親愛なるラロさんとの食事


牛乳にヨーグルト、フレッシュチーズに何種類ものバター。好きなパンを選んでの朝食は楽しい一日の始まりで、毎食毎晩結構な量を食べているのに、朝は意外とおなかがすいているから不思議である。あれこれ食べては味をメモしたりする。それにしても、こんなに食べても、体調はよく、東京にいた時のあのひどい肩こりまで治っているのだから、わたしったらよっぽどフランスが血に合っていたりして?! 病院でもらった薬を飲んでいるマダムまゆみは、薬が強くて胃が荒れるものの、同時に薬が効いて、東京にいるときとは比べ物にならないほどよく眠れると言っている。女性3人、日々少しずつ肥えていくのが、デジカメの写真を見るとわかるのだけれど、ムッシュ三宅のおなかが、日々順調に膨らんでいくのもかなりのもの。
さて、この日は午前中から、ブーランジュリーを中心に攻めた。ブーランジェリーに行くと、気づくとわたしの目は、バゲットのサンドイッチに行ってしまう。そう、実はこれ、大好物なのだ。今回の旅でも、各店の食べ比べをしたかったくらい。でも「そんなにおなかにたまるもの、やめなさい」とほかのスタッフに言われて泣く泣く諦めた。
ちなみに、わたしだけではなく、それぞれが惹かれるものには傾向があるみたいだ。例えばムッシュ三宅はリンゴのパイに弱いとみた。つい買ってしまっている。ユカコは、シンプルな粉もののお菓子。飾りっ気のない、例えばボソボソしたクランブルがのって、いい色に焼けたケーキをみると、必ず目を三日月みたいに細める。ほかにも、常にシャンティののったお菓子を目で探している。
パナデリアの良心、マダムまゆみは、パンとお菓子には案外冷静で、あまり無理はしない。そのかわり、パンとお菓子だけで食事をすませることには絶対反対で、タンパク質は別腹とばかり、きちんとレストランに行くことを主張するのが面白い。

さて、この日一番のイベントは、ブーランジェリーである「カルティエ・デュ・パン」のラロさんと会うことだった。「ラロさん」、なんてわたしは初対面なのにちょっと気易く呼ばせていただくのは、ムッシュ三宅とマダムまゆみが特に大好きなシェフで、過去に何度も会って、その人柄に強く惹かれている、といつもわたしに話してくれているからだ。
「お昼に待っています」
と言ってくれたラロさんは、訪れると再会を喜び、初対面のわたしにも優しく、店の近くのレストランへ連れて行ってくれた。


ラロさんが連れて行ってくれたレストランでの料理。レンズマメの上にソーセージがのっていたり、白インゲン豆のピュレのスープの中にモツが入っていたりと、量もたっぷり。もちろん、カルティエ・デュ・パンのバゲットも出てきた


それぞれがランチメニューから食べたい物をオーダーし、ワインを飲みながら楽しく会話した。ラロさんは、とにかくきれいに料理を食べる。すべてのお皿、パンで、最後の最後までソースをすくいきって、出されたものをほんの少しも残さない。無駄を出さない。そう、これぞムッシュ三宅とマダムまゆみが、ラロさんに惹かれている大きな理由の一つなのだ。
「こんなことを言うと大げさかもしれないけれど、ラロさんは、自分の食べられない量をオーダーするのは神様に対して申し訳ないと思っている気さえするの」
とマダムまゆみが言う。
そんな風に見える行動をさらっとこなしているラロさんは確かに素敵だ。
帰りに店に寄ったら、たくさんのパンをお土産にくれて大感激。人数分のクロワッサンや、大きなハード系のパン、シューケットなどなど。
でもどうしよう。ラロさんを見習いたいけれど、さすがにこの量、もしかしたら食べきれないかもしれない(笑)!


ラロさんからいただいたパンの一部。夜遅くに「ひとつだけ」と思ってつまんだシューケットはやめられないおいしさだった


シャンゼリゼ通りのイルミネーションをながめながら、歩道に並ぶクリスマスマーケットで買い物をしたのもこの日


さて、気づけば旅も終りに近づいてきた。
明日は、「ルドワイヤン」という2つ星レストランでのランチが待っている。そして明後日はパリを発つ日だ。