〜 3日目(3/15)編 〜


今日はついに最終日。3日間(前夜祭を入れたら4日間!)東京ドームに通い続けたパナデリアとしては、なんだか名残惜しい気分です。
最終日は日曜日で天候にも恵まれたせいか、会場は朝からかなりの盛況ぶり。後で伺った話によると、入場者数は会期中で一番多かったそうです。

まずは恒例となった朝のコーヒーでひと息。「めいらく」ブースの、挽き立て落とし立てコーヒーは100円とは思えないおいしさ!


昨日までは、セミナーを見たり、ブースをのぞいたり・・・とお気楽モードのパナデリアでしたが、今日はそんな悠長なことは言っていられません。というのも、急遽、午後からパナデリア主宰の三宅清がセミナーで講演することになってしまったから!セミナーでは、約150名に試食用のお菓子を配るので、パナスタッフは“メゾン・デュ・ビスキュイ”や“プラリュ”のカットにおおわらわ。

「カルティエ・デュ・パン」では、今日も早くからラロさんがパンを仕込んでいました


「えーっと、これで何個できたかな?・・・えっ、まだ50個〜!?」 カットにかけては多少自信のあるパナデリアですが、これはなかなか大変な作業。果たしてセミナーはうまく行くのでしょうか・・・?!

そんな不安と緊張が渦まく中、登場したのは、カカオ色に輝く救世主。 なんと、息子さんと一緒に会場を訪れていた「テオブロマ」土屋公二シェフが、ひょっこりパナデリアの元に現れたのです。

「あっ、土屋さん!これはいいタイミングでいらっしゃいました!大変申し訳ないのですが、次のセミナー一緒に出てもらえませんか?」
「えー!?ちょっと寄っただけだったのに!」

嫌がる土屋シェフに、無理やりお願いする三宅。そんなわけで、かなり強引ではありましたが、「土屋公二シェフ&三宅清のフランス菓子セミナー」が実現することになったのでした。




【 フランス菓子セミナー 】


「こんにちは、今回の“スイート・スイーツ ジャパン”をプロデュースした三宅と申します。今日は、この場をお借りして、フランス菓子の日本における変遷について話したいと思います。といっても、難しい話ではないので安心してください。それから、実は今日は特別にゲストをお呼びしているんですよ。では、『テオブロマ』の土屋さんどうぞ!」

「こんにちは。ゲスト・・・というか、実は今日はたまたま遊びに来たところを捕まってしまったんです(笑)」 と、さっそく舞台裏を明かして会場の笑いを取った土屋シェフ。会場のムードを和らげる技はさすがです。土屋シェフと三宅とは「テオブロマ」オープン以来のお付き合いなので、かなり息も合っている感じ。面白いトークになりそうな予感です。

(三宅 ※以降、三)「今日はまず日本のフランス菓子についてお話しようと思います。日本でフランス菓子の礎を築いたパティシエというと、『オーボンヴュータン』の河田さんや、『16区』の三嶋さん、『パティシエ・シマ』の島田さんといった大御所を思い浮かべる方が多いと思います。こういう方たちはいわゆる第一世代。そのケーキを食べて育った土屋さんは第二世代になるのでしょうか。そう考えると、今、隣の会場で開催している『世界パティスリー』で活躍しているパティシエたちは、第三世代ということになりますね」
(土屋シェフ ※ 以降、土)「そうですね、第一世代というのはフランスでの言葉や習慣で大変な苦労をしたと思います。今のように情報もないし、本当に右も左もわからない状態でフランスに渡った方たちですから。僕のような第二世代は、その恩恵を受けながら、苦労もしました。ところが第三世代になると、状況はかなり変わります。まず携帯がありますから。死にそうな苦労、というのはないでしょうね。それから、当時はフランスで本場のケーキを食べた時に“うまい!”と感動しました。今は日本の力が接近しているので、そういう驚きはないかもしれないですね」


(三)「ただ、歴史のあるヨーロッパでは素材の違いも大きいですよね。実は、隣で開催している『世界パティスリー』の会場で、あるヨーロッパチームの焼菓子を試食させてもらったのですが、すっごくおいしかったんですよ。アーモンドプードルの使い方に、アジア勢にはないテクニックを感じました」

ヨーロッパで生まれ、培われてきたフランス菓子。技術面とは別に、素材やその使い方という面では、まだ叶わない部分もあるのかもしれません。

(三)「お菓子には素材のおいしさが欠かせません。でも、その製法によっても味は変わるんですよ。これからお配りする牛乳をちょっと飲んでみてください。これは高温殺菌なんですが、特有のこげ臭がしないんです」
参加者に配られたのは、「めいらく」の業務用牛乳。120℃の高温殺菌タイプです。約75℃で凝固が始まるといわれる、牛乳のたんぱく質ですが・・・。
(三)「では、口に含んだら、香りをスッと抜いてみてください。上下の唇を“ペタペタ”と合わせるといいですよ」
ん?確かに、コクと甘みがあるのに、嫌なこげ臭はありません。

