「ジーフェルト・マイスターユーハイム」 ベルント・ジーフェルト氏

身長はなんと2m!近くで見ると思わず見上げてしまう迫力ですが、とても気さくな人柄のジーフェルト氏。



サロン・デュ・ショコラの会場では、各国からシェフが集まっていましたが、ドイツ人シェフはベルント・ジーフェルト氏ただ一人。ブースからちょっとはみ出るほどの大きな身体と、熊のぬいぐるみのような優しい表情が印象的。その手から創り出されるショコラは、「オイル」を使ったものや「香水」をモチーフにしたものなど、独創的且つ個性的。国という枠を超えて、ジーフェルト氏の独自の世界観が伺える今回のコレクション。セミナーではどんな話が繰り広げられるのでしょうか、期待が高まります。

ユーハイムとのコラボレーションブランド「ジーフェルト・マイスターユーハイム」のブース。



ジーフェルト氏のコンディトライ(菓子店)「カフェ・ジーフェルト」があるのは、フランクフルトから1時間程のミッヒエルシュタットという小さな街。創業250年の店を父親から引継ぎ、「革新こそが伝統を築く」と、さまざまな菓子作りに挑戦しています。その実力たるや、国内外のコンテストで獲った金メダルがなんと30個以上。国際的に活躍しており、日本では、ユーハイムの新ブランド「マイスターユーハイム」を舞台に、ベルリンの三ツ星レストランのシェフであるコルヤ・クレーベルク氏とコラボレーションして、新しいドイツ菓子を提案しています。

伊勢丹サロン・デュ・ショコラのために開発した「パフュームコレクション」。さまざまな香りを纏ったプラリネ入りのボンボンショコラはまさに“食べる香水”


セミナーでは、今回の「オイルコレクション」より、ボンボンショコラ「オリーブプラリネ」とジュレ状のお菓子「オリーブジェレー」の、オリーブオイルを使った2点を実演。オイルとショコラ、オイルとフルーツ。新しい素材の出会いに、興味津々。さてさて、どんなお菓子ができあがるのでしょう。
まずは、「オリーブジェレー」から。今回は、ゼラチンと併用して寒天を使います。ゼリー菓子というと、フランスのパートドフリュイのように、ペクチンが主流。寒天はどうも日本の食材というイメージがありますが・・・?

「ドイツでは、寒天は“das Agar-Agar(アガアガ)”といって、200年も前から使用しています。ペクチンは歯につくからと、アガアガの歯切れの良さが好まれています」

パウダーシュガーと寒天、ゼラチンを合わせたものを、温めた青りんごのペーストに溶かし、機械で回転をかけながらオリーブオイルを少しずつ混ぜ合わせます。

使用するのはドイツ製のミキサー「サーモミックス」。加熱しながら高速回転をかけ、フルーツとオイルをしっかり混ぜ合わせます


フルーツとオイルを合わせるときは、ビタミンが壊れないように温度を上げすぎないことが重要とのこと。なので、約37℃まで温度を下げてからオイルと合わせます。よく混ぜ合わせたら、ジェレーをシリコン型に流しいれます。

柔らかいジェレーは、機械を使って均等に型の中に流しいれます。完全に固まるまでは丸一日かかるそう



ジーフェルト氏は、世界中で今回のような製菓セミナーを行っています。各地で、新しい素材との出会いや発見もあるそうです。

「最近はイタリアに行くことが多いのですが、イタリア人は皆、自信をもって自分の街のオリーブオイルが一番おいしいというんですね。確かに、州や街ごとに、特徴のある良質のオリーブオイルがたくさんあります。北の方は、やさしい味わいで、南は反対に力強い味わいがあります。今回使用したものはトスカーナ産のもの。アーモンドやアーティーチョークを思わせる深い味わいが特徴的です」

味わいを直接確かめるために、今回使用したオリーブオイルとパンが配られました


オリーブオイルは、すっきりとした喉越しでまるで油っぽさを感じません。まろやかでどこか野菜のような青々しい風味もあり、確かに酸味のあるフルーツとの相性が良さそうです。

「ドイツでは今、オイルがトレンドなのです。オリーブオイルだけでなく、パンプキンシードオイルや、セサミオイル、モロッコのアルガンオイルなど様々なオイルが料理に使われています。今回のショコラも、シェフのコルヤ・クレーベルク氏とのコラボレーションから生まれたアイディアなのですが、まさに料理の発想から生まれたショコラといえます」

アルガンオイル・・・とは、日本には少し聞きなれませんがどのようなオイルなのでしょう?

