「ピエール・エルメ・パリ」の2010年秋冬のテーマは、“Fan de Pierre”。
日本語に訳すと、“ピエール・エルメ マニア”。
1998年、ホテルニューオータニでの第1号店を皮切りに、
常に多くの熱狂的なファンを虜にしてきたピエール・エルメ氏。
さて、どんなコレクションが披露されるのでしょう?
ピエール・エルメ氏への単独インタビュー
そして、発表会の様子をご紹介します。





某日、ホテルニューオータニの一室・・・。
取材に伺うと、ピエール・エルメ氏はいつものように、ゆったりとした足取りで私たちの前に現れた。
「Bonjour!こんにちは」
昨日、日本に到着したばかり、というエルメ氏。相変わらず多忙なスケジュールにもかかわらず、にこやかに私たちを出迎えてくれた。

「今回は、ファンの皆さんへのオマージュ、という意味で“Fan de Pierre”という名前にしました。実は、本当に"ファン"が主役になっていて、9月14日のパリの発表会ではファンの方々がモデルとして登場するファッションショ−のようなものを行う予定です。モデルはサイト上で募集したのですが、3000人もの応募がありました」
こんな、わくわくするようなお楽しみも、エルメ氏ならではだ。

では、いったいどんなアイテムが登場するのだろう。
「たくさんありますよ。バリエーションを含めると60種類くらいでしょうか。2004年にマカロンとして出した“アジュール(柚子とチョコレートの組合せ)”と、“マホガニー(マンゴー、ココナッツ、キャラメル、ライチ)”を新たにフェティッシュとして取上げます。シリーズとして、タルトやケーク、マカロンなどが登場する予定なんですよ」

タルト マホガニー


さっそく、すすめていただいたのは“フェティッシュ マホガニー”のシリーズ。
まずは、新作の“タルト マホガニー”をいただく。つややかなタルトを口に入れると、サクサクッとしたタルト生地の食感のあとに、キャラメルとココナッツの芳香が広がる。そこに軽さを与えているのは、マンゴーとライチの果肉。南国フルーツのエキゾチックな味わいが、キャラメルとクリームに包み込まれ、新たな味覚へと生まれ変わっているようだ。ちなみに、このタルト生地には、クリームの水分で湿気ないよう、ごく薄くホワイトチョコレートがコーティングされている。細部に決して手を抜かない緻密さ。これも「ピエール・エルメ・パリ」のおいしさの理由のひとつと言える。

「マホガニーはご存知のように木材の名前です。色合いが似ているという理由もありますが、音としても気に入っているんですよ」
マホガニーシリーズは、ケークやシュープリーズなども登場する予定になっている。

ケーク マホガニー


シュープリーズ マホガニー


続いては、“フェティッシュ アジュール”。
「これは、「マンジャリ」チョコレート(ヴァローナ社)とユズの劇的な出会いから創作されました。初めてユズを知ったのは1987年、最初に日本を訪れたときのことです。大好きな味でしたが、パリでは入手できず使うことができませんでした。ところが、2004年にパリの日本料理レストラン『NOBU』のおかげでユズを輸入できようになり、それ以来ケーキの素材として使うようになりました」
エルメ氏は、常に嗜好を先取りし、未知なる味覚の世界へとファンを導く。お菓子としての“ユズ”、そして“アジュール”の味覚も、当然そのひとつといえるだろう。
「いかがですか?」
そういって、エルメ氏みずからエクレールを取り分けてくれた。

エクレール アジュール


想像以上の清涼感と酸味が広がり、目が覚めるようだ。フランス人にとっても“ユズ”は新しい味覚だったはずだが、香り(皮)というよりもむしろ、味(果実)としてユズを使うエルメ氏の“ユズ”使いは、私たち日本人にとっても新鮮だ。なかでも、果実としてのユズを実感するのは、果汁をたっぷり使った“エモーション アジュール”だろう。みずみずしい喉越しとともに、清々しい酸味が広がっていく。その印象は、とてもフルーティだ。

エモーション アジュール


ミルフィーユ アジュール


“フェティッシュ アジュール”からは、そのほか、ミルフィーユやペー・アッシュ・トロワ(PH3)、アントルメなどのアイテムが登場するという。

エルメ・キャレ アジュール


サブレ アジュール


ペー・アッシュ・トロワ (PH3)


ケーク アジュール


そして、“マカロン”。テーブルの上には、美しい色合いのマカロンが並んでいる。

中央にピールを入れたユズ(手前)と、クレームブリュレ(奥)


