2012年10月15日、「グランド ハイアット 東京」で開催された「ルイ13世を味わう午後」。
「男性の方は、ジャケット着用でお願いします」とドレスコードつきの案内が届きました。なんだか恐れ多そうなお披露目会となりそうです。
ご存知の通り、「ルイ13世」といえば、究極とも言えるコニャックの名前。
コニャックとは、フランスのコニャック地方で作られるブランデーのこと。それ以外の土地のブランデーは、コニャックとは呼べません。そして、その中でも最高峰と呼べるのが、この「ルイ13世」なのです。
さて、その「ルイ13世」を味わう会とは、いったいどんな会となるのか・・・。


バカラ製のボトルに詰められた琥珀色のコニャック。見ているだけでその歴史と味わいの重厚さを感じさせる


「ルイ13世」、その名はレミー・マルタン家が創業した1620年代にフランスを治めていた国王ルイ13世への愛敬の念をこめて付けられたそうです。
そして、なんと、「One Century in a Bottle 〜1世紀の時間が閉じ込められたボトル」なのです。
そう、これは、100年の歴史の中、3代にわたる経営者と4代のセラーマスターたちに見守られてきたオー・ド・ヴィーの結晶なのです。
特別なときのために作られた特別なコニャック、「ルイ13世」。悠久の時を感じながら、ゆっくりと味わう価値のある一杯です。
その「ルイ13世」を楽しめる今回の会は、「グランド ハイアット 東京」の「MADURO」の一室、「メゾン ルイ13世」で開催されました。


大人の夜を演出してくれる「グランド ハイアット 東京」の「MADURO」

2003年、コニャック製造業者の中で女性として初のセラーマスターに就任したピエレット・トリシェ氏。レミーマルタンに継承されてきたスタイルを守り続ける重責を担う

2003年に初の女性セラーマスターとなったピエレット・トリシェ氏が登場し、まず、ルイ13世について話してくれました。
「ルイ13世」は、フランス南西部コニャック地方の中でも最上級のグランド・シャンパーニュのみのブドウから造られます。ここは石灰質のテロワールを持ち、この柔らかな土壌に育つ“ぶどうのプリンス”、ユニ・ブラン種がルイ13世の原料となります。
このワインを、2度蒸留しますが、一度目の蒸留の際、澱とともに蒸留するのが特徴だそうです。この澱が、複雑なフレグランスと、オー・ド・ヴィーに力強さを与えてくれるのです。
でも、こうして造られたすべてのオー・ド・ヴィーが「ルイ13世」になるわけではありません。1000種類ものオー・ド・ヴィーのうち、「ルイ13世」の候補として選ばれるのは、この時点では、わずか12種類程度にすぎません。
こうして選ばれたオー・ド・ヴィーは、「ティエルソン」と呼ばれる100年以上経った古い樽に移されます。そしてセラー・マスターによるブレンド、テイスティングを繰り返しながら、40年から100年という長い熟成の時間を過ごすのです。その間、なんと20年経った頃に50種ほど、さらに40年目では300種、70年経った頃には600種ものオー・ド・ヴィーがブレンドされ、「ルイ13世」の味の完成までには、なんと1200種類ものオー・ド・ヴィーがブレンドされるそうです。これだけの数の原酒がブレンドされるのですから、味わいもその琥珀色の美しさも奥が深くなるわけです。
そして、それを見守り続けるためには、4代にもわたるセラーマスターが必要となるのです。
また、古いティエルソンは、修復をする必要があります。それを、専門の樽職人が行うのですが、次の世代のため、2、3の古い樽をつぶして修復するのだそうです。


すべては、次の世代に引き継ぐため。
今生きている自分たちのためではなく、いつもその先の世代、未来の誰かにために、日々献身的な努力と深い愛情を持って仕事を続けていくプロフェッショナルたちの集まり、それが、「ルイ13世」をコニャックの王座に君臨させ続けているのです。
トリシェ氏が語ります。
「何も変えない、変えないようにしている。
レミーのスタイルを受け継ぐ、それをつなげていく」と。
ずっしりと心に響く言葉だと思いました。


そして、いよいよ「ルイ13世」の世界へ。
初めてのテイスティングが始まります。


ルイ13世用にデザインされた重厚感のあるグラスで、
100年の重さを味わう


ひとつの文章では書き表せない。
そのつどやってくる「ルイ13世」の語りかけは、こんなふうでした。

まず、ルイ13世の声を
聞く「集中して距離を見つける」
ジャスミン アイリス
フルーティ くるみ コンフィチュール(プラム)
いちじく なつめ
樽の中はくるみの香り
スパイスのような香り
一世紀の熟成
一滴口に含んで
アルコールを強く感じる必要はない
エピス、サフラン、はちみつ、マイルドな香り
余韻の長さ



「ルイ13世」の名が刻まれたクリスタル・デキャンタは、ポール=エミール・レミー・マルタン1世が、16世紀にフランスの戦場跡から発見された質素な金属製のフラスクにヒントを得て作られました


「ルイ13世」をこんなふうに楽しんだ後は、コニャックと相性のいいショコラなど、スイーツの登場です。
この日のために「グランド ハイアット 東京」の岡崎正輝シェフが作ってくれたメニューは、
ライチクリームとフランボワーズの味の「マカロンフランボワーズ」
ヘーゼルナッツなどナッツが入ったガナッシュとキャラメリゼのコクが楽しめる「ボンボンショコラ」
酸味と甘みが広がりあう「オレンジパッション」
そしてなんといっても感動的にすばらしかったのが、「ルイ13世」を使ったガナッシュをミルフィーユ仕立てにした「エフィールショコラ」

「グランド ハイアット 東京」ペストリー部門でスーシェフを務める岡崎正輝さん

4種類のスイーツ、どれもが「ルイ13世」によく合い、スイーツとコニャックの相性のよさにびっくり


後ろに並ぶエフィールショコラの緻密な出来上がり、見えますか? ひとつひとつ丁寧に絞り出されたガナッシュをはさむのは、よくここまで薄く作れたと驚かされる食感のショコラ!


あまりにおいしかったので、思わず、岡崎シェフに「このエフィールショコラは販売しないのですか」と尋ねたところ、手間と時間、金額的にもとても商品化ができるものではないそうです。確かに、この薄いショコラの層と美しく絞られたガナッシュを見ただけでも、その技術の細かさ、緻密さが伝わってきます。
そう、これは並大抵の努力では作れないもの。この日のためだけに作られた幻の逸品ということで、納得せざるをえません。
岡崎シェフ曰く「強いもの(カカオ)と強いもの(コニャック)を合わせるのは難しい。今日はコニャックを引き立てるお菓子なので、まずほんのりと、でもしっかりとコニャックが香り、最後にカカオがやってくるような味作りにしました。ガナッシュもロースト感をあまり出さずに、香りを控えめにしました」とのこと。


100年の時間が溶け込んだ「ルイ13世」。これを口に含んだとき、おしよせるその伝統と誇り、大地と自然の雄大さ、そしてこれから先、100年後にまた違う誰かが、今年樽に詰められた「ルイ13世」を味わうのだろうという未来への希望のようなもの、すべてが感じられ、とても厳粛な気持ちになりました。
もしまた「ルイ13世」を味わいたいと思っても、そうそう出会えるものではありません。それほど高価なこのコニャックを、こんなふうに身近に感じさせてもらえたことに感謝しながら、会場を後にしました。





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