「アルガンツリーという木の種から摂れる希少なオイルで、モロッコの名産品です。食用の他は、ビタミンが豊富なので、ガン予防やアンチエイジングにもいいとされ、薬用や美容目的にも使われているんです」


オイルコレクションの中のひとつ、アルガンオイルを使った「アルガンプラリネ」。果実やショコラの味わいを活かすために、ノンローストタイプのオイルを使用しています。


次は、同じオリーブオイルを使用したボンボンショコラの実演です。まずは、生クリームを温め、ホワイトチョコを加えて乳化させ、ガナッシュを作ります。生クリームは、ドイツでは32%が主流。ガナッシュを作るときも馴染みやすいので作業性も良いそうです。ガナッシュができたら、そこにオリーブオイルを足し、さらにオリーブの実を刻んだものを加えます。

「ホワイトチョコレートを使ったガナッシュは、オイルコレクションの中で、この1種類だけ。オリーブオイルの青みのある果実のような風味と、ホワイトチョコレートはとても相性がいいのです。そこに、オリーブの実を入れて、塩気をアクセントにし、コーティングにはビターチョコレートを使うことで、全体をまとめます」

チョコレートのカップに、ガナッシュを均等に流しいれます。


ガナッシュの表面が乾いたら、チョコレートをコーティングします。コーティングに使用するのは、スイスのマックスフェルクリン社のクーベルチュール。

表面は、ショコラ専用の「シートストラクチャー」で凸凹の模様をつけます。サロン・デュ・ショコラでは、このシートを用いて模様をつけたボンボンが多く見受けられました。


試食でいただいたオリーブジェレーと、作り立てのオリーブプラリネ。ジェレーは、まるで日本の「ゆべし」のような“フヨヨ〜ン”とした独特の柔らかさ。油っぽさは無く、ジェレーに閉じ込められたオリーブオイルの爽やかな香りが、青リンゴの爽やかな酸味と共に口の中に広がります。青リンゴとオリーブオイルの相性の良さは、食べて納得。

「オリーブジェレー」と「オリーブプラリネ」


プラリネは、なめらかな口どけのガナッシュに、刻んだオリーブが食感と味わいのアクセントに。まろやかな風味のセンターと、コーティングチョコレートのキレの良いビター感がマッチしています。一粒で様々な新しい味覚との出会いが待っているショコラは、まさに一皿の料理を食べているよう。

「日本ではオイルコレクションを発表しましたが、様々な種類のハチミツや、人参などの野菜を使った新しいボンボンにも挑戦しています。ドイツで手に入れば、柚子やゴマなど日本の食材も使ってみたいと考えています」

外国の考え方を吸収すると共に、ドイツの食文化や新しいアイディアを世界に発信していきたいと語るジーフェルト氏。今回のオイルコレクションも、一見奇抜なようですが、思えば、“奇抜”と感じてしまうのも、我々の固定概念が邪魔をしているにすぎません。
オイルはダイエットや健康の敵という考え。そして、お菓子に使う場合、植物性油脂というくくりでどうしてもイメージが良くありませんでした。でも、味わいの幅を広げるほか、健康にも良く、美容効果も期待できるというのは事実で、ヨーロッパでは既に広く普及しているもの。バターの高騰を嘆いている今日この頃ですが、植物性油脂のおいしさや健康への効果というという新しい一面に出会い、まだまだ発想転換が必要そうだな、と思わざるを得ませんでした。
今後も、日本、そして世界の洋菓子界に新しい風を吹き込む、ベルント・ジーフェルト氏に期待したいと思います!


ブースにて。パナデリアを持って「イエーイ!!」思わずカメラを持つ手が震えました・・・(笑)







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