一般には流通していない「めいらく」の牛乳。臭い移りを防ぐため内側がアルミ加工されているのもポイント


(三)「実はこれ、高温といってもヨーロッパと同じ殺菌方法(直接UHT殺菌法)で作られたもの。高温殺菌=こげ臭、というイメージがありますが、この方法だと高温でも大丈夫なんです」
(土)「うーん、確かにおいしいですねぇ!」
(三)「例えばプリンでも、こういう牛乳で作れば断然おいしくなる。素材の味はお菓子作りにとって本当に大切なんです」

(三)「素材のおいしさといえば、チョコレートも同じ。今から試食していただく『プラリュ』のチョコレートは、カカオ豆の生産地からこだわって作られたもの。こういうチョコレート作りをする所はフランスでも4つしかないんですよ」
そして、「プラリュ」のBIOピラミッドを試食します。
(土)「ウーン・・。味が複雑ですね。甘い、酸っぱい、苦いという言葉では言いつくせない味わい。皆さん、どう感じましたか?カカオ豆はあまり高温でローストすると、香りが飛んでしまう。低温でじっくりカカオ豆の特徴を壊さないようにローストしているから、こういう味が出るんだと思います」

セミナー終了を待たずして完売した「BIOピラミッド」。産地それぞれの特徴が、鮮明にそして力強く表現されているのはさすが!


(三)「産地によっても味が違うと思いますが、土屋さんはいかがですか?」
(土)「私は、ベネズエラが好きですね。メキシコやブラジルもいい。でも、場所によってそれぞれの良さがあるし、同じ品種でも味は変わります。ひと口に〇〇産のカカオ豆といっても、ランクの違いでもずいぶん変わる。発酵の加減やローストの温度など、豆を生かすか殺すかは、加工にかかっているんですよ」

フランス・レンヌにある「ル・ダニエル」のボンボンショコラ。「ボンボンには作り手の人柄がでる。これは、ダニエルさんの人柄そのものの味わい」と土屋さん


素材やそのいかし方で、味は大きく変わってくる。そのことを、さらに実感させてくれたのが「ラ・メゾン・デュ・ビスキュイ」。
(三)「これは、念願が叶ってやっと日本で紹介できたものなんです。ここは、ブルターニュの近くシェルブールという町にあって、ひたすらビスケットだけを作っているというお店。本当にシンプルな素材で作られたものです。技術的には日本でも作れるものですが、素材を真似するのは無理なんですよね」
(土)「昨日インターネットを見ていたら、“このイベントにはまったく興味が無いけれど、ここのビスキュイを食べたいためだけに入場料を払って行く”と書いている人がいましたよ。それにしても、このビスケット。さっきの牛乳と一緒に飲みたかったなぁ!」

今回一番人気だった「ラ・メゾン・デュ・ビスキュイ」。しっとりした食感と粉の風味がたまらない“パレ・ノルマンディ”


お菓子の味は、素材、加工、そして技術や作り手の人柄までもが表れるもの。今後、日本でスイーツを文化にしていくためには、そういう部分までじっくり育てていく必要があるのかもしれません。





【プラリュ フランソワ・プラリュ氏によるショコラトークショー
「カカオビーンズを求めて」】



続いて登場したのが、先ほどのセミナーでも話題になった「プラリュ」フランソワ・プラリュ氏。「プラリュ」といえば、カラフルな紙に包まれた産地別ショコラのピラミッドをイメージする方が多いのではないでしょうか。そう、その産地別ショコラの草分け的存在がプラリュ氏なのです。

フランソワ・プラリュ氏。「プラリュ」のチョコレートは、フランスはもちろん、世界中の一流ショコラティエの憧れ


「皆さん、こんにちは。『プラリュ』では、91年から1つの産地の豆を使ってチョコレートを作っています。というのも、カカオはワインのようなもの。ワインの場合、ボルドーとブルゴーニュを混ぜたらもったいないですよね。カカオもそれと同じだと思っているからなんです」
産地による豆の個性の違いをいかした味わいは、「プラリュ」の醍醐味。何事も自分でやらないと気がすまない性分のプラリュさんは、世界各国のカカオプランテーションを訪れてカカオを探し求め、現在20の産地別カカオを扱っているのだそう。
「私は、ショコラ界のインディジョーンズと呼ばれているんですよ。カカオを探して、世界中を駆け回っていますから!」
インディジョーンズというよりは、ギリシャ彫刻のような端正な顔立ちのプラリュさんですが、スケールの大きさはインディジョーンズ以上!・・・というのも、マダガスカルのノシベという場所に2004年、自身のカカオ農園を作ってしまったからです。
「皆さんにもカカオの実と木のことをもっと知ってもらいたいと思い、今日はDVDを持ってきました。では、さっそくご覧下さい」

画面に現れたのは、ぬかるみを乗り越え、鬱蒼としたジャングルへと走るジープ・・・。プランテーションは原生林の中にあり、低木を抜いて作った苗床に約2万本のカカオの苗木を植えたのだそうです。
「カカオには、クリオロ種、フォラステロ種、トリニタリオ種という3つの品種があります。植えたのは、クリオロ種とトリニタリオ種。カカオは5〜6mくらいになる低木で、実を収穫できるようになるまでには1年ほどかかります」
カカオポッドを割ると、その中に入っているのは白い果実におおわれたカカオ豆。ちなみに、白い部分はライチとキウイの中間のような味。プラリュさんは、現地では、朝搾りたてのカカオジュースを楽しんでいるのだそう。

スライドより、カカオの苗木を運ぶ子供たちと、カカオポッドから中身を取り出す作業の様子


「プランテーションで特に大切なのが発酵の工程。6〜9日間かけて発酵させた後は、水洗いして天日干しします。均一に干せるように、かきまぜたり裏返したりしてしっかりと乾燥させます」

そして、ここからはフランスでの作業。
「届いたカカオ豆はまず、品質をチェックします。それから30〜35分間ローストしますが、温度は最高でも120℃。コーヒー豆よりも穏やかなイメージです。そして、3日間かけてチョコレートへと加工していきます」

DVDに映ったロアンヌのプラリュ本店には、プラリネやボンボンに加えケーキなども。ところで、今回日本で初販売となったショコラバーについても聞いてみたいところですが・・・。
「これは直訳すると“地獄のチョコレートバー”。死ぬほどおいしいチョコレートバーという意味なんですよ」
昨年、新しくオープンしたパリ店でも大人気というこのバー。ナッツの香りが驚くほど力強いプラリネとそれに負けないカカオの組合せは、本当に死ぬほどのおいしさ!ネーミングのユニークさもプラリュさんならでは、です。

アーモンド入りのノワールと、ヘーゼルナッツ入りのレの2種類。この味わいは、一度知ってしまったら最後・・・。罪なチョコレートです!


そして、最後に待っていたのは嬉しいサプライズ。
「ところでプラリュさん、お誕生日はいつですか?」
「10月4日です」
「では、10月のお誕生日の方、手を挙げてください。プラリュさんから特別にプレゼントがあります」
わ〜!っと盛り上がる会場。・・・と、そのとき。
「うそうそ、10月じゃないです」
とプラリュさん。あーあ、とがっかりする会場に・・・
「ハハハ、これも嘘。本当に10月ですよ(笑)!」
と持ち前の茶目っ気で会場を盛り上げるプラリュさん。結局、16名の方にプラリュさんからチョコレートが渡されました。

ピラミッドやチョコレートバーをプレゼント。10月生まれの方、おめでとうございます!


この後、ツマガリのスタッフによるダンスパフォーマンスもあり、盛りだくさんの内容。ケーキは解体、カットされ、150名の観客ひとりひとりに配布されました。卵の香りがふわりと香る、しっとりとしたスポンジに、まろやかなバタークリームがサンドされたツマガリのウェディングケーキは、どこか懐かしく、ツマガリの温かい雰囲気がそのまま表れているようでした。
ケーキを作る楽しさと厳しさ、造形の美しさとおいしさを支えるたくさんの努力。スイーツの様々な魅力が観客の誰にも伝わったイベントでした。





【パーティ】

豪華な料理の数々はさすが帝国ホテル。スイーツもおいしい!


12日の前夜祭から始まり、4日間に渡って開催されたスイート・スイーツ ジャパン。
そして2日間に渡り、熱い戦いを繰り広げた世界パティスリー。すべてが終わった後、帝国ホテルに会場を移し、打ち上げのパーティが開催されました。
会場には、世界を代表する超有名人の姿があちこちに・・・。大会では張りつめた表情で作品を作っていた選手たちも、ここでは楽しそうな笑みを浮かべ、料理やおしゃべりを楽しんでいました。

大会を支えたパティシエの皆さん。本当にお疲れ様でした

世界パティスリーで優勝した日本チームの3人(左から、鍋田氏、秋城氏、野田氏)。
「みんなの力があってここまで来ることができました。大会の経験をいかし、これからもっと技術を磨いていきたいです」と鍋田さん。3人のこれからの活躍が期待されます


「今回の大会は、かなりレベルが高いという印象を持ちました」
2位、フランスチームの作業審査員を務めた「プラザアテネ」のクリストフ・ミシャラク氏。鮮やかなグリーンのシャツの着こなしは、さすがフランス人


「3位入賞できて、嬉しい!」
2日目の健闘で見事3位を獲得したアメリカチーム。見ている方も嬉しくなるような明るい笑顔を見せていました



見て、食べて、学んで・・・と、スイーツを満喫できた、今回のイベント。
次回の開催は、2年後!よりパワーアップした内容で、スイーツファンを楽しませてくれることを、期待したいと思います。






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