世界のスイーツファンから熱い視線を集める
ショコラの祭典「サロン・デュ・ショコラ」。
日本でもすっかり恒例のイベントになりました。
その本場、フランス・パリの「サロン・デュ・ショコラ」に、
なんと「パシティエ エス コヤマ」のコヤマ ススム氏が初出展する事が決定!
しかも、出展に当っては主催者であるシルヴィー・ドゥース氏から直々に
コヤマ氏にオファーがあったのだそう。
そんな日本パティシエ界の希望の星、コヤマ ススム氏。
その「サロン・デュ・ショコラ」への想いを伺うべく
お披露目&試食会に伺ってきました。




8月某日。チョコレートでなくても溶けてしまいそうな猛暑の中、代々木のとある場所で「パティシエ エス コヤマ」による、サロン・デュ・ショコラ出展のお披露目&試食会が開催されました。
会場で出迎えてくれたのは、小麦色に日焼けした肌に、ここ数年で驚くほど精悍なスタイルへと変貌を遂げたコヤマ ススムさん。その引き締まったスタイルは日々のトレーニングの賜物だそうですが・・・
「実はね、この暑い中、昼の1時から1時間、毎日走ってるんですよ」
(熱中症の恐れがありますので、皆さんは絶対に真似しないで下さい!)
え!この猛暑、炎天下で!?
「そうですよ。炎天下だからこそ続けられる。だって、誰もそんなことする人いないでしょ?自分にしかできないことだと、やる気が出るんですよね」

「パティシエ エス コヤマ」コヤマ ススムさん


そんな、太陽さえも恐れをなす(?)コヤマさんの作るショコラが、パリ「サロン・デュ・ショコラ」でフランス人たちに迎えられることに。これまでも高い評価を受けてきた日本のパティシエやショコラティエですが、実際に本場の「サロン・デュ・ショコラ」に出展した日本人は数えるほど。それだけで、かなりの快挙ですが、実は、海外での修業経験がないパティシエ・ショコラティエという点では日本初。正真正銘、生粋の日本人魂をフランスで披露できるというわけなのです。コヤマさん、本当におめでとうございます!

試食&お披露目の会場に集まったマスコミや関係者たち。
コヤマさんの話を聞きながら、じっくり試食します


「ありがとうございます。実は、最初は冗談かなと思っていたんですよ」
とちょっと照れた笑顔を見せるコヤマさん。いったいどんな経緯で出展が決まったのでしょうか?
「2010年から日本のサロン・デュ・ショコラに参加させてもらっているのですが、その開催中に主宰者のシルヴィー・ドゥース氏から"ぜひフランスのサロン・デュ・ショコラにも出展してほしい"と声をかけていただいていたんです。でも、なかなか本気の誘いだと信じられなかったんですよね」
態度を決めかねていたコヤマ氏に、シルヴィー氏は直談判。今年日本で開催されたイベントの会期中に約束を取り交わし、正式に出展が決まったのだそうです。

壁に飾られたショコラをモチーフにした写真のパネル。
実は、デザインや構成はコヤマさんが考えているのだそう


「今回のサロン・デュ・ショコラのテーマは『パティスリー』。フランスに比べ、ショコラ以外のアイテムが充実している日本のサロン・デュ・ショコラがヒントになっていると聞きました」
昨年は「JAPON」がテーマに起用されるなど、海外でも関心の高い日本。ボンボンショコラやタブレットだけでなく、気軽に食べられるパティスリー感覚のショコラが多く並ぶ日本のサロン・デュ・ショコラは、フランスとは違う文化として興味深いものに映ったのかもしれません。そんな日本のショップの中でも、ショコラのお菓子や楽しいパッケージで独自の感性を光らせていたのが「パティシエ エス コヤマ」。白羽の矢がたったのも頷けます。

秋からお店で発売予定のニューアイテムもお披露目に。左は、パンプキンプリンやじゃがいも&はちみつバターといった組合せがユニークな新作のマカロン「オータム マリアージュ」。右は、野菜本来の色と味わいをいかしたクッキー「KIBOUnoIRO」。どちらも楽しさに溢れています!


