことだと思っているからです」 確かにそう言われてみると、パッケージから何からいたるところにグリーンが。 ロジェ氏の故郷はノルマンディ地方に隣接するペルシュ。実家には広大な庭があり、そこではフルーツやハーブなどの収穫もできるのだそう。実家のパティスリー(残念ながら今はないそうです)では、パティシエのお父様がそのフルーツを使ってお菓子を作っていたそうですから、本当の森のような広〜い場所なのかもしれませんね。 |
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もちろん車もグリーン!お店のスタッフと一緒に |
さて、サロン・デュ・ショコラ東京がどんなふうに映っているかも気になるところ。 「東京に来たのは今回が初めてです。パリ・サンジェルマンの店舗には日本人のお客様も多いのですが、こうやって実際にメッセージを伝えることができるのは嬉しいですね」 ほかにも芸術家肌のロジェ氏らしく、例えばイッセイミヤケなどの日本人デザイナーや、建築物など、様々なものからインスピレーションを受けているそうです。 そして、お待ちかねの試食タイム。最初に登場したのは、なんとグラスに並々と注がれたヘネシ−XO!お酒が苦手だったら、見るだけで酔っ払ってしまいそうです。 |
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球状の氷に浮かぶ「Hennessy」の文字が美しい! |
「では、口に含んでオレンジ、そしてモモのような香りを見つけてください。最後に、エチオピア産コーヒーの香りもするはずですよ!」 えっ?エチオピア産?!コーヒーの香りならまだしも、エチオピア産といわれると悩むところ。チョコレートの前の難題な味覚テストに、参加者たちも眉をしかめながらヘネシーをすすります。 「コーヒーの香りは余韻が長いもの。ですから、3番目くらいに現れてくるはずです」 確かに爽やかな酸味と香ばしさを感じるような・・・。 「味覚は、鍛えるよりも、環境が重要な要素。もちろん、色々なものを食べて味を覚えることで広がります。でも、味には色と似た難しさがある。例えばひとつの色を語る場合、その色だけでなく、周りのカーペットや壁、絵なども重要な要素になってくる。それと同じような感覚です」 なるほど!朝、夜、コンディション、誰と食べるか、何と合わせるかといった環境によって、強く感じる味や香りは変わってきますよね。 そして、このオレンジの香りに合わせるべく、オランジェットが登場! 「これはコルシカ島のオレンジを使っています」 幅広のオランジェットはオレンジがしっかりと主張。そこにキレのあるショコラの苦みが心地よく重なります。その後にヘネシーを口に含むと、オレンジの香りがいっそう強く華やかに! |
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薄くコーティングされたチョコレート。中のオレンジピールはかなり厚めです |
そんな味の変化や広がりを楽しむうちに、気がつけばあんなにあったヘネシーは残りわずか・・・。周りをみると、2杯、3杯とすっかりお酒がすすんでしまっている人もいるようです。 「アルコールが口の中をゆすいでくれるので、より繊細な味わいを楽しめます。ナチュラルなボンボンとも相性が良いですよ」 優雅な余韻に包まれていると、コニャック以外だと何が合いますか?という質問が。 「個人的にはシャンパンが好きです。1988年のクリュッグがいいと思いますよ」 クリュッグといえば泣く子も黙るシャンパーニュの王様。中でも1988年はクリュッグ史上最高傑作とも言われるヴィンテージもの。その名前をサラッと言ってのけるロジェ氏に会場からは深いため息がこぼれます。 「例外的においしいものには、例外的においしい飲物を合わせること。そして、例外的に素晴らしい人がいれば最高です!」 では、その例外的においしいショコラを、ロジェ氏はどんなときに楽しんでいるのでしょうか? 「私は毎日、一日中、ショコラを楽しんでいます。大人しくしている時でも一日40〜50個。たくさん働いた日にはもっとたくさん食べますよ」 エェッ、まさか!?そんな驚きをよそに、ロジェ氏はちょっと得意そうなニコニコ顔。チョコレートが好きでたまらない少年のような表情です。 |
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正真正銘、筋金入りのショコラ好き!この体のどこに50個もチョコが?? |
