フランスの伝統的な地方菓子の数々。どれもがその地方の特色を活かしたり、またフランスの歴史や風土に由来したりとさまざまです。マドレーヌやフィナンシェなど、日本のパティスリーでもあたりまえになっているものも数多いけど、中には、特別な型を使ったりと、日本で再現するのは難しく、まだまだ日本には浸透していない地方菓子もたくさんあります。今回はそんな伝統的な地方菓子の中からアニョー・パスカルを求めて、アルザスにお出かけになったという西山朗子さんからのレポートをお届けします。 ひつじ型のお菓子、アニョー・パスカル。実際にお菓子が店頭に並ぶのは、復活祭の時期だけだと思うけど、型はきっと一年中買えるから、アルザスに型を買いに行く旅も楽しそう。もちろん、この西山さんのレポートを参考に、来年の復活祭の時期、アルザスでアニョー・パスカル食べ比べもお薦めです。そして何より、西山さんの希望は、日本でもアニョー・パスカルが浸透していくこと。今まで「アニョー・パスカルって何?」って思っていた方も、これを読んで、アニョー・パスカルに興味を持ってくれたら嬉しいです。 |
カトリックで、イエス・キリストの復活をお祝いする行事、復活祭、フランス語ではPaques(パック)といいます。 その復活祭の時期に、アルザス地方で食べられる、ひつじの形をしたお菓子が、Agneau Pascal(アニョー・パスカル)です。 フランス語で、Agneau(アニョー)は“ひつじ”、Pascal(パスカル)は“復活祭”を意味します。 もともとは、ユダヤ教の“過ぎ越しの祭”の際に、いけにえとして子羊を食べていた習慣に由来すると言われています。 |
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カトリックでは、復活祭はクリスマスの次に、いえ同じくらい大切な行事なのです。特にアルザス地方では、復活祭を大切にしていて、復活祭をはさんだ金曜日から月曜日までが4連休になるほど。 (フランスのほかの地域では、金曜日は祝日ではありません) クリスマスの次にお菓子屋さんが忙しくなる時期でもあるそうです。 ひつじ型をしたアニョー・パスカル、見た目のあまりのかわいらしさに、「一体どうすればこんな形に焼けるんだろう?」と思います。 実はこれは、アニョー・パスカル専用の陶器の型があるのです。 スフレンハイムという陶器で有名な村に行くと、村のメインストリート沿いに工房が点在していて、大小さまざまなひつじの型、さらにはうさぎの型が並んでいます。 |
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型の謎が解けたら、次は、「一体どんな味なんだろう?」ということが気になります。 ほとんどが、卵黄と卵白に分けて別立てにして焼く、いわゆるビスキュイで、くせのない、あっさりとした、ふわっとした感じの生地です。 オベルネには、全体をグラサージュでコーティングしたタイプのもの、ストラスブールでは、チョコチップ入りやココア風味のものを見かけました。それぞれの街や村で、なにかしら特徴があるのかもしれませんね。 |
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すべての工房で、アニョー・パスカルの型を作っているわけではありません。それぞれの工房にそれぞれの特徴があるみたいなので、お店の方に聞いてみました。
復活祭の前ならば、作っている工房は必ず目立つところに並べています。
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Jean-Louis Ernewein-haas et fils | ||
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日本まで配送可、しかも送料が安くなるというドイツまで行って送ってくれます。 裏側にある工房もすぐに案内してくれて、とても親切な合気道家のご主人の工房です。
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Gerard WEHRLING et Fille | ||
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跳びはねているようなbebeうさぎの型をはじめ、お菓子用の型が多いです。
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Philippe Lehmann | ||
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日本のテレビ局が取材に来たこともあるそうで、かわいい陶器でいっぱいです。
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Kubler(キュブレー) | ||
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シェフパティシエに浅見欣則さんが働いていらっしゃるお店。オーナーは元ルレ・デセールの会長をされていて、唯一アニョー・パスカルを箱に入れてくれた親切なお店です。 サロン・ド・テあり。 アニョーは持つと崩れそうなふわっとした感じだけど、食べるとしっとり感あり。
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Naegel(ネゲル) | ||
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1927年創業の老舗のお菓子屋さんは、サレも充実。簡単なイートイン・スペースあり。
アニョーは、普通のビスキュイ生地。
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Christian(クリスチャン) | ||
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大聖堂の目の前にあるショコラトリー&パティスリー。サロン・ド・テでいただく人気の朝ごはんにはプチ・クグロフ付き。
アニョーは普通のビスキュイ生地。