なかでも、特筆すべきは“クレームブリュレ”だろう。ヴァニラたっぷりの芳醇で濃厚なクリームに、カリッとしたキャラメルチップのほろ苦さ。思わず、“なぜ今までなかったか不思議です!”と言ってしまった。
すると、エルメ氏は笑顔で
「Oui!Oui!そうなんですよ。私自身クレームブリュレは大好きなのですが、マカロンにしようと思い立ったきっかけは、リンツから出ているクレームブリュレ味のタブレット。絶対に、マカロンでやるべきだ!と思ったんです」
といっても、ヴァニラ×キャラメルという単純なものではない。パリパリとした飴の代わりに、フルール・ド・セル入りのキャラメルチップを入れ、ヴァニラたっぷりのクリームはやや濃厚に。ホロ苦いキャラメル味のコックが、全体を“クレームブリュレ”にまとめ上げている。

手前から、インダルジェンス、ルイーユ デ ノワゼット&アスパラガス、ヴィオレット・レグリース


そのほか、フランス人には懐かしい(駄菓子の)味だというカンゾウ(レグリース)を使った“ヴィオレット・レグリース”や、ミントクリームの中にグリーンピースそのものを忍ばせた“インダルジェンス”、さらに、茹でたアスパラガスのシャキシャキとなめらかなヘーゼルナッツオイルクリームの対比がユニークな“ルイ−ユ デ ノワゼット&アスパラガス”などの新作マカロンが登場予定になっている。


そして、もうひとつ。エルメ氏が並々ならぬ情熱を注いでいるのが、ショコラだ。パティシエならではの視点で捕えたボンボン・オ・ショコラには、味覚、食感における密かな驚きが閉じ込められている。
「新作の“ツキ(Tsuki)”は、実は“ニッカ”のあるウィスキーに合わせるために作ったものなんですよ」
ウィスキーに合う、のではなく、特定のウィスキーに合うようにと考えられた“ツキ”。
「以前、パリのマドレーヌ広場に日本の和菓子屋さんがあったんです。そこで、ユズの皮のお菓子を見ていたら、お店の方に“ウィスキーと合うんですよ”と言われ、ぜひ試してみたいと思っていたんです」
さっそくいただいてみると、オレンジが入ったパート・ド・フリュイが香りよく、たしかにウィスキーに合いそうだ。だが、それよりも気になる味がある。“プチプチ・・・” どこか懐かしいお煎餅のような香ばしさを感じる。
「それは、煎ったトウモロコシの粉末なんですよ。カリカリとした食感を出すために入れています」

手前から、ツキ、アンブル、コルソ


それから、ウィスキーに合わせるためのもう1品が“アンブル”。
「これには、ピュアモルト“ラフロイグ”を使っています。といっても、私はボンボン・オ・ショコラにアルコールを使うのが好きでないので、香りだけを抽出します。一瓶をわずか200gになるまで、煮つめていくんです」
驚くほどスモーキーな香りは、ちょっと病み付きになりそうなクセのあるもの。実は、この“アンブル”。ロンドン2号店のパーティで出したところ、スコットランドの方たちに大人気で、“今すぐに欲しい!”とせがまれたのだとか。

さらに、パリへ行く予定の方には、スペシャルなお知らせが。
パリの最高級ホテル「ホテル・ロワイヤル・モンソー」のリニューアルに際し、エルメ氏が全面的に協力。すべてのスイーツを「ピエール・エルメ・パリ」が提供することになったという。
「そうなんです。朝食からレストランでのデセール、そして映画館のおやつまで。『ラ・キュイジーヌ』というレストランで、今予定しているのは“ミルフィーユ”。どういうパイ生地がいいか、クリームは?というふうに、パーツを自分でカスタマイズできるようになっているんですよ」

アルケオロジー・デ・レーヴ(夢の考古学者)
今フランスで最も注目されているデザイナーの1人、ルイ・マリ・ド・カステルバジャック氏のデザインによるスペシャルなクリスマスケーキ


クール エルザ
真っ赤なハートをかたどったアントルメ。エルメ氏が25年前にロンドンで出会った「サマープディング」に着想を得たというこの味わいには、“爽やかで陽気でセクシーでもある女性美の極致”が表現されているとか。オリーブ油入りのレモン生地、レモン入りのムースリーヌクリームとベリー類の組合せ





美食は尽きることのない幸福の泉。
絶えず研究を怠らず前進し続ける結果として、斬新さが生まれる
・・・と彼は語る。
今日を、明日を、そして人生を楽しむために、
「ピエール・エルメ・パリ」の新しい味を試してみてはいかがだろうか?





 さぁ!
 新しいエルメの世界
 “Fan de Pierre(ピエール・エルメ マニア)”
 をのぞいてみませんか?
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