「時間によって合うチョコレートがあるんですよ。勢いのあるもの、まろやかなもの・・・。その味が合う時間というものが存在するんです」 ふむふむ、確かに。では、ロジェ氏のおすすめは? 「朝一番は、ジャスミンティのガナッシュ『テ・ジャスマン』を10数個。さすがに起きてすぐは食べられないので、15分くらい待ってから食べることにしています。日曜日は朝が少し遅いので『ロッシェプラリネ』を半分にカットして。少しにしておこうと思うのですが、結局たくさん食べてしまうんですよね。そして午後は酸味のあるショコラで眠たい体をシャキッと元気に。酸味と渋みのあるガナッシュが良いですね」 では、食後にはどんなものが良いでしょうか? 「基本的に食後にデザートやショコラは食べません。お腹がいっぱいで本来の味が完全に味わえないですから。お腹が空いている時に食べるのがベストだと思いますよ」 ロジェ氏は基本的に一日に3回、朝と11時と夕食前の19時頃にショコラを食べるのだそう。 そして、次に登場したのは、なんとあの「シクローヌ」! 「これは一番芸術的なもの。この作業には、少し宗教的ともいえる神聖な気持ちで臨みます。ひとつひとつ手で色をつけますが、1回ではこの色を出すことはできません。25段階の工程を踏み、ピストレで色を吹き付けていきます。作り終えた頃には、体中真っ青になるんですよ」 |
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ずらりと並んだ「シクローヌ」!職人の技を感じます |
艶やかな表面は、夜空のように、そして海のように深く神秘に満ちた色合い。そんな話しを聞くと、ますます手を付けにくくなってしまいます。 「『シクローヌ』を前にするとなぜか触りたくなくなりますよね。実は私も同じです。M.O.Fの審査の際も、『シクローヌ』には誰も手を出せず、結局1つも減らなかったんですよ」 その特徴のひとつが青。ガナッシュに使われているリンボクの実が、紫と青の中間のような色だということですが、理由はそれだけではなさそうです。 「食べ物に向いているのは暖色。青は基本的に食品にはなく、逆に食欲をそそらない色です。それをあえて使うことは、自分にとって大きなチャレンジでもあったんです」 さらに、このリンボクの実というのも耳慣れない食べ物ですが・・・。 「リンボクは小さな実。非常に渋みが強いので、フランボワーズなどのようにそのまま食べることはできません。母親にも『リンボクを使うなんて絶対無理!』と言われたほどなんですよ」 リンボクはバラ科サクラ属で日本にもある植物。大きな木々に小さな白い花をたくさんつけるものの、その実を食べるという話しは聞きません。いったいどんな味がするのでしょう? |
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様々な想いがこの一粒に詰まっています! |
ずっと眺めていたい気持ちを押しやり、思いきってパクリ! 25段階にも層を重ねたとは思えないカシャッと薄い食感。中は、ガナッシュというよりはピュレにチョコレートを合わせたようなフレッシュ感のある味わいです。素朴なフルーティさの中に広がる渋みは、ちょっと新鮮な感覚。 いったいこんなアイデアはどうやって生まれるのでしょう? 「アイデアを考えるのは簡単なことです。5分間座っていたらアイデアは4つ浮かぶ。でも、自分には座っている時間がない!あれば、いくらでも浮かんできますよ」 さすがは天才肌。言うことが違いますね。 |
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「とにかく創造性が豊か。本当にすばらしいアーティストです!」とアシスタントの方も絶賛 |
実家で採れたフルーツを使うなど、素材への思い入れが深いロジェ氏。肝心のショコラへのこだわりも聞いてみたいところです。 「選ぶのはまず香りがよいもの。現在は60数種類のクーベルチュールを使っています。チョコレートの図書館といった感じですね(笑)。それぞれに異なる酸味や発酵の度合いにより、使い分けています」 ろ、60数種類!?アトリエはいったいどんなふうになっているのでしょう。とにかく想像以上の数です。 |
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本当はレーサーになりたかった、というバイク好きのロジェ氏。もちろん、色はグリーンです! |
ショコラを食べる量といい、使う種類といい、何からなにまで桁外れのロジェ氏。 新たなる天才といわれる所以、そしてその魅力をじっくりと味わうことができました! きっとこれからも、常識に囚われないその感性で私たちを楽しませてくれることでしょう。 今回のサロン・デュ・ショコラで紹介されたショコラはほんのわずか。パリでその全てを感じてみたい!そんなふうに感じたセミナーでした。 |
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