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Thierry Mulhaupt(テュエリー・ミュロップ) | ||
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洗練されたお菓子で人気のお店。シェフがアルザスのいろいろな場所でされるお菓子教室も大人気だそうです。
アニョーは比較的しっかりしていて、ビスキュイ生地よりややジェノワーズ風。
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Jean-Claude Ziegler(ジャン・クロード・ジーグレー) | ||
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こちらも洗練されたお菓子とサレが並んでいます。(サロン・ド・テがなくなっていました)
アニョーは、ナチュールとココアの2種類。
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Litzler & Vogel(リッツレー&ヴオジェル) | ||
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家族経営の温かみのある昔ながらのお菓子屋さん。『アンリ・シャルパンティエ』のディレクター、クリストフ・フェルデールさん出身のお店。
あまりに売れるのか、大きいアニョーは午前中でいつも売り切れてしまい、小さいアニョーは倒れたまま・・・(笑) 普通のビスキュイ生地。
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Gross(グロス) | ||
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オベルネの街で一番人気のパティスリー。サロン・ド・テあり。
なんと、ふつうのものとピンクのグラサージュがかかったアニョーあり。 グラサージュがかかっているほうが中のしっとり感が保たれているような感じ。
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Urban(ユルバン) | ||
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市庁舎近くの優雅なパティスリー&ブーランジュリー。サロン・ド・テあり。
アニョーは普通のビスキュイ生地。
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Schaeffer | ||
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市庁舎近くのパティスリー&グラシエ。サロン・ド・テあり、ランチもいただけます。
こちらのアニョーは、さらに濃いグラサージュがかかっていて、グロス同様しっとり感あり。
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Maison Regina(メゾン・レジーナ) | ||
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オベルネの駅に近いパティスリー&ブーランジュリー。イートイン・スペースあり。
こちらのアニョーも、濃いグラサージュがかかっている上にメレンゲでたてがみがついていて(ひつじにたてがみ?)、やはりしっとり感あり。
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Maison Ferber(メゾン・フェルベール) | ||
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ご存知、世界中にファンのいるクリスティーヌ・フェルベールさんのお店。
アニョーは、普通のビスキュイ生地。
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Frederic Pichard(フレデリック・ピシャール) | ||
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存知、なんと!パリで見つけた唯一のアニョー・パスカルです。
アニョーはふかふかしたビスキュイ生地。
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以上、簡単ですがアニョー・パスカルと出会うために出かけたアルザスの旅のご報告でした。今回ご紹介した有名な高級パティスリー以外にも、オベルネの木曜日のマルシェや、ストラスブールの常設市場、普通の街中のパン屋さんなどにも、アニョー・パスカルは並んでいます。どれもとてもかわいらしく、また伝統を守り続けているものばかり。
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ストラスブールのマルシェにて
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オベルネのマルシェにて
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アルザスのお菓子屋さん、パン屋さん、そして買い続けるお客さまたち。みなさんの伝統を守っていこうとする姿勢と想いがあってこそ、ずっと受け継がれて行くアニョー・パスカルの素晴らしさを、ぜひ、日本の皆さんにも知ってもらいたいと思っています。
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西山 朗子(にしやま あきこ) |
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Le Petit Citron 2000 |
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URL: | http://www.akiko-nishiyama.com |
※このページの情報は掲載当時のものです。現時点の情報とは異なる可能性がございますのでご了承ください。 |