そこで気になるのが、どんなショコラをパリで披露するのかということ。
「日本の素材を正しく紹介したいという想いがあります。フランスでは、ワサビや七味など日本の“食”がブームですが、実際はイマイチな使い方のものも多い。例えば、クロレラ入りの抹茶が普通に使われていたり・・・。自分は京都の茶畑の近くで育ったこともあり、そういうのを見ると“もっとおいしい使い方があるのに・・・”と気になってしまうんですよね。だからこそ、今回は自分がちゃんと日本の“食”を紹介したい、という気持が強いです」

さすがは関西出身! とにかくトークが巧みで、思わず聞き惚れてしまいました



ではさっそく、サロン・デュ・ショコラに出品するショコラを紹介しましょう。


DNA京都

全8種類:抹茶、YABAI(黒七味&はちみつ)、京番茶、一休(大徳寺納豆)、柚子、醤油、味噌、金胡麻

京都生まれのコヤマさんの、まさにDNAともいえる8種類の素材がテーマです。素材の品質はもちろんですが、ポイントは素材の“いかし方”。例えば、金胡麻で和のプラリネを作ったり、母の実家である兵庫県多可町の甘みの強いこうじ味噌でキャラメルの風味を生み出したり・・・。日本人にしか考えられない、まさにMade in JAPANの味わいは、きっとフランスでも話題になることでしょう!
(今回試食させていただいたのは、YABAI、京番茶、一休の3種類。醤油、味噌、金胡麻は今回のために開発した新作です)

YABAI(黒七味&はちみつ)
最初に訪れるのは、チリチリとした黒七味の辛み。といっても、もちろん刺激的なだけではありません。ショコラノワール(グアナラ70%)のガナッシュのほろ苦さにハチミツのまろやかな甘みが重なり合い、そこにスパイスが香ることで、不思議な一体感が生まれています。後に広がるこっくりとした余韻も魅力。実は、きつねうどんのちょっと甘めの味と七味の組合せをヒントにしたのだとか。食べれば納得です。


京番茶
「子供の頃からずっと飲み続けてきた、母の番茶の味が基準」というコヤマさん。口に入れると、スモーキーな香りがむくむくと立ち昇ってくるような印象です。京都の家庭では定番という京番茶は、鉄板の上で手間隙かけて炒ることで生まれる独特のスモーク臭が特徴。葉巻にも似たその薫香を、マダガスカル産クリオロ種のカカオ豆を使ったミルクチョコレートがこっくりと包み、力強い味わいを生み出しています。水分としての京番茶をいかに濃厚にガナッシュで表現できるかにこだわったという自信作。


一休
キャラメルを入れていないのに、まるでキャラメルサレのような味わいがする、ちょっと"とんち"のきいたガナッシュです。秘密は、京都・大徳寺名物“大徳寺納豆”。濃厚でキャラメルのような味わいのコスタリカ産トリニタリオ種のミルクチョコレート(38%)のガナッシュを、上に乗せた大徳寺納豆と一緒に口に入れれば・・・。あら、不思議!まるでキャラメルサレのような味わいが広がります。「カカオのキャラクターを引き出す」というコヤマさん。とんちというよりも、むしろマジックのような一品です。




チョコレートバーガーファクトリー



今年のサロン・デュ・ショコラ(日本)でも話題になった、「チョコレートバーガーファクトリー」もパリに進出! ハンバーガー屋さんのデリバリー・カーをイメージしたポップなパッケージに入っているのは、コヤマ流のチョコレートバーガーです。ミルクチョコレートでコーティングされたサクサクのサブレの間には、キャラメリゼしたヘーゼルナッツ入りのクリームが入り、ポップな見た目を裏切る本格的なおいしさ。オシャレなパリっ子たちが、どんな反応を示すか楽しみです。


テリーヌ ドゥ ショコラ ヘッコンダ



普段からパッケージのアイデアも手がけているコヤマさん。「箱がへっこんでないと嫌だと思っていた」というこだわりの箱には、同じく凹型のテリーヌが入っています。低温でじっくりと焼き上げた生地は、非常にキメが細かく、密度が高いため、ねっとり絡みつくような食感に。口内の温度でゆるみながら、チョコレートのやわらかな甘みが広がっていきます。実は、かのエヴァン氏が10本も個人買いして帰ったとか・・・。フランスでも好評間違いなしですね。



そしてこの日、もうひとつのサプライズが発表されました!
「フランスの『クラブ・デ・クロッカードショコラ(略称CCC)』に招待され、エントリーすることになったんです」
ショコラ好きには有名なCCCとは、1981年に設立されたフランスで最も権威のあるショコラ愛好会。約150名のショコラ愛好家で構成されていて、定期的に開催されるデギュスタシオン(試食会)でショコラを評価するという、いわば、ショコラ版ミシュランのようなもの。当然、誰でも参加できるわけではなく、CCCから招待を受けて始めてエントリーを許されるという狭き門です。

クラブ・デ・クロッカードショコラがデギュスタシオンした5種類のショコラ。サロン・デュ・ショコラでも販売予定です!


