バレンタインデーを間近に控え、街はチョコレート一色!そんな盛り上がりを見せていた2月初旬、ピエール・エルメ サロン・ド・テでクッキングセミナーが開催されました。メニューはもちろん、チョコレートを使ったお菓子。しかもエルメ氏本人がレクチャーしてくれるという夢のような企画だから、ファンには見逃せません。人気が高くてなかなか予約が取れないとの声も聞かれるこのセミナー。幸運にも席を確保できた50人のファンたちが、舞浜「イクスピアリ」内のイベントスペース「クラブイクスピアリ」に集まりました。同じくイクスピアリ内にあるピエール・エルメ サロン・ド・テとはがらりとイメージが異なり、こちらはラグジュアリーな雰囲気。真っ赤な壁や煌くシャンデリアに気分も華やぎます。


“このイベントをとても楽しみにしていました”とエルメ氏


ピエール・エルメ サロン・ド・テで腕を振るう
マチュ氏は、エルメ氏と同じアルザスの出身



「皆さん、今日はお忙しい中、集まっていただき嬉しく思います。これから、3品のお菓子をご紹介しましょう。ひとつはビターショコラのクリームを挟んだ『マカロン ショコラ』、ひとつはグラス仕立ての『レモンとしょうがのムース ショコラ オ レ』、そしてもうひとつは塩を効かせた『サブレ ショコラ フルール ド セル』です」。
とエルメ氏。マカロンやサブレなど、お店に並んでいるお菓子も教えてもらえるなんて、とても貴重。コックコートに身を包んだエルメ氏がマイクを握り、マチュ氏が作成するというスタイルで、セミナーがスタートしました!


参加者は全員女性。バレンタインに向けて気合も充分です






ピエール・エルメ・パリといえばマカロン。そう思っている人も多いのでは?マカロンは、もともとクラシックなお菓子。甘いマカロン生地の間にクリームを少し、というのが定番でした。そんな常識を見事に覆してくれたのがエルメ氏なのです。とはいえ、実は昔はあまりマカロンを好きではなかったとのこと。これは意外な発言?!
「普通のマカロンって、間のクリームがすごく少ないでしょう。マカロン生地をつけるための糊として使っているようなイメージでした。だから、マカロンは味がないものだと思っていたんです。そこで、じっくり研究しました。すると、おいしいマカロンのポイントはクリームだと気づいたんです」。


え、そんなに?!と思うほど、クリームは
たっぷりが鉄則。リッチな味わいの秘訣です


そんなわけで、ピエール・エルメ・パリのマカロンを作る時には、とにかくクリームをたっぷり絞ること!もちろん、クリーム自体の味にもこだわりがあります。マカロン ショコラに挟むガナッシュショコラについては、
「ヴァローナ社のグアナラを使います。更にカカオの味わいをプラスするために、少しのカカオパートをプラス。ちなみに、生クリームは味のないものを選んでください。チョコレートの土台となるものなので、酸味や苦味のない、シンプルなものがいいですね」。
生クリームの個性が強すぎては、せっかくのチョコレートの味わいが活かしきれません。味のバランスを考えながら素材選びをするセンスが問われるようです。


マカロン生地を綺麗に絞りたかったら、絞り袋の持ち方も
ポイント。“親指と人差し指でしっかり挟んで”とエルメ氏


肝心の作り方で気になるのは、やはり、マカロン生地のマカロナージュの作業。これは、アーモンドパウダー、粉糖、卵白、色粉を合わせておいたところにメレンゲを入れて混ぜ、最後に泡をつぶすように混ぜる作業のこと。でも、泡をつぶすといってもどこまで混ぜたらいいものか・・・何か目安はあるのでしょうか?
「まず、メレンゲはふわふわになるまで泡立てておくこと。その後のマカロナージュの時には、空気を抜くようにしっかり混ぜます。目安はふんわりしていた生地が液体状に近くなるまで。ここで空気が残っていると、焼いたときに山型にふくらんでしまいますから。でも、マカロンが難しいのは、マカロナージュだけではないんですよ」。
・・・というと?
「表面がつるんと平らでピエが出たマカロン。そんな理想の形にするためには、たくさんのポイントがあります。まず、天板に綺麗な丸に絞る、その後天板をトントンと落として生地を広げる、そしてしばらくそのまま置いておくことで、表面を少しだけ硬くする・・・。更に、オーブンの種類や温湿度などの環境によっても、また材料によっても随分変わります。今から13年前、リシャール・ルデュ氏が来日した時も大変でしたよ。日本でおいしいマカロンが出来上がるまでに1年も費やしたのですから」。
マカロンを熟知しているシェフでさえ、そんなにも試作していたなんて!聞けば聞くほど難易度の高いマカロン作り。それでも、やっぱりチャレンジしてみたくなる引力が、マカロンにはあるのです。


ピエが綺麗に出たマカロン生地(奥)。
こんな風に作ってみたい!


さて、マカロン生地の間にガナッシュを挟んだら無事に完成!・・・ではありません。最後の大切なもうひと手間がありました。
「出来上がっても、すぐに食べてはいけません。必ず、冷蔵庫で24時間以上は寝かせてください。私たちは48時間ほど冷蔵しています。そうすることで外がサックリ、中がふんわりとしたマカロンになるのです。これがマカロンの秘密です!」。
というわけで、マカロンは食べる2日前に用意しておくのがベスト。すぐに食べたい気持ちをぐっとこらえ、おいしくなるよう念じて待ちましょう!








「このサブレは、とても重宝します。まず、作りやすい。それから冷凍もできます。生地を作って冷凍保存しておけば、必要な時に焼くだけですから」。
とエルメ氏。その言葉どおり、作り方はとてもシンプル。バターを均一な状態にならしたところに砂糖や塩を入れてすり混ぜ、ふるった粉類と刻んだチョコレートを加えて混ぜ合わせれば生地は完成。更に細長い棒状に伸ばして冷やした後、1cm厚さにカットして焼き上げます。これなら気軽にトライできそう?! とはいえ、いくつかポイントがありました。


大小さまざまにカットされたチョコレート。
リズミカルな食感が生まれます


「サブレを口にした時に、チョコレートの粒々が残るようにしたいのです。そのため、ある程度大きめに刻んでください。ほら、こんな感じに。けっこう大きいでしょう?ただし、大きすぎると後でカットしにくいので気をつけて」。


バター→砂糖→塩→粉類・・・と材料を入れ、
カードでなでるように混ぜていきます


そしてもうひとつ、欠かせないポイントが。
「焼き時間です。この厚みでこのサイズなら、18〜20分ほど焼くのが普通でしょう。でも、このサブレの場合は12分しか焼きません。まわりを焼いて、中はふんわり感を残したいからです。また、焼きすぎると苦味も出てしまいます。ですから、絶対に12分以上は焼かないで!」。
エルメ氏が何度も強調するほど、焼き時間は絶対条件のよう。サブレというと、つい香ばしくなるまで焼き込んでしまいがち。焼き過ぎず、少しレアな状態を残すことで、他にはない食感に仕上がるのです。


出来上がった生地を1cmの厚さにカット。
見事に厚みが揃っています!


「塩は、是非、フルールドセルを使ってください。塩気をしっかり感じることができますから」。
塩気を効かせたこのサブレが好きで、お母様にも送ったというエルメ氏。さて、気になる反応ですが・・・?
「実は、“ちょっと塩が強いわ”と言われてしまいました(笑)。私はベストだと思っているのですが」。
残念ながら、お母様には少し強すぎたようですが、塩気が旨みを引き出しているのがこのサブレのいいところ。“塩チョコサブレ”という名前の響きも魅惑的です。








このムースのポイントは、ミルクチョコレートとレモン&ショウガの組み合わせ。それにつきます。


5mm角にカットして煮詰めたショウガの
コンフィ(手前)。ピリピリ感がいいアクセントに


「もしレモンやショウガが苦手なら、入れなくてもいいです。ムースだけでも充分おいしいものですから。他にはライスクリスピーを入れたり、リンゴやフランボワーズ、桃などもいいですね。そうはいっても、私はやっぱりレモンとショウガが好きです(笑)」。
と話すエルメ氏は、本当にこの組み合わせに惚れ込んでいるようす。ショウガのコンフィを見つめる目つきが違います。最後のデコレーションをしている時には、余ったコンフィをぺろり。
「ビターチョコレートでもいいのですが、私はミルクチョコレートとの相性がぴったりだと思っています」。
と強調していたエルメ氏。これは試食が楽しみです。


ムースの上に飾るコポーは、板チョコレートを削るだけと簡単なのが嬉しい。硬い時にはドライヤーをあてて調整することも


さて、コンフィは前もって仕込んでおくとスムーズ。鍋にミネラルウォーターと砂糖を沸かして、5mmのキューブ状にカットしたショウガを入れて落し蓋をしたら、2時間ほどことこと煮込んでいきます。アイスクリームにトッピングしたり、ケークに入れたりと、お菓子との相性がいいのも魅力です。


グラスにムースを注いだら、コポーとショウガのコンフィをデコレーション。“ショウガ好きの人はたくさん乗せてください”とエルメ氏


そしてムースを作る時には温度に気を配りながら進めます。まず、刻んだミルクチョコレートを溶かす時。ミルクチョコレートの中の乳に含まれるカゼインは温度が高すぎると焦げてしまうため、55℃を越えないように気をつけます。続けてチョコレートと沸かした牛乳+生クリームを合わせ、更にバターを加えてガナッシュを作ったら、今度は40℃位をキープ。
「これは、その後加えるメレンゲの泡が消えないようにするため。最後はふんわり感を保ったまま、ゆっくりと混ぜ合わせてください」。
チョコレートがたっぷり入ったムースも、メレンゲの泡を活かすことで口当たりが軽やかに仕上がるのです。







1時間半にわたるセミナーが終了し、いよいよ試食タイムへ。3種類のお菓子をいただいて・・・と待ちかねていたら、予想以上のお楽しみが用意されていました。 「さあ、あちらに、ビュッフェを用意してあります。思う存分どうぞ!」。 見ると、セミナーで披露された3品どころか、何種類ものスイーツがずらり!プティガトー、プティフールセック、マカロンにボンボンショコラと、なんとも贅沢なラインナップです。その気になる内容はというと・・・?


マカロン ショコラ


ピエール・エルメ・パリのマカロンは“厚めの生地にたっぷりのクリーム”が基本。カカオの味をしっかりと感じるコクの強いガナッシュショコラを、アーモンドの風味がおいしいねっちりとした生地が受け止めます。マカロンとは思えないリッチな味わいです。



レモンとしょうがのムース ショコラ オ レ


空気を含んだムースは、ミルクチョコレートや乳のコクがありつつ、スッと溶けていく感覚。たっぷりトッピングしたショウガのコンフィが、爽快な印象を残します。乳とショウガの相性の良さにハッとさせられる一品。



サブレ ショコラ フルール ド セル


カリカリっと軽快な食感で始まったかと思いきや、意外にレアな部分も。大きめに刻まれたチョコレートがじんわりと溶けていき、最後にフルール・ド・セルの余韻が広がります。こんなサブレの質感は、初めて!



チーズケーキ プレニチュード


とろ〜りやわらかいキャラメルモワルーは衝撃的なおいしさ! 更にチョコレートのマスカルポーネクリーム、チーズケーキショコラと重厚感ある組合わせも、サブレのザクザク感やフルール・ド・セルの効果でキリッと引き締まります。



パリ ブレスト プレニチュード


アーモンドダイスをのせたシュー生地に、チョコレートマスカルポーネクリームをサンド。クラシックなパリブレストも、エルメの手にかかればモダンな印象に。



タルト モガドール


ミルクチョコレートのガナッシュが、パッションフルーツやローストパイナップルの酸味で爽快に。ショウガのスパイシーな香りもインパクト大。甘みと酸味の力強いハーモニーが楽しめます。



ヴェリーヌ ショック ショコラ


ショコラのクリームにピスタチオのクレームシャンティを重ねたグラス仕立ての一品も登場。フルール・ド・セル入りショコラの片や塩味のピスタチオがアクセントに。



エクレール ショコラ


ひと口サイズのエクレアは、中にショコラのクリームをたっぷりと。濃厚な味わいだから、小さくても存在感は充分。



グラス ヴァニーユ
バニラのアイスとバニラのソルベをマーブル状に。3種類のバニラが華やかに香り、シンプルな見た目からは想像がつかないほどの味わい深さが印象的。プティガトーの合い間にいただくと最高!






他にも、しっとりやわらかいフィナンシェ ショコラや、ナッツとチョコレートがガツンと響くケーク ショコラ プラリネ、マカロンにボンボン ショコラなども。





いかがでしたか?
セミナーで学んだあとはビュッフェでスイーツを心ゆくまで・・・。濃密な世界に衝撃を受けたひととき。ピエール・エルメ・パリのスイーツには―例え小さなボンボンショコラ一粒でさえ―、驚きと喜びをもたらす強い力があります。その秘密を惜しげなく披露してくれるのが、このクッキングセミナーのすごいところ。皆さんも是非、ピエール・エルメ・パリならではの世界を感じてみてはいかがでしょうか?




ピエール・エルメ サロン・ド・テ
http://www.ikspiari.co.jp/pierreherme/
※通常のクッキングセミナーは、軽食つきの
デモンストレーションになります。







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