「招待を受けた時には、正直驚きました」
実は、CCCによる格付けは7年ぶり。その1人にノミネートされたというのは、それだけでもすごいことです。
「デギュスタシオンに必要なのは、4つのテーマのボンボンショコラ。ビターガナッシュ、ミルクガナッシュ、プラリネ、そしてオリジナリティのある自信作と決まっていて、さらに自信作がある場合はもう1種類プラスしてもいいということでした」
新たに開発した3種のショコラに、自信作2種を加えた5種類のボンボンショコラでエントリーすることを決定。ショコラだけでは、自分の想いが伝えきれないのでは・・・と思い、それぞれの味作りの経緯や想いを綴ったレポートを添え、満を持してエントリー。できるだけおいしい状態で味わってもらえるようにと、スタッフの1人が遥々フランスまで手荷物にして持って行ったのだそうです。

「実際の結果は10月のサロン・デュ・ショコラで発表されますが、実はデギュスタシオンの後にメールが届いたんです。差出人は、なんとトップクラスの審査員の方。“デギュスタシオンでは全員が激賞しました。10月を楽しみにしていてください”と書かれていたんですよ」
と、嬉しさをにじませるコヤマさん。結果はまだ先になりますが、かなりいい結果が期待できそうですね!
「今日はそのボンボンショコラもありますので、ぜひ試食してみてください!」
CCCのメンバーに賞賛を受けたというショコラ。さっそく、いただいてみましょう。


クラブ・デ・クロッカードショコラ 初エントリーのショコラ



テーマ : ビターチョコレートのショコラ
es-ガナッシュノワール
マダガスカル産クリオロ種のカカオを使ったガナッシュは、フルーティさが印象的。明るい渋みと酸味の中に、凛としたクリアな果実感が広がります。口に入れた瞬間はやや弱い味に感じますが、口どけと共にグングンと濃さと深みが生まれ、香りが重なり合っていくよう。その緻密さに、日本人らしさを感じます。


テーマ : ミルクチョコレートのショコラ
es-ガナッシュオレ
キャラメルのようなこっくりとした、甘いミルク感。やさしいトーンながら、力強さを感じます。あえてビターチョコレートと同じマダガスカル産クリオロ種カカオを使用したというコヤマさん。同じ品種とは思えないほど、まったく別のキャラクターを引き出しているのは見事!


テーマ : ナッツを使ったプラリネ
es-プラリネノワゼット
ナッツをキャラメリゼした時のカリカリ感をあえて残すことで、食感にリズムを持たせたガナッシュ。ピエモンテ産ヘーゼルナッツを使用したプラリネは非常に濃厚な味わいですが、キレがあるせいで軽やかな印象を覚えるほど。


テーマ : オリジナリティのある自信作
一休
オリジナリティという点で、加えたのが先ほどもご紹介した「利休」。実はこれ、あのルルー氏に「これを作った人に会ってみたい」と言わしめた作品。デギュスタシオンでの反応はどうだったのか、気になる一品です。

スモーキー
あるバーテンダーがコヤマさんをイメージして作ったという、ラフロイグ10年とフランボワーズのカクテル。その組合せに感動したコヤマさんが、ショコラで表現したというガナッシュがこれ。カーン、と突き抜けるようなラフロイグ特有のピート(泥炭)香の後、フランボワーズの華やかな酸味がフワッと広がります。ワイルドな中にも、繊細さを感じる作品。




17回目を迎える今年のサロン・デュ・ショコラの開催は、10月20〜24日までの5日間。
すべてをフランスで作るため、一番早いスタッフは3週間前にフランス入りして、準備を始めるそうです。
日本を代表するショコラティエとして、サロン・デュ・ショコラに出展するコヤマさん。
あえて人と違う道を選び、自分らしさを貫いてきたその「DNA」に、この秋、世界が注目することでしょう!
(2011